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地方公務員のパラレルキャリアを阻むものは何? 山形県内の公務員意識調査で見えた兼業の実態と課題

「公務員は副業禁止」「公務員に何かをしてもらっても、お礼を渡すことはできない」と思っている人は多いのではないでしょうか。

確かに、国家公務員法や地方公務員法に営利目的の事業に関わってはならないという規定があります。しかし、報酬を伴う活動がすべて禁止されるわけではなく、いくつかの自治体では職員の副業・兼業を支援する動きも出てきています。

山形県内の公務員の方々が立ち上げた「公務員Shiftプロジェクト」では、県内の公務員を対象に、業務外の活動の実態やそのメリット、課題を探るアンケート調査を行いました。

調査の結果見えてきたことや、公務員がパラレルキャリアに挑戦することの意味について、プロジェクトメンバーの皆さんに実体験なども交えてお話していただきました。

座談会参加者(敬称略)
・坂本 静香(山形県職員)
・阿部 和恵(庄内町職員)
・原田 孝昭(鶴岡市職員)
・青木 啓介(山形県職員)
・三浦 拓(山形県職員)
・山本 泰弘(山形県職員)

インタビュアー
・やつづか えり(フリーライター)
・平田 麻莉(フリーランス協会 代表理事)

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▼前編はこちら▼

公務員の業務外活動は意外と多かった!

―― 「山形県内における公務員の パラレルキャリア(兼業)への 意識に関するアンケート調査」ですが、どのような目的で実施されたのでしょうか?

坂本:山形県内では、まだ公務員の兼業や副業の推進をしているような自治体はないのですが、少しでもそういう動きにつながればいいな、と思いました。そのため、「公務員の兼業にはこんな効果があるんだよ」「こんなニーズがあるんだよ」ということを客観的なデータで示すことを目指しました。

もうひとつは、この調査の後で、アンケートに回答してくれた公務員の方々に対するフォローアップのような活動もできたらと考えていました。例えば兼業を始めるための講座などに使えるように、すでに始めている人の現状やメリット、課題なんかが具体的に分かるように設問を考えました。

それと、アンケート調査をすること自体が兼業のメリットを周知する良い機会になると思いまして、調査票の序文には全国の自治体の動きや国の動きなんかも盛り込みました。また、公務員としては信ぴょう性の高いものの方が回答しやすいだろうと思うので、このアンケートが県の職員研修所の助成金を申請して実施していることもお知らせしたり、県の掲示板を利用したりして、SNSなどをやっていない人の目にも触れるように工夫しました。

―― 調査結果で、特に注目の点はどこでしょうか?

青木:まず、156件もの回答が集まったことが本当にありがたかったです。そして、業務外の活動をしている人が結構いるんだな、ということが大きな発見でした。自由記述もすごくたくさん書いてくださって、皆さんがこのテーマにとても関心を持ってくれているんだなということを感じられました。

今回は業務外の活動を「ボランティア」と「有償になり得る活動」の2つに分けて、それぞれの状況について聞いたのですが、有償になり得る活動をしている方も意外といるんだという驚きがありました。普段は職場内でそういうことを話す機会があまりないので。

個人的には、ボランティア活動のみを経験されている方よりも、有償になり得る活動をしている方の方が、業務外の活動を今後もしていきたいと答えている割合が高いことが、面白いと感じました。

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「今後どのような働き方をしたいか(n=156)」について、ボランティアのみ経験した人、有償となりえる活動をした人とに分けて集計した結果

そういう活動をされている方たちはすごくいきいきしているし、今後も続けていかれる方が多いんだろうな、ということは感覚としては分かっていました。でも、それが定量的なデータとして得られたことの意味は大きいと思います。

一方で課題だと感じたのは、業務外の活動を行う上で「仕事の忙しさ」がネックになっている人が多いということです。自由記述の方でも、残業が多く、職場と家の往復だけで大変だと訴える方がいました。

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業務外の活動を行ううえでの課題や不安(複数回答)(n=91)

それから「やりたいことが明確でない」という層もいて、それは多分、考えてもわからないんだと思うんです。1回やってみるとか誰かと出会ってみるという場がすごく重要なところで、そこはまさしく公務員Shiftプロジェクトとして提供できるんじゃないか、と感じました。

「公務員だから副業NG」と思われることや「業務に支障のない範囲で」に感じるモヤモヤ

―― 「有償になり得る活動」に関しては多くの方が無償でやっていて、一部に有償でやっている方もいらっしゃるんですよね?

