事前通達!
2023年3月30日(木)
美術展に入る前、私は改めてノコ(娘小3)にいった。
作品の周りにある線のなかに入らないこと。
作品に近付き過ぎないこと。
美術展では踊らないこと。
「たとえノコさんは作品に触るつもりはなくても、周りの大人がヒヤヒヤすることはしないでね」
「わかってる」
「ママはノコさんが作品に触らないことは知っているけど、ノコさんのことを知らない人は踊りながら作品に近付いたらそのまま触っちゃうんじゃないかな、って心配になるの。わざとじゃなくてもヨロヨロってなるかもしれない。
会場でたくさんの知らない人たちの前で、知らない人に注意されるのは嫌でしょ」
「ヤダ」
ノコが睨むので、思わず苦笑してしまう。
「だよねぇ。だからさ、気を付けようね」
前髪をあげたノコの形のいいのびやかなおでこをそっとなでる。
私は美術展、ギャラリー巡りが好きだ。
いつもはむーくん(夫)を含めた3人で行く。作品に夢中になると、ついノコの動きに気がまわらなくなるからだ。ノコの足はいつも軽やかにステップを踏んでいる。気になる作品があれば、ぐいっと近寄る。触らないと思っていても子どもゆえ、興味が勝ってつい手が伸びるかもしれない。ふらりとバランスを崩して転ぶかもしれない。ノコの好奇心を邪魔したくないが、”かもしれない”を考えると目が離せない。
ノコはむーくんにまかせて、私は私の思うままに観て歩く。そのための3人。
だが、観たい美術展は今日まで。むーくんの次の休日を待てない。
はじめて、ノコと2人。
事前の声掛けで、ノコは美術展の監視員に注意される姿を想像できたのか、今日は踊らず、挑戦するかのように作品に近付くこともなかった。
でも緊張しているわけでなく、楽しそうだ。
「ママママ、これはどの季節の感じがする? 私は冬かなぁ。だって雪っぽいじゃん」
「ママママ、これとこれだとどっちが好き? パパにあげるならどっち?」
「ママママ、うわぁ~、これキモイよ!」
「ママママ、これ何でできてるの? どうやって作るの?」
絶え間なく喋る。そして、小鳥のように次から次の枝先――作品へとチョンチョコ飛び移る。
正直、うるさくて作品と向き合うことなんてできない。
助けて、むーくん! やっぱり私にはむーくんが必要! 思わず心のうちで叫んでしまう。
でも、ノコが怒らないと嬉しい。
嬉しいから私も饒舌になる。言葉を返してしまう。
「ノコさんには雪みたいに見えるんだねぇ。ママには白い光っぽく感じるなぁ。春かなぁ」
「パパにあげるなら? うーん、こっちかな」
「ええええ、ママは好きだな。ノコさんはどのへんが気持ち悪いの?」
「これは版画だね。図工で紙版画やったでしょ。同じふうに紙でなくて木でやってるんだね」
ノコも私も機嫌を損ねることなく、美術展を2つ、ギャラリーを2つ観ることができた。
満開を少し過ぎた桜を見上げながら、上野公園から谷中霊園を抜け、日暮里駅まで歩いた。風がなくとも花びらがちらちら、ちらちらと舞い落ち、道の端にたまっている。
「雪みたい!」
ノコが軽やかに花びら蹴り上げた。
美術展に入り、ノコの動きを見てから注意するのではなく、入る前、ノコが怪しい動きをする前に気を付けてほしいことを伝える。
同じ内容であっても、変えられない過去、やってしまったことを咎められるより未来を気を付けるよういわれるほうがノコも受け入れやすいようだ。
予定は未定で、状況はいろいろ変わる。
ノコと2人きりの外出でそんな先々のことを見越して動くのは、結構しんどい。
それでも、ノコが新しい経験をへそを曲げずまっすぐ味わえるのなら。
これからも事の前に伝えてみよう。
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