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スクラッチマン

 CHOT FRESINO

 「健康法」と一言に言っても、多種多様なものがある。例えば、ジョギングやランニング、栄養管理の行き届いた食事、睡眠時間の確保やヨガ、瞑想…キリがない。
早朝の公園で、太極拳をしている光景などもよく目にする。

 僕のマイブームというか、マイ健康法は、サウナだ。
週に一、二度銭湯に行き、サウナに10分ほど入って汗をかき、老廃物を出しまくり、その後水風呂にダイブ。これを三度ほど繰り返す。
サウナ、水風呂のループ&ループ(©️アジカン)をすることで、驚くほど疲れが取れるのだ。
 僕はこれを「サ道(サウナ道)」と呼ぶ。

 そもそも、「健康法」とは自身の健康を保つために、日常的に行われる行為や方法のことだ。

 個人的に、健康法においてポイントなのは、自身(まわりの人も)に負担なく、楽しく無理なく継続できることだと思う。

 しかし、ハマり過ぎ、打ち込み過ぎるあまり、自身の生活を極端に制限してしまったり、身の回りの人たちに負担を強いてしまうケースもある。
マズローの五段階欲求の最上位欲求、「健康欲求」(なんか違う気もする)を満たしたいが為に、健康を渇望する余り、時に人は健康盲信者に成り果てるのだ。

 有名なのは、片岡鶴太郎さんだ。
片岡鶴太郎さんの一日は深夜1時に起床、朝の5時までヨガをし、5時半から2時間かけ朝食を摂る。
ストイックにヨガに打ち込み過ぎ、残念ながら離婚という結果になってしまった。
 これが言わずと知れた「ヨガ離婚」だ。

 この、鶴太郎さんのヨガに対するストイックな姿勢にも感銘を受けたが、鶴太郎さんにも負けじと劣らない、僕が健康に対するストイックな姿勢に感銘を受けたもう一人の人物を今日は紹介したい。
一つのこと(健康法)に打ち込み、一定のレベルまで熟練、熟達するとそれは、不思議な魅力を持ち、人を魅了する技になる。
片岡鶴太郎さん然り、この人物にもそんな魅力があったのだ。

 彼の名は「スクラッチマン」。
出逢いは先述した、銭湯だ。
彼とは、5〜6回に1回の割合で遭遇する。

 初めての出逢いは、例の如く、僕がサウナに入ってる時だった。
サウナにはよく、テレビが置いてあると思うが、僕は熱さに耐えながらテレビを観ていた。

…クチュッ…クチュッ… 

僕の横2m前方からサウナで聞きなれない異様な音が聴こえてきた。

 最初は、何ぞキショい音がするな〜と思いながらも、あまり気にもとめず、テレビも面白かったから、音の方には目を向けなかった。

…クチュクチュッ…クチュクチュクチュクチュクチュッ…‼︎‼︎

 暫くすると、クチュクチュ音が勢いを増してきた。
そして、時折おっさんの「ッハァ〜…」とか、「ウッ‼︎」「ァァ〜‼︎なんていう気色の悪い呻き声も聞こえてくる始末だ。

 挙げ句の果てに、ピチャッという音とともに、液体が顔に飛んできた。
…あかん…もう、辛抱たまらん。
なんぞや?と、音の鳴すなる方へ目を向けますると、歳は50代半ば、細身の男性が、玉の汗をかきながら脚という脚、腕という腕、もう身体中を擦り(スクラッチ)まくっていたのだ…‼︎めちゃめちゃ苦しそうな顔で。
 もう、お気づきだと思うが、そう、彼こそが「スクラッチマン」だ。

 サウナの利用客は10人ぐらいいたのだが、最早誰もテレビを観ていなかった。
スクラッチマンが皆の視線を独り占めしていた。
「み〜んなの目線をいただきまゆゆ〜」
(©︎渡辺麻友)状態だ。
 その場に居合わせた誰もが、その異様な光景に、彼の奇行にドン引きしていた。もちろん僕も含め。

 皆んなからの、熱い視線を一身に受け、壇上のアイドルさながら、彼のパフォーマンスは白熱していく…
ヒートアップしたスクラッチマンのスクラッチは佳境を迎えていた。

 クチュクチュッという音とともに、スクラッチする手も、速度を上げ、滝のように汗をかき、顔も引き攣りいやに苦しそうだ。
そして遂に「はぁぁぁああ〜」という大きなため息とともに、スクラッチマンは力尽き、うな垂れた。
30秒ほど身動き一つせず、呼吸を整えていた。
呼吸が整うと、彼は何事もなかったかのようにサウナを後にした。

 僕が、半泣き顔で呻き声をもらしつつ、本当に苦しそうだが、それでも手を止めず、一心にスクラッチしまくる、ストイック過ぎる彼に興味が湧いたのは至極自然なことだった。

一体、何が彼をそこまで追い詰めるのか…。 

 ここからは僕の憶測なのだが、多分サウナで汗をかき、代謝があがった身体をスクラッチすることによって、セルライト(皮下脂肪)的なものを燃やしているのだろう。たぶん。

 そう思えば、確かにスクラッチマンは、歳の割に細い。いや、むしろ片岡鶴太郎ばりにガリガリだ。
苦行の成果がでているのか脂肪という脂肪は皆無に思える。
たぶん、体脂肪率3%とかだろう。
奇遇にも、エグザイルの平均脂肪率も3%だと聞いたことがある。ほんまかは知らない。間違ってたらごめん。
三代目JSBの「R.Y.U.S.E.I」が大ヒットし、その振り付けである「ランニングマン」が一躍有名になったが、次は「スクラッチングマン」が流行るに違いない。

 話を戻そう。
この「スクラッチ」は間違いなく、片岡鶴太郎さんが得意とする「ナウリ」と呼ばれる、身体の不純物や老廃物を取り除いて消化を促し、あらゆる病気から身を守ると伝えられている、インド式ヨガの最高の浄化法と同じ境地に位置する技だ。知らんけど。

 これはすごいものが見れたぞ、と若干テンションが上がった。
気づくと、僕は汗を飛ばされたことはすでに忘れて、彼のスクラッチを敬慕していた。
決め台詞は、

「スクラッチパワーで ここの脂肪 燃えてきただろう〜‼︎」 

キマリだ。言うて欲しい。切実に。

 しかし、ここまでは単なる僕の憶測であり、おり、はべり、いまそがり…つまり、憶測の域を出ない。
だからこそ、彼の「スクラッチ」は崇高なる健康法であると裏付けを取る為に、彼に一つだけ聞きたいことがある。

「(脂肪)燃えてますか?」 




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