青木:そうですね。実際、どこまでが有償でやっても良い範囲かというのがすごく曖昧なところがあって……。

―― 許可が下りるかどうかの基準が曖昧ということですか?

青木:はい。極端な場合、担当者やその時の所属長の判断によるところもあります。

坂本:先進的な自治体では、基準を明確にして示しているところもあるんですよね。今回のアンケートでも、「どこまでが大丈夫でどこからアウトなのか、基準が明確なら、過度に恐れずに活動できるのに」という意見が書かれていました。

―― 「公務員だから副業できないんでしょ」と一般の人からも思われていて、やりづらいという意見もありましたね。

青木:そこはすごく問題だと思っています。民間の方は僕らに対して、「対価を払えないから色んなことを頼みづらい」と思われることがあるようなんです。業務外の活動を一緒にやっていても、自分はボランティアという立場だから気を使われているな、と感じることもあって、「もっとやりたいのに」とモヤモヤすることがあります。

―― 有償でやった方がいいな、と感じることもありますか?

青木:まさに今、考えているところです。

4年ほど前に、地域おこし協力隊の勉強会をしたり、中山間地域の人たちと地域づくりを目的としたワークショップを運営したりする「Sukedachi Creative 庄内」という任意団体を立ち上げたんです。その時は仕事で地域おこし協力隊を担当していたのですが、自治体としてはできないことを組織の外でやろうと、いろいろな人に声をかけて作りました。

最近ではその団体が山形県や鶴岡市の委託事業も請けるようになって、対価を払って講師の方に来ていただいたりもしています。僕自身はボランティアで運営しているんですけど、一緒にやっている仲間からは「結構動いているのにボランティアのままじゃだめなんじゃないの?」とダメ出しを受けているところで、なんとかしなきゃなと思います。

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業務外の活動で話をする青木さん。タイトル上の写真も、青木さんが立ち上げた「Sukedachi Creative 庄内」による「地域未来フォーラム 地域多様性でいこう。」(2019年)の一コマ

―― なるほど。皆さんの所属組織では、公務員の兼業に関してどんなスタンスですか?

坂本:県の場合は、事例ごとにその都度判断、みたいな感じです。

阿部:うちも基準みたいなものはないです。停職処分等を受け、給与が出ず生計が立てられない場合は、処分期間中に限り公務外の業務収入が認められる場合があります。ですが、普段の業務をしながら他のところで対価を得るということについては、規定はないです。

原田:鶴岡市も明確な基準はないですね。だからあえて相談するのも億劫で、やるとしたら無償で、というケースが多いと思います。

三浦:私が所属する総務課は、副業の許可に関する窓口をしていて、基準はあると聞いていますが、やはり事例が少ないので手続きにどのくらい時間がかかるのかとか、どういうものだと許可されるのかとかが分かりづらいんですよね。時間的に余裕をもって相談しないと間に合わなかったりして。そういう意味でも有償での活動は難しいところがありますね。

あと、皆さんお忙しいなかでやっていますから、上司からは「業務に支障のないようにやってね」と言われたりしますよね。

青木:そうですね。ボランティアであっても「業務に支障がない範囲で」という空気感はすごくありますね。その「支障がない」というのも曖昧で、上司がいつでも話しかけられるようにずっと席にいてください、ということのように受け取ると有給も取りづらくなって、かなり高いハードルに感じてしまいますよね。

公務員の業務外活動は本業にもメリットあり

―― 一方で、業務に支障どころかメリットもあることが、今回の調査では分かったわけですよね。皆さんにも「業務外の活動が本業の役に立った!」という経験がありますか?

