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はじまりの終わり

 20221007、ここから始まった。


 AとBの扉をそれぞれ鍵を使って開けて、


 AとBの部屋にあるりんごと蜜蜂の燭台に、長めのろうそくを置いて火をともした。


 


 朝になれば、ぬい広場からそれぞれの部屋に向かうお友達が訪れるだろう。


 私たち受付ぬいは、迎える側になる。せんじろう君と一緒にそれぞれの部屋を掃除して、明日の朝に向けて解散した。



 家に着くと、今日までに起きたことを振り返っていた。


 突然、夢で不思議な声からお願いをされてその日の夜に招待状が挟まっていて、まさかのネズーさんが鍵職人で、鍵を預かって、今日扉を開けた。




 ここまでの出来事だけでも夢のようなのに、明日から楽しいイベントが始まるというのが不思議で信じられない。

 でも、首から下げているネズーさんから預かったこの鍵は本物だ。



 「寝れるかな…。」


 私は普段眠りにつくまでの時間が短い、寝ることが得意なぬいなのだが、今日はあまりの出来事に興奮して布団に入っても眠ることができないと感じていた。



 こんな時にはホットミルクが1番。温かい飲み物で体の芯を温めて、落ち着いて眠りにつくのだ。


 そう考えて冷蔵庫に手を伸ばした時、玄関のドアから声が聞こえた。


「こんばんは、ゆめちゃん。まだ起きてるかな?」


 この声はネズーさんだ。一体どうしたのだろうか。明日からのイベントのことについて追加の案内が届いたのだろうか。とりあえず開けなければ。


「はい。まだ起きています!今開けますね!」


 私はパタパタと急いでドアに向かい扉を開けた。そこには、寝る準備を済ませたネズーさんがいた。少し薄着の様子だった。


 「ネズーさん。こんばんは!どうぞ入ってください!あっ、良ければホットミルク飲みますか?丁度作るところだったんです。」


 ネズーさんは、ありがとう、頂くね、と言うと近くの椅子に腰かけた。







 「Zの部屋。中を見たことはある?」


 ネズーさんは私の手からホットミルクを受け取りながら唐突に聞いてきた。追加の案内についてではなさそうだ。

 そして、Zの部屋。仕事の終わりに全ての部屋を確認するので、中の様子は把握している。開く扉であればだが。



 「Zの部屋は、これまで数回、中を見たことがあります。開く時とそうでないときがあるので、確かなのかは自信ありません。」


 私は正直に返事をした。ネズーさんは私の話を静かに聞いていた。


 「それで、どうだったかな?」


 ネズーさんが再度私に質問をした。私は間違うのが怖くて俯きながら答えた。


 「何もない部屋でした。空っぽでした。荷物も何もない部屋です。」



 本当に何もない部屋だった。誰も何も入れないのか。荷物の出し入れ用なのだろうか。それにしても、なぜ開く時とそうでない時があるのだろうか。

 私はそう思いながらネズーさんの返事を待った。



 「正解だよ。Zの部屋には何もないんだ。そして、その部屋の持ち主も何もない。」


 部屋の持ち主も何もない。その言葉は、少し寂しそうにも聞こえた。



 「Zは、終わることを知っているから何も持たないんだ。」

 「でも、はじまることの楽しさも知っているんだ。」

 「だから、AとBの扉に招待状を挟むんだよ。」





 私は、20221014の終わりと共に、


 AとBの部屋の短くなったろうそくの火を消して、2つの扉の鍵を閉めて終える。


 終わりを知るZのはじまりを。


 また、はじまることの楽しさのために終わるのだ。



ゆめちゃんの日記より

『はじまりの終わり』



 


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