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数学Ⅰを何故学ぶのか?(高校数学)


役に立たない数学?

本記事は高校生、または一般の社会人向け、教育に携わる人向けの記事である。
数学は役に立たないと思われがちだが、(現代の高度な純粋数学に入るまでは)数学の歴史は科学の歴史であり、科学の歴史は数学の歴史である。また実は現代数学も以前密かに思われていたような「数学は数学の発展にのみ役に立つ」という考えから脱却を始めて久しい。数理科学の応用は多岐に渡り、例えば現代のトレンドである機械学習(AI)やデータサイエンス(※「21世紀における最もセクシーな職業」と呼ばれ、日本でもデータサイエンス学部が近年複数設立されている)は統計学を基礎として高度に数学的であり、実学的である。特に確率統計の分野の社会的需要は目覚ましく、アクチュアリーやクオンツという一般的な高校生は知らないであろう職種は数学科の一般的な能力よりも数学が求められ、その難しさ故勿論待遇も良い。人手不足であり近年人気が最も高い職種であるITエンジニアは、実務的なWebエンジニアこそ数学の能力が求められることは殆ど必要ないが基礎理論として数学に裏打ちされている事が多い。例えば関数型言語が圏論のモナドという概念と密接な関係があるのはよく知られているものの、圏論をよく知るには少なくとも(代数学に興味がある勤勉な)数学科3年生程度の能力は必要だろう。数学が役に立たないのは今や純粋な数学研究者か数学科の純粋な学びから慣性のまま進んでいるタイプの趣味勢くらいなものであり「役に立たない事にこそ価値がある」や「美しいから学ぶ」という(確かに存在した)考えは今は昔になりつつある。
前置きが長くなってしまったが本記事では主に高校生向けに数学ⅠAで出てくるジャンルまたは概念の必要性を簡単に(※目的は現在数学概念の必然性を感じておらず困り感がある高校生向けなので深く論じるつもりはない。深い洞察は私の他記事を読んでいただきたい)論じようと思う。

1.数と式

展開と因数分解

$${x^2 - 1 = (x + 1)(x - 1)}$$
という式で左→右に変形することを因数分解、右→左に変形することを展開と呼ぶ。$${x}$$は変数と呼ばれ、上記式を打ち出した瞬間には確定したくない数を文字として置き換えている。即ち数が確定していないという事は$${x}$$にどんな数でも入れてOKという事を意味しているので、確定した数(※例えば3)だと思っても問題ない。さて因数分解の価値は数空間の式の次数を因数として下げられる事にある。つまり$${x^2 - 1}$$は次数として2だが、$${x \pm 1}$$は次数として1である。これは式をより単純なパーツに分解できる事を意味している。とは言っても数というのは初等的だが抽象的なので因数分解の価値がイマイチ分からないかもしれない。例えば高い次元に存在する個人の能力があるとしてそれを教科という各変数の得点(※数学80点、理科75点、国語50点、英語60点)に分解するというのは因数分解的である。更に統計学ではこの分解をより本質的な因子(※例えば理系能力、文系能力)と呼ばれるものの分解として解析する事がある(※因子分析や主成分分析と呼ばれる)。この例の本質的に大事な事は部分の組み合わせとして脳の総合力を捉えるという営みであり、数空間だとしても次数の低いパーツに分解するという事は今後もやはり数空間を進むうえで重要と言う視座である。