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青木:業務外の活動で民間の方とのネットワークが作れて、本業の方でもその人脈で講師の方や地域で活躍している若者、フリーランスの方、起業家なんかを紹介したりということをよくやっています。そうするうちに、いろんな部署から「あの人を紹介して」と連絡をもらうようになって、実際に人をつなぐことができています。

また、ファシリテーションを学んで業務外の活動で実践したりしているんですけど、それは本業でも活きています。行政の会議って結構お堅いんですけど、それをワークショップ形式に変えたりすると、「次回もまたやって」と言われたりしました。

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青木さんは、Sukedachi Creative 庄内が開催するワークショップの経験が本業でも役立っている

原田:私の場合、オフサイトの活動で同じ山形県内の公務員の人たちとつながりができました。そうすると、「うちでも山形市さんがやっている事業をやりたいんだけど」みたいな相談や情報交換がしやすいんです。友だちになった人に鶴岡市まで遊びに来てもらって飲み会したり観光案内したりと、地元の経済効果にもつながることもあります。色々なメリットを感じていますよ。

フク業について話せる場、チャレンジできる場を広げていきたい

―― 調査結果を見て、兼業の内容は「地域の行事・イベントの手伝い」が最も多く、他に農業の手伝いなどがあったりと、地方ならではの特色も感じました。

原田:実は私も、妻のお父さんがやっている農業を手伝っています。山形県は米どころなので、副業で農業をやっている方は多いですし、年代が上がるともに増えていく傾向があると思いますね。

青木:子供会とか町内会活動なんかで業務外の活動を始める人も多いですね。

坂本:東京などの都会だとPTAはお母さんがやることが多いですけど、山形県は男性の割合が高いんですよ。特に公務員では多くて、私の夫もずっとPTAの役員をやっていました。

原田:私も今、PTA会長と消防団員をやってます。嫌々やっている人もいるかもしれないですけど、これもいろいろな人とつながったり学びを得るきっかけになりますし、私はひとつの副業のつもりでやっています。

ちなみに、報酬が支給される消防団員の仕事について、鶴岡市では個人で届け出をしなくても有償の副業扱いとして一括で処理されているので、消防団員に関しては「どんどんやれよ」という雰囲気です。

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地域での防災訓練の様子

―― なるほど、消防団員は副業として定着しているんですね。では最後に、今回の調査をしてのご感想を、皆さんにお伺いできますか?

青木:調査結果から、業務外の活動に興味を持っている人はすごく多いと分かりました。一方、それを話せる場がないことが課題に感じます。職場内で、業務外の活動についてポジティブに話せる場がないんです。アンケートにも、業務外の活動事例について知る場が欲しいという意見が寄せられていたので、そういう場を作っていきたいです。理想の働き方ってなんだろう、という対話を公務員同士でできる場を作ったら、きっと面白いと思います。

阿部:アンケートを取ったことで、自分と同じような関心を持っている公務員の方がたくさんいるんだということが分かって、とても嬉しかったです。そして何よりも、Shiftの活動でこのような形あるものが残せたことが良かったと思います。この資料があることで、公務員の副業が話題になるような場所があちらこちらに生まれればいいな、と思っています。

公務員というのは、以前は新卒でなって定年まで続けるような仕事だったのかもしれません。でも今は、途中で転職していく方もいらっしゃいますし、逆に民間での経験を持った方が採用されることも多くなっています。だから、公務員の仕事に対する意識も自然と変わっていくんじゃないかなと思うんです。このアンケートが、そういったことに気づいて自分たちの働き方を見直すきっかけになればいいですよね。

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2020年11月に「公務員Shift」プロジェクトが開催した「公務員のためのパラレルキャリア入門講座」でも、アンケートの結果が共有された

坂本:今回、アンケートに回答してくださるだけでなく直接メッセージをくださる方もたくさんいたんです。兼業について悩んでいたとか、共感したとか、熱いメッセージをくださる方が何人もいて、届く人には届いていたんだなと思いました。潜在的なニーズを掘り起こす機会になったんだと思います。

また、職場でもアンケートへの協力をお願いしたんですが、「業務外なのに頑張ってるね」といった好意的な反応が多くて、誰もネガティブな態度を取る人はいなかったんです。時代の流れをすごく感じましたし、この流れに乗ってまだまだいけるな、とも思いました。

今はまだ、「公務員は副業で稼いじゃダメなんでしょ」と思っている人が多いということが分かったので、公務員の副業のイメージをよりパラレルキャリア的なものにアップデートしていく必要性も見えてきました。公務員に親和性のある副業の形を広めていけたらと思います。そのためのチャレンジができる場として、Shiftの活動を続けていきたいです。

原田:私はずっと「公務員の副業は悪」みたいな固定観念があったんですけど、Shiftに参加し、ハッピーになる“福”業、複数の仕事の“複業”という「フク業」の概念を知ったことで、新しい視点をもつことができました。そういう視点をもつ公務員はまだまだ少ないので、このアンケートが気づくきっかけになるよう、山形から全国に展開していければ良いな、と思っています。

