かいぬしの夏の思い出
まだ昼の暑さが残っている、ある日の夜。
お気に入りの人参柄のパジャマを着たまんじろうが、カバンに荷物を詰めていた。
先日ポンチョと海に行く約束をしたのだが、ついに明日がその日。
まんじろうはいつも以上にそわそわしていた。ちなみにポンチョは、枕元に荷物を置いて、すでに眠りについてしまっている。
「うわー!いよいよ明日だよー!一年ぶりの海!とても楽しみ!綺麗かなー?キラキラしてるかなー?」
まんじろうは自分の荷物をまとめ終えて布団に入ってはいるが、目はキラキラと輝き、可愛いお口は止まらない。
こうなると中々眠るのが大変になる。
しかし、明日は朝早くに出発するためなるべく早く眠りにつかなくてはならない。
そのことを知っていたかいぬしは、まんじろうにある作戦を行うことにした。
「まんじろう、一回お布団から出て一緒にホットミルク飲もうか。まんじろうにはハチミツ多めにいれてあげるよ。」
するとまんじろうは、うん!と言いながらお布団を出て、キッチンに向かうかいぬしの後をついていった。
かいぬしが作ったハチミツ多めのホットミルクを飲みながらまんじろうは、明日の楽しみにしていることを話し始めた。
浜辺での貝殻集め、浜辺で思いっきりはしゃいでやるビーチバレー、キラキラ輝く海をぼーっと眺める…。
この間ポンチョと決めたやりたいことリストに新しく追加していたようだった。
ひと通り楽しみにしていることを話し終わったようだが、まんじろうはまだ眠くない様子で、また別の話を始めた。
(楽しみなことがある時は中々眠れないものだからね。こうなったら、とことん話を聞いてあげよう。)かいぬしは、覚悟を決めてまんじろうの話に耳を傾けた。
まんじろうは相手に興味を持ってもらえるような話し方をする。つまり話し上手だ。
いつもぬいぐるみの世界にある不思議なことをまんじろうに聞くと、とても楽しそうに話してくれる。
そしてかいぬしは、ついついたくさん質問してしまうのだ。
「ねぇ、まんじろう。海に行くなら日焼け対策しっかりした方がいいよ。予防できるもの持った?」
するとまんじろうは、たしかあるよ!と言うとイスからよいしょ!と降りて寝室にカバンを取りに行った。
その間かいぬしがテレビでニュースを静かに見ていると、まんじろうがカバンを持ってキッチンに戻ってきた。
「んーとね。確か、コレとコレとコレ!」
まんじろうはそう言うと、カバンから3つのスプレー缶を取り出した。
そのスプレー缶にはパッケージなのか、大き目の文字が書いてあった。かいぬしはそれを手に取りゆっくり読み上げた。
「なになに…。アオクナール、アカクナール、クロクナール。」まるで人間世界の塗り薬のような名前である。
まんじろうは再びよいしょ!と椅子に座り、3つのスプレー缶を自分の前に綺麗に並べた。
「えっと、これが日焼け止めだよ!今年は3色買ったんだー!ポンチョは何色が好きかなー?」
まんじろうはウキウキしているのか、耳をパタパタとさせている。
一方、かいぬしは、(日焼け止めなのに、クロクナールを使って黒くなったら意味がないのでは?)と思っていた。
するとまんじろうは、忘れてた!これも必要なんだった!と言ってカバンから、よく海で見かけるパラソルを出した。赤や青、緑に黄色、かなりカラフルだ。
「さっきの日焼け止めを吹きかけて、このパラソルの中にしばらく入ると好きな色に染められるの!日焼け防止もモフ毛染めも簡単にできるよ!」
かいぬしは、まんじろうのこのセリフで理解した。さっきのスプレーは日焼け止めの機能を果たしつつ、モフ毛を染める薬みたいなものだった。パラソルに入らない場合は、モフ毛は染まらず普通の日焼け止めとして使える。
まんじろうは、続けて一枚の写真を見せてくれた。
「これ、去年の海の写真なんだけど、友達のパンダ君は白黒はっきりさせたいからって、この年は真っ白に染めてたよ。今年は黒かな~。」
一連の話を聞いてかいぬしは、疑問に思ったことを聞いてみた。
「ねぇまんじろう。染める方法は分かったんだけどこれってどうやって元に戻るの?なんだろ…モトニモドールみたいな薬とかがあるの?」
まんじろうは、モトニモドールって面白い名前だね!と笑った後、正解を話してくれた。
「実はこれ、海に入ったり水を浴びるとすぐに取れるんだ!だからみんな日焼け止めを吹きかけたら先に海で遊んでるよ!後は好きなタイミングでモフ毛を染めてるんだ~。落とすタイミングも自由だしね!」
とてもわくわくする話を聞いたかいぬしは、とても良いものがあるんだね、とまんじろうに笑いかけた。するとまんじろうは、おまけの話があってね、とさっきの写真をもう一度見せてくれた。
「さっきのパンダ君の後ろに虹色のうさぎちゃんと、黄色と黒の2色になっちゃってる子がいるでしょ?
これ、長い時間パラソルに入りすぎたり、パラソルが風でくるくる回りすぎたりすると、こうなっちゃうんだ~。この二人はもはや楽しんでたけどね!」
まんじろうが教えてくれた二人は、確かにすごい奇抜な色になってしまっていたが、とても楽しそうにボールを追いかけていた。
その写真にはまんじろうも写っていて、いつも見ているモフ毛よりもこんがりと焼けていた。まるで、美味しそうな食パンみたいな色合いだった。
このまんじろうも、チャイロクナールを使ったのか、かいぬしは気になった。
「この写真のまんじろう、食パンみたいになっているけどパラソルで染めたの?」そう質問すると、まんじろうは恥ずかしそうに答えた。
「実はこの時、日焼け止めを吹きかけるのを忘れてて、普通に日焼けしてるんだ…。ままにはバレないようにごまかしてたんだけどね。元に戻すの大変だった!今だから言える秘密だね!」
そうだったのか、全く気が付かなかった。とかいぬしが言うのと同時に可愛いモフモフのお口から「ふわぁ~」と欠伸がでた。ようやくホットミルクが効いたようだ。
じゃあ、そろそろ寝ようか、可愛いお布団が待ってるよ。と、かいぬしはまんじろうの手を握りながら寝室に向かった。
まんじろうは、その後すぐにむにゃむにゃと寝言を言いながら眠りにつき、次の日の朝元気よく起きた。
「さぁ、ポンチョ!いよいよだよ!忘れ物ないかな?」まんじろうが自分のカバンを持ちながら元気よく質問する。ポンチョは昨日の夜準備した荷物を既に抱えていた。
「もう、ばっちりだよ!!早く行こう!」ポンチョは待ちきれない様子で、ぴょんぴょん跳ねている。
かいぬしは、昨日の夜のまんじろうの様子を思い出しながら、楽しそうにぴょんぴょん跳ねるポンチョを見ていた。
(素敵な楽しい思い出ができるといいね!)
かいぬしは、そう思いながら大きな声で「行ってらっしゃい!」と送り出したのだった。
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