方程式、不等式、関数

方程式と関数は数学における最重要概念である。例えば$${y = ax + b}$$は1次関数と呼ばれる。特に高校生は極端に形式的にみがちで、数学とは式のみが存在していると思いがちだがそうではない。まず関数$${y = ax + b}$$の中には定数$${a, b}$$と変数$${x, y}$$という概念が潜んでいる。どちらも数の抽象化と言う意味で同じであり、式$${y = ax + b}$$のみが存在していると思うとそれらの区別不能さ故、式の取り扱いが上手くなっていってもどこかもやもやした感情に悩まされ続けるだろう。数学とは常にステートメントの中に式という形式が存在するものなのである。定数とは式を打ち出す前に決めてしまうものであり、変数とは式を出してからいじるものである。変数は関数や方程式の主題における形式部分の根幹である。例えば形式的方程式$${x + 1 = 0}$$の主題は「$${x + 1 = 0}$$を満たす$${x}$$を発見せよ」というものであり、形式的関数$${y = ax^2}$$の主題は「$${x}$$を変更していった上で$${y}$$は$${y = ax^2}$$の式を満たすように変化する」と言った関係そのものである。即ち方程式の主題は$${x + 1 = 0}$$という形式的式そのものではなく、形式的式に対し解を発見するといった一定の意味づけを持った取り組みのことなのであり、もっと言うとここでのイコールは任意$${x}$$においてイコールは成立していないという意味で$${1 = 1}$$のそれと同じではない。
「何故学ぶのか?」に対してだいぶ余談が過ぎた。いささか細かい議論をしたのは高校生や社会人に向けてなるべく自己矛盾を感じて欲しくないという気持ち故である。
さて本題に入ろう。このテーマに関してもっとも良い見通しを持つのは方程式とは関数の断面であるという考え方だ。例えば音速は340[m/s]なので$${x}$$を時間[s]に思うと、距離$${y}$$は関数$${y = 340x}$$という関係により記述される。つまり花火が打ちあがり2秒後に音が聞こえてきたとすれば、打ち上げ地点から$${y = 340 \times 2 = 680}$$[m]離れているのだと判明する。これが関数であるが秒数と距離という異なる対象が関数と言う同一のコンテキスト(※約背景の意)からの片方が分かれば片方が同時に分かるというような現象の関連付けを行っているという意味で有用性はもはや説明不要であろう。次に方程式とは何かというと、関数は関係性により先んじて存在する原初的なものに対してその断面から逆の道のりを進むものである。つまり花火の打ち上げ場所が$${y = 1000}$$[m]先と確定済みの場合、花火が打ちあがり何秒後に音が聞こえてくるのかを疑問に思う人もいるだろう。この時は関数に$${y = 1000}$$を代入し、$${340x = 1000}$$という方程式が得られる事になる。この形式的式に対する向き合い方は何秒後というただ一つの$${x}$$を知りたいという事なのでイコールが成立する$${x}$$を見つけたいという事が方程式の主題なのだ。つまり関数の断面、逆の関係性を追う事をやっているという都合上、関数の有用性を認めるのならば同時に方程式の有用性も認めなければならない。しかし関数とは同一のコンテキストからの$${x \rightarrow y}$$の同時なる導きを与えるものなのでその有用性は明らかであった。

2.2次関数

関数とは一般形として$${y = f(x)}$$と書かれ得るが二次関数としてもっともクリティカルな疑問は無限に存在し得る$${f(x)}$$という形の中で「何故$${x^2}$$を選び学ぼうとしたか?」という事であり、誰しもが一瞬で思う割にそこに答えている人を殆ど見たことが無い。初等的問に対する答え方は難しく以下説明する以外の考え方も多くあると思うが私なりに次の3つが思いつく。

  1. 2対象の関係を表す

  2. 比例関係の面積導出操作(※積分操作)により出てくる

  3. 一般の関数の近似

2対象の関係を表す

これは原始的には三平方の定理の事である。自身から対象$${A}$$までの距離を$${a}$$、対象$${B}$$までの距離を$${b}$$とすると対象$${A, B}$$間の距離$${c}$$は$${a^2 + b^2 = c^2}$$で与えられる。哲学的に1次量同士の関係量は2次量になってしまう。また関連して2次元に存在する図形は本質的に2次量である。
例えば後に習う内積は2次関係量として汎用的な枠組みとして存在するものだが、その計量は$${a \cdot b = a_1b_1 + a_2b_2}$$として2次量になる。ここで$${a}$$と$${b}$$のように別の文字であることは本質ではない。例えばこれに付随して自身と対象の距離は$${a \cdot a}$$なる2次計量が本質となる。更に例えば物理学では万有引力という2物体間の引き合いの式$${F = G\frac{mM}{r^2} (Fは力、m, Mは質量、Gは定数、rは2物体の距離)}$$があるが、これも関係量のなので2次量が基本的になりそうなことは哲学的には驚くべきことではない。

比例関係の面積導出操作(※積分操作)により出てくる

高校物理では$${v = at}$$と言う関係を習う。(※$${v}$$は速度、$${a}$$は加速度、$${t}$$は時間)。これを基に描かれたグラフを$${v-t}$$グラフと呼ぶが、$${(距離) = (速度) \times (時間)}$$という小学生からおなじみの式を使う事で距離が分かる。つまり距離とは$${v-t}$$グラフが織りなす面積の事であるが、数学ではこの面積を求める行為を積分という。$${v = at}$$という比例関係はグラフとして2次元座標空間に描かれているように見えるが、直線や曲線という類であり本質的に1次元である。一方距離と言うのは$${v-t}$$グラフにおいて塗り絵をした部分であり、本質的に2次元である。実際に積分と言う操作を通して距離$${x}$$は$${x = \frac{1}{2}at^2}$$というような時間変数に対する2次式となる。基本的に積分は多項式に対して次数を1上げるという効果がある。2変量の関係として最も重要なのは比例関係で間違いないが、上記のように比例関係が織りなす面積に直感的価値があると思える場合には積分をし、必然的に2次オーダーが出てくるのだ。