三浦:アンケートの結果を見て、皆さん色々な思いを持って、悩みながらも実践されているんだということが分かりました。

Shiftの「三方よし」のコンセプトが理解されて、例えば地域の方々からも業務外の活動を応援してもらえるようになったら、公務員のパラレルキャリアももっと進むんじゃないかな、と思いました。やはり組織も上司の方たちも、地域の声はすごく気になるところだと思いますし、そこが兼業の足かせになっている面もあります。それを乗り越えていくためにも、Shiftの活動を地域や組織に還元していけるよう頑張りたいです。

山本:僕は転職して県庁に入ったこともあり、中で働いている方々がすごく組織や業務にとらわれているな、と感じるんです。「こういうことをやったらダメなんじゃないか? やっぱりダメだよね」と自縄自縛に陥って、自由にやることができなくなっているという状況が、この調査の結果を見ても感じられました。

本来勤め先って、自分が相手にする組織の一つに過ぎないはずなんですけど、自由に動くことができないと思いこんでいる人が多い。それをなんとかできないかな、と思います。

僕はこの調査結果を論文の形にしようと、色々な自治体のケースを調べているところなんですが、副業は必ずしも禁止されていなくて、手続きを踏めば許可されるものも多いはずなんです。そこが闇の中であることが問題です。ただ、明確にしようとしている自治体の中には、「地域のためになることに限って」という方向にいっているところもあって、それはどうなんだろうと……。とにかく、これは今後より注目されていく面白いテーマだと思って取り組んでいます。

―― 皆さん、今日は平日の夜にお時間をいただき、ありがとうございました。公務員の働き方を変えていこうという熱い思いが伝わってきました。坂本さん、全国の地方公務員の方へ、なにか伝えたいことはありますか?

坂本:業務外の活動をやってみたいという公務員は、まだまだいらっしゃると思います。ぜひその小さな一歩を踏み出してほしいですね。そして、一緒にパラレルキャリアの輪を広げていけたら嬉しいです。Shiftは今は山形県内の活動にとどまっていますけれど、県外の方々にも参加していただけるような、そういった場にもしていければと思っております。そうしたら、きっともっと面白くなりそうですよね。

―― そうですね! 今後の展開を楽しみにしています。

ルールを明確に、オープンにすることが新しいチャレンジを促す

法律で公務員の行動を縛ることの本来の目的は、公務員の皆さんが一部の人たちの利益のためでなく住民全体のための公共サービスを担う立場であるからです。その仕事を責任もってやった上で、業務外でも自分と周りがハッピーになる活動ができるなら、それはどんどんやってもらった方がみんなにとって良いはずです。

今回の調査結果からは、山形県の公務員の皆さんが、地域と関わる業務外の活動を多くされていることが分かりました。副業・兼業に関する組織のルールや管理職の姿勢が変わっていくことが、地域がより暮らしやすい場所になるためにも有効だと考えられます。

調査結果や皆さんのお話からは、副業・兼業について「どこまでがダメでどこからがOKなのか」という基準を明確にすることがポイントだと見えてきました。

「ここを守れば問題ない」というルールが明確なら、安心してチャレンジできます。さらに、そのルールが組織外にもオープンになれば、民間側から公務員に対して「一緒にやりましょう」と声をかけることもしやすくなるでしょう。

民間の会社でも、「うちは社員の副業を推奨してますよ」とオープンに宣言していると社員に声がかかりやすく、さらに活躍の場が増えていくということが起きています。

公務員も民間の会社員もフリーランスも、互いの経験やスキルを持ち寄って一緒に何かができるようになると、たくさんの発見がありそうです。今回のお話からは、そんな可能性に気づかせてもらいました。

やつづかえり
コクヨ、ベネッセコーポレーションで11年間勤務後、独立。2013年に組織人の新しい働き方、暮らし方を紹介するウェブマガジン『My Desk and Team』開始。『くらしと仕事』編集長(2016〜2018.3)。Yahoo!ニュース(個人)オーサー。各種Webメディアで働き方、組織、ICT、イノベーションなどをテーマとした記事を執筆中。著書に『本気で社員を幸せにする会社』(2019年、日本実業出版社)。

やつづかさんPH


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