見出し画像

探偵そばくん③

「みんな集まったね」

「じゃあ始めようか」

ある場所で何かが起きている

 そばくんとハルは第1のナゾを解き明かし次に向かうべき場所、Aの部屋の扉前に立っていた。

「そういえばそばくん、確認なんだけどAの部屋っていつでも開いているんだっけ」

 ハルは扉を見ながらそばくんに恐る恐る聞いた。

「確か、受付ぬいさんが開けてくれるんだった気がするよ、ハルくん」

 そばくんもぷるぷる震えながら扉を見上げ、答えた。今、扉の前にはもふもふの可愛いペンギンが扉を見上げながら2匹立っている。その景色は周りからは扉の先にいる親を待つ子のようにも、扉を開けてくれとせがむ子のようにも見えた。そばくん達が扉の前でどうしようかと考えていた所、少し離れた所から聞き覚えのある声が聞こえた。

「あれれー?そばくん?こんな所で何してるの?」

 その声の主はぬい広場の受付アルバイトをしている緑色の小さいうさぎ、ゆめちゃんだった。ゆめちゃんは掃除をする途中だったのか、手に箒とちりとりを持っている。ゆめちゃんはぴょんと駆け寄ってくると、そばくんの隣にいたハルくんに気が付いて、初めまして!と挨拶をした。ハルくんも自己紹介をして、お互いにぺこりと頭を下げた。

「事情をすぐ話したいのだけど……」そばくんは周囲をチラチラと見回した。Aの部屋があるこの通路は26と書かれた扉の先にあるのだが、現在そばくん達の他にもお出かけをしようとしているぬいぐるみが数匹ポテポテと歩いている。ゆめちゃんはそばくんが言いたいことを察したのか、それじゃあこっち!とそばくん達をぬい広場の受付ぬい休憩室に案内した。

 受付ぬいの休憩室にはゆめちゃんに案内されたそばくん達の他にも小泉を管理しているネズーさんがいた。

「ネズーさんすみません、ちょっと奥のお部屋借りてもいいですか?そばくん達がAの部屋について相談したいことがあるらしくて……」

 ゆめちゃんは休憩室の1番奥でお茶を飲んでいるネズーさんと目が合った瞬間そう伝えた。すると、ネズーさんはどうぞどうぞー、と飲んでいたお茶を片手に持ちながら奥の部屋の鍵を開けた。3匹はありがとうございます!とネズーさんにペコリと頭を下げ、丁度3匹が入れる程の小さい奥の部屋に入った。部屋にはテーブルとテーブルの4つの辺にあたる場所に丸椅子が置かれている。部屋の奥からそばくん、その向かいにハルくん、そばくんの右隣にゆめちゃんが座った。

「早速なんだけど、ゆめちゃん。Aの部屋を開けて欲しいと僕たち思ってるんだ。これを見てくれる?」

 そばくんはゆめちゃんが椅子に座り、さてさてと言い始めるだろうタイミングで話し始めた。ハルもそれに合わせて自分の家に届いていた解き終えたナゾをテーブルに広げる。すると、それまでそばくんを見ていたゆめちゃんが左を向き、ハルの手元を見て目を輝かせた。

「わわ!何これすごーい!本当にこういうのあるんだー!!楽しそうー!これどういうナゾだったの?ハルくん、教えて教えてー!」

 ゆめちゃんはキラキラした目をハルに向けて、ハルからの解説を待っている。ハルはちらっと目の前に座っているそばくんの顔を見た。するとそばくんも是非話してあげてよ!という顔をしていたため、ハルはゆめちゃんにナゾの解説をした。所々、そばくんがゆめちゃんにもより理解しやすいように補足を入れたが、ハルの説明はその場にいなかったゆめちゃんにもそのナゾを解き明かしていくワクワクが伝わる短い物語の朗読のようだった。

 ゆめちゃんはハルの説明が終わるとワクワクが収まらない様子でバッと椅子から立ち上がり、ちょっと待ってて!と、ネズーさんがいる部屋に戻っていった。

 ゆめちゃん行っちゃったね、とそばくん達は顔を見合わせてポカンとした後、ふふっと笑い合った。

「ゆめちゃんがあんなにもはしゃいでるなんてね!なんだか新しい1面を見れて嬉しいね!」

「僕も今日初めて会ってお話したけど、あんなに目をキラキラさせて僕のお話を聞いてくれたのは初めてで、なんだか僕の心がふわふわしてるよ」

 ゆめちゃんが休憩室から戻ってきたのはそばくん達がゆめちゃんのことを話し終えて、空き時間に簡単に遊べるミニゲームで盛り上がっていた所だった。

 ゆめちゃんがただいま!と言ってそばくん達の元へ戻ってくると後ろからネズーさんが簡単なおにぎりを持ってきてくれた。朝から色々とあったが今はすでにお昼を回って午後1時になっている。受付ぬいの休憩室に訪れてから1時間ほど経っていた。

「私はAの部屋の鍵を本来は自由にできないから、定期的にお部屋のメンテナンスをしているネズーさんにお願いしてきたんだ。今回はゆめちゃんの熱意に応えたいからって、鍵を渡してくれたんだ」

 3匹はネズーさんからもらったおにぎりをもぐもぐと食べながら、ゆめちゃんがいかにしてAの部屋の鍵を預かるに至ったかの話で盛り上がった。初めて会ったハルくんともすっかり打ち解けて、ホワホワとした雰囲気が部屋に漂っていた。

「もし良かったらなんだけど、私もそばくん達についていっちゃだめかな。というか、鍵の管理は私に任せるよってネズーさんから言われてるから、できればついていきたいんだけども……」

 ゆめちゃんがそう伝えたのは、そばくん達がおにぎりを食べ終えてAの部屋に再出発する準備を整えていた時だった。ゆめちゃんは断られたらどうしようと不安だったのか、少し下を向きモジモジしていた。そばくんとハルは顔を見合わせ、同時に頷き、ゆめちゃんの手を握った。

「ぜひぜひ、よろしくだよ!一緒に行こう!」ゆめちゃんはその声を聞いて、笑顔でぴょんっと跳ねたのだった。

続く

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?