一般の関数の近似

一般の関数$${f(x)}$$は多項式においていくらでも近似できるという定理をテイラーの定理と呼ぶ。$${f(x) = a_0 + a_1x + a_2x^2 + a_2x^3 + \cdots }$$。つまりこの定理に従うと我々は特殊な関数を考えたとしても無限に特殊な関数を考え続ける必要は無いという事になる。この観点においては$${x^n}$$なる形のみ考えればよいので無限にある関数の形から無作為に2次関数という形をカリキュラムにあげているという訳では無いという事だ。
補足として大学以降になるとフーリエ解析というのを学ぶが、これは波の重ね合わせにより原関数を再現しようという取り組みであり、この取り組みは数理科学史の中でも最も重要なもののひとつになっている。実は人間の感覚器において音の高さ、色等は波の振動数により区別されている。人間が認知し難い波を除去するという科学は情報工学における(非可逆)圧縮の基本になっている。

3.図形と計量

正直図形はあまり深く取り組む必要はないと思っているが、三角関数(三角比)は重要な概念である。これについては以下の記事を参考にしてもらいたい。

3Dゲーム作成においてオブジェクトを動かす時、コントローラーの入力(※入力方向$${\theta}$$、入力の長さ$${r}$$)から移動後のオブジェクト位置を出そうとすると本質的に三角関数を用いねばならない。一般に3Dプログラミングにおいてはその内部でアフィン変換の$${4 \times 4}$$行列表現を用い連続的に行列の積演算を用いている。

4.データの分析

冒頭でも述べたが今はデータサイエンスがトレンドな時代である。ストレージやデータベースの進化により、ビッグデータと呼ばれる大量のデータをさばける時代である。この大量のデータ解析技術は機械学習を通してAI開発にも影響を与え続けている。データ解析において最も重要な事のひとつはデータの特徴量を見つけるという事になる。数学Ⅰにおいては最も単純な統計量を学ぶ。平均、分散、中央値、標準偏差、相関係数といったものである。例えば1万個のデータがあるとしてそれをそのままみても価値は生まれない。重要なのは1万個のデータを先の5個のデータに圧縮して伝え、解析するという事なのだ。数Ⅰでやるのはその初歩的な事項になる。
更にこのことは統計学の一部分を学ぶことである。統計学において最も興味があるのは推測統計と呼ばれるデータ変数からデータ出力元のメカニズムを発見するという取り組み(※学習理論も概ねこのこと)であるが、上記のようなデータから代表値を見つけ分析するという記述統計と呼ばれる分野とは密接な関係にある。

疑問を育てる

数学に取り組む上で疑問が生じるのは当たり前でありその疑問こそが歩みを与えるのである。高校時代は劣等生であった私は高3のセンター直前模試では数学偏差値30代であり、定数と変数の違いが分からなかったし勿論方程式と関数の違いも分からなかった。一定レベルに分かったら細かい所に拘らず先に進んだ方が良いというのは確かな事だが、初等的だが答えにくい疑問をナンセンスと切り捨て最初からなかったことにするのもおかしなことである。何故「2次関数だけ学ぶのか?」に答える事は「袋に入った無限にあるボールの中で偶然手にした初等的なものがそれだから学んでいるだけ」というような虚無感に襲われない為にも大切な問である。いかなる疑問も、仮にそれが本質的でなくても学習者として恥ずべきことなどはない。そして教育者サイドも答えられぬことを恥ずかしがる必要はない。最も恥ずべきことは知らない事をその問をナンセンスと問側に責任転嫁し自己防衛に走る事である。一蹴後それ以上の追及はなくとも自身の中でパラドックスが残り続け矛盾した態度が自らを焼く事になる。焼かれる必要はない。「不勉強により知らない」と言えばよい。森羅万象を知っている人間は人間ではなく不完全性に由来する人間の深みも持ち合わせてはいないだろう。



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