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白Tと自意識と
白T。白いTシャツである。
俺ら世代だとどうだろ、吉田栄作かな。尾崎豊かも知れない。加勢大周もかな。爽やかの代名詞。洗いざらし感。
俺は長い間白Tを着なかった。たいてい紺かグレー。どこかで白T似合わないって感じてるところもあったけど、着ない理由は他にもあった。
12歳くらいかな、夏だったと思うな、汗ブルブルかいて帰宅したとき玄関先で婆さんが言った「くさいくさい!」のひとことが深く突き刺さった。
当時の俺は婆さんと二人暮らしだったってのもあって、婆さんの言うことは絶対みたいに感じてたフシがある。本格的な反抗期が始まる前だから余計に深く突き刺さった。
別のある日婆さんは言った。「お前はワキガだ」。そう言って洗濯物を畳みながら俺のTシャツ、Tシャツの脇の部分を指差して見せた。「黄ばんどるじゃろう」。
これが決定打。
Vanっていうロールオンタイプの制汗剤を使い始めた。自分の体臭が気になって気になって仕方なかった。黄ばみが目立つ白い服は極力着ないようにした。体育の授業さえなければ体操服着なくていいのにな、とか。
上京して成人して、思春期の頃のようなストレスを感じることはなくなったけど制汗剤は毎日使ってた。12歳からだからかれこれ40年。
50歳過ぎていろいろな呪縛から解放されるに連れ、俺のワードローブに白い服が増えた。少しずつ。
白いTシャツを着てたある日のこと、「くわちゃん白いの似合うね」って言われて。俺にとっては絶賛だった。ありがとう。
正直俺もそう思ってた。着てて気分がいい。よく似合ってる。
絶賛を素直に受け止めた。白Tの出番を増やすと同時に、制汗剤からも卒業しようと決心した。なんかあったらまた入学すればいい。
自意識というのはこうして変化していくのだね。自意識が変わるということはつまり、世界が変わるということでもある。人生は案外と劇的である。
世界のゴキゲンが増えるといいなって考えたりしゃべったり書いたりしてます。ありがとうございます。