好きなもんは好きなんだ。「ナイトライダー」!
#20231102-277
2023年11月2日(木)
半世紀生きてきたので好きなTV番組は、思い出も重なってたくさんあるけれど、私の「好き」を具現化したのはなんといってもこの番組だ。
アメリカの特撮ドラマ「ナイトライダー」!
今も私同様、根強いファンがいるようだから、私と同世代の人なら知っている人もいるだろう。
TV放送当時、私は中学3年生。
父の転勤で、地方から東京へ転校した私は受験校を一から見直さなければならなかった。地方にいたときは通える高校はほんの数校。そこから偏差値に見合った高校となると、一校しかなく、選ぶまでもなかった。
そんな環境から東京へ。高校の数は公立、私立、山とある。第二次ベビーブーム世代の私は同学年の生徒数が多いーーつまりライバルもたんまり。まさに受験戦争だった。放課後は毎日のように学習塾通い。ビデオデッキがなかった我が家は、見たい番組はリアルタイムで見るしかなかった。
塾からの帰り道、「ナイトライダー」見たさに家まで走りに走り、TVの前に座り込んだ。
どんなに走ってもオープニングに間に合わなかった。
その悔しさったらない。
世の中、正義と悪にきっちり二分できるわけではないと気付きはじめた年頃だった。立場が変われば、違う考えがある。その多様さにちょっと疲れてしまい、勧善懲悪というわかりやすく、胸がすくストーリーにも救われた。
私が心奪われたのは、主人公のマイケル・ナイトではなく、彼の相棒である夢のスーパーカー。
ナイト2000(Knight Industries Two Thousand)。
通称K.I.T.T.。
私は恐れ多くて「K.I.T.T.」といえず、ずっと「K.I.T.T.さん」と呼んでいる。
K.I.T.T.さんは車であり、同時に搭載された人工知能でもある。人語を解し、礼儀正しく、ときに皮肉めいた台詞まで吐く。マイケルとの息の合ったやりとりは軽快でくすりと笑ってしまう。
男性にしては高めの甘い声ーーそこにほんの少しだけ低音が混じるーーが耳に心地よくて、吹き替え者の名前を意識したのもこの番組がはじめてだった。
好きが高じて、自分でも音声というものが作れないか、喉の作りから声帯のような形を変えられる穴を作り、空気を吹き込めば・・・・・・なんて夢想した。今のように百円均一ショップもなく、工作の材料ひとつ買うにしても結構金額がかかる時代だった。家にある厚紙や端材をかき集めて、なんとかしようとしたが一声でも日本語に聞こえる音は出なかった。
私はもうK.I.T.T.さんに惚れまくった。
こんなになめらかに周囲と会話をしているのに、「私には感情というものがありません」といい切るK.I.T.T.さん。
そうなのかもしれない。
単なるプログラムで言葉に反応しているだけかもしれないがーーそれは今話題のChatGPTなどの生成AIにも通ずるが、その言葉にさえ人と機械の越えられない一線、共有できない淋しさが漂う。
人間なんて、逆三角形に並ぶ3つの黒丸があれば、目2つに口と認識し、感情移入できる生き物だ。会話が成り立てば、そこにどうしても感情を見出してしまう。
GM社のポンティアック・ファイヤーバード・トランザム。
K.I.T.T.さんのベースとなる車体だ。車に詳しくなかったが、これは覚えねばならない、と呪文のように繰り返した。
K.I.T.T.さんのラジコンカーが市販されていると知れば、誕生日プレゼントに親にねだった。届いたK.I.T.T.さんは、日本語ではなく英語を話し、声は憧れの野島昭生さんではなかった。日本語の声が大好きだったので残念だったが、K.I.T.T.さんの特徴であるフロントバンパーの真ん中を左右に点滅しながら流れる赤いライトを好きなだけ眺められるので、よしとした。
もうそれだけで幸せだった。
入れ込みはしたが、私は「ナイトライダー」をきっかけに音声合成やAIの道に進んだわけでもなく、声優という職業を目指したわけでもなく、音声切替でドラマを原語で視聴し英語が達者になったわけでもなかった。ただただ機械が話し、感情のようなものを持ったのに人との間に越えられない壁にぶつかる。そんなシチュエーションにもだえる大人になった
私の人生の転機にはならなかったが、「ナイトライダー」はあの受験戦争のなかで私の愉悦だった。
もうそれで十分。
K.I.T.T.さまさまだ。
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