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「自ら行動する地方公務員」って?山形発・兼業から生まれた新しい働き方の"三方よし”

皆さんは、「地方公務員」という言葉からどんなことをイメージしますか?

「地域のために真面目に働いてくれる」といったポジティブなイメージもあれば、「お固くて柔軟さに欠ける」などのネガティブなイメージもあるでしょう。どちらもベースにあるのは、自分のやりたいことに向かって変化を起こしていくというよりは、既存のルールを守りながら求められることに応えていくような地方公務員の姿ではないでしょうか。

住民や組織のニーズに真摯に応えていくのは重要なことです。だけど、そこにもう少し「自分の意志」を反映することができたら、公務員の仕事はもっと楽しくなるし成果も出て、「自分(公務員)・地域・組織(自治体)」の「三方よし」が実現するはず——そんな思いで地方公務員自らが立ち上げたのが「公務員Shiftプロジェクト」です。

「公務員Shiftプロジェクト」とは山形県内の地方公務員による、「自分も、地域も、職場もHAPPY」の実現に向け、「自ら行動する公務員になる」ための相互啓発コミュニティのこと。現在のメンバーは山形県内の自治体職員7名。立ち上げから1年の間に数々の勉強会を開催し、今年3月には山形の公務員の兼業実態の調査結果を公表するなど、とてもアクティブに活動しています。

今回は6名の方々にオンライン座談会という形で集まっていただき、それぞれの思いや活動内容についてお話いただきました。

座談会参加者(敬称略)
・坂本 静香(山形県職員)
・阿部 和恵(庄内町職員)
・原田 孝昭(鶴岡市職員)
・青木 啓介(山形県職員)
・三浦 拓(山形県職員)
・山本 泰弘(山形県職員)

インタビュアー
・やつづか えり(フリーライター)
・平田 麻莉(フリーランス協会 代表理事)

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地方の最大の潜在力、公務員の力がもっと活きるように

―― 「公務員Shift」が発足したのは2020年6月とのことですが、そのきっかけを教えてください。

坂本:2〜3年前、私は地域の女性の支援をするためにキャリアコンