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生活に工芸があって当たり前な社会に #作り手インタビュー vol.1 Kiwakoto(2/2)

from Magazine インタビューシリーズでは、fromで取り扱うプロダクトの生産に携わる方々にものづくりの背景をお伺いしています。

今回はお花を象ったテーブルウェア等を展開しているブランド『Kiwakoto』(キワコト)の 株式会社A・STORY 吉村さんにご登場いただき、前編では製品がつくられる過程にフォーカスしてお話を伺いました。

後編となる今回は、「ディレクター」のお仕事の中身やそのやりがいについてお話しいただきます。


こちらのインタビューは音声でも配信しています。
Apple:https://apple.co/3Lldthv
Spotify:https://spoti.fi/3xVuef3


聞き手:yuki shinohara / megumi endo / yui sakida (from by nae Inc.)


工芸士の手仕事と世の中をつなぐ、ディレクターの仕事


篠原 ものづくりに携わる方がどういう仕事をしているのかということも世間のみなさまにお伝えしていきたいと思っているんです。今日はせっかく吉村さんがいらっしゃるので、吉村さんのお仕事について根掘り葉掘りお伺いしていきたいなと思っています。「ディレクター」にあたるんですよね。


吉村 そうですね。

基本的には何でもやるんですけれども、ブランドなので、商品の企画をして、どこで作るかっていうことを考えて形にしていくのが仕事です。それらものづくりに携わる全般の仕事とそれを世の中に届ける営業の仕事全般と、それをより多くの人たちに知ってもらうための広報活動もやっています。


篠原 吉村さんがお仕事をされてて、「この能力が一番必要だな」とかってありますか。


吉村 やっぱり1番必要な能力は、人を動かす力というか。我々はやっていただく方がいないと商品が世の中に出せないという立ち位置で仕事をしているので、パートナーさんにいかに「君たちとだったらやってもいいよ」と思っていただけるか。共感を生むことであったり、「君たち頑張ってるから一緒にやりたいよ」って思ってもらえることであったり、企画案が面白いとか、やりがいを感じてもらえることを提供する力が、我々に求められるスキルだと日々感じていますね。

篠原 なるほど。前半部分の話もそうですけど、吉村さんとお話すると熱い思いを浴びてこちらもだんだん感化されていることがあるので、そういうのがまさにお仕事に生かされているのですね。普通の1日の仕事でどんな動き方してる、といった点もお聞かせいただけますか。

吉村 少人数なのに一つのブランドでやってることの幅が広くて、今日の朝は東京からお越しいただいた旅行代理店の方と、京都の工芸についていろいろな方々に触れていただくためのコンテンツを一緒に考えたり、我々がやっている一点物を誂えられる「お誂え」のサービスを体験してもらうためにどういう座組でやっていこうかなどお話しました。その横で、BMWさんの関西限定車の発表に向けて、カメラマンに車の撮影をしていただいたりしています。


篠原 先ほどからZoomの画面がフラッシュしてるのはそういう理由だったんですね。


吉村 そうなんです。この横で実は車をずっと撮影いただいている状況でして。

篠原 フラッシュがたかれたので何か撮影されてるのかなと思っていたんです。


吉村 今日は店舗を休みにして、打ち合わせと、こういう撮影をやらせていただいています。


篠原 いろんな業種の方といろんな繋がり方ができるのは楽しそうですね。


吉村 そうですね。普通にやっていたら出会えない方々と出会えるので、面白い仕事だと思います。
お客さまも何をやられてるかわからない方々と徐々に仲良くなっていくと「実はこの会社のオーナーなんです」みたいなことがあったり、いろんな出会いがあります。工芸を軸にしているのでやはり作り手の方とのお話が一番興奮する部分はありますけれども、それを買ってくださるお客さまにものづくりの過程をお伝えしていくのも非常に楽しいです。


篠原 いいですね。すごく面白そうです。



篠原 他にも仕事していて楽しいこと、嬉しいこと、やりがいを感じる部分はありますか。


吉村 やはり工芸士の方から「こんな仕事の機会をくれてありがとう」という声をもらうのが一番嬉しいです。

例えば車の内装をやり始めたときに、「俺らも車に自分の技術が乗ったら面白いなって元々言っていて。でも20年30年思っていても一切形になってなかった。それを形にしようと本気でやってる方から仕事を依頼してもらえるのはすごく貴重な機会だし、やりがいを感じるので、何とか期待に応えていきたいと思います。」というようなお声をいただいたことがありました。工芸士の方が実はやりたかったことを我々が出ていくことで形にできて、「チャンスをくれてありがとう」というお声をいただけるのは、一番やりがいに感じています。

篠原 新しい仕事や価値を生み出して、そういうフィードバックをもらえるのは嬉しいですね。


吉村 嬉しいです。今までの延長線上でのものづくりではなく、誰も歩いたことのない道を一緒に歩いてくださるのはやはり大変なことだと思いますし、我々にとってもチャレンジングです。誰も答えを持っていないので正直失敗も多いですけれども、時間をかけるとやっぱり形になっていくんだなっていうのはすごく感じますし、一朝一夕ではできない、積み上げの結果なんだなと。それはお客さんとの関係性もそうですし、製造してくださる工芸士の方々との関係性もそうです。一つ一つ積み重なっていて、無駄なことがないと感じられるようになってきたのはありがたいことだなと。




篠原 うん。うん。ありがとうございます。とても素敵な話で、聞いていて嬉しくなりますね。今後どんな分野に広めていきたいなど、展望はありますか。

吉村 我々がこれを重視してやっているにもかかわらず、このコロナで『ハレの日』と言われる日がかなり減ってしまいました。家で過ごす時間が増え、家で使うものにお金をかけられるようになったことで、潤っている分野もあります。

けれどやはり、お茶会や結婚式のようなハレの日に着ていく着物などの分野では、「吉村くん、やっぱりハレの日なくなってきついわ」「年も年だし廃業しようと思う」っていうことをおっしゃる方々もいらっしゃって。工芸を何とか次の世代に残していきたいという思いで、残すべき価値は何なのか、抽出再編して未来へ届けるというミッションを掲げて日々業務に従事をしていますが、届かないところはたくさんあり、年々工芸士の数は減っていっています。


残したいと思ってる分野に力が及んでいないのは非常に悔しいです。その中で、今やっている車や、fromで扱っていただいている器を通して、自分たちが立ち上げたブランドをまず日本の皆さんに認知していただきたいと思っています。

生活の中に工芸というものがあって当たり前な社会にしたい。そのためにも品質の高いものづくりや、工房に足を運んだり自分が言ったものが形になるというこれまでない経験の提供を通じて、「工芸って面白いね」「人が作り出すものってやっぱり違うね」と思っていただき、工芸に携わる人の数がこれ以上減ることのないように貢献していきたいと常々思っています。




篠原 わかります。僕も茶道をやってるのですが、お茶会が急に一切なくなってしまったんです。みんな内心やりたいとはめちゃくちゃ思ってるんだけど、全然できていないっていう現状があって。大切な文化をみんな守りたいと思ってるけどできない、というところがありますね。


吉村 本当におっしゃる通りで、毎年お茶会に着ていく着物を新調されていた方々が、お茶会がなくなることによって新調する必要がなくなる。イコール発注しない。そういう人たちが発注してくれていたからこそやれていた人たちが、お茶会が一つできなくなるだけでこんなにも需要がなくなるのか、と大打撃を受けている。

家で過ごす時間は増えたとは言え、やはり食器を大量に使ってくださってる飲食店やホテルが潤わない限り、食器産業も厳しいので。ウィズコロナの時代にそこに向けて「工芸」をどうマッチさせていくのかというところは突き詰めていかないといけないと思います。

形を変えてでも、なんとか技術を残すというのは、結構シビアではあるものの、やっていきたいことですね。


篠原 コロナがなくなるのは難しいと思うので、ウィズコロナ前提でできることを次々考えていくしかないのかなと僕も思っています。ちょうど僕の茶道教室も2年ぶりに再開して。復活の兆しというか、みんなウィズコロナでできるようにしていこうとここから徐々に戻りそうな感じもあるので、吉村さんのご活躍も期待してっていう感じですね。我々も頑張りたいと思っています。


篠原 弊社のメンバーからも聞きたいことはありますか。


遠藤 お話を伺っていて民藝・工芸のことを考えてしまって、コロナ禍でやっぱり皆さんより生活を大切にされ始めてるんじゃないかなと。私達もそういったことを一緒に考えて、いろんな素敵なものを作れたらと思いました。


吉村 出会ってお話させていただいて、目指す世界観が同じで、商品を扱っていただいて、インタビューまでしていただいて。やっぱり多くの方々が心地よい暮らし、作り手、自然、延いては自分自身に思いを馳せながら過ごす時間が、より良いものになっていけばいいなと本当に思います。fromさんと一緒に価値を提供できればと思います。

崎田 量産と手仕事や、工芸を絶やさずいかに魅せるか、などバランス感覚が問われるお仕事なのかなとお伺いして思いました。職人さんと仕事をするときに、どういうものが職人さんに共感されやすくて、逆にどういうものは刺さらないといったことはありますか。


吉村 常に試行錯誤しながらやっているのが正直なところで、「これは遠まわしに断ってるのか?」というリアクションのときも結構あります。「やりたいのか断りたいのかどっちなんだろう」というところを見極めるのは難しいです。でも「何のためにこれをやってるのか」「なぜここに来たのか」の"WHY"の部分をきちんと伝えていくのが重要かなとは思っていて、取り組むようにしています。

職人さんはどのようにかたちにするかの"How"の部分はお持ちなので、そこはこちらがとやかく言うところではないと思っていて、基本的には「なぜ我々これやりたいのか」をきちんと伝えて、いかに共感してもらえるかに重きを置いています。


崎田 確かに職人さんは方法論はすぐご存知ですもんね。

吉村 はい。60歳で若手、80歳でやっとベテラン、死ぬまで現役っていう業界と聞いているので。


篠原 職人系はどこもそんな感じですよね。


吉村 すごいなと思います。「俺まだ若手やねん」みたいな。

篠原 デザイン業界もちょっと似たようなところがありまして、年齢は職人さんよりは低いですけれど、30代僕ぐらいの世代が若手ですね。4、50代が中堅。60代でちょっとベテランになって7、80代ぐらいでやっと大成していくみたいなところがあったりするので、専門職はどこも似たような感じかもしれないですね。


篠原 お伺いしたかったことをたくさん聞けたので、すごく楽しかったです。

ありがとうございました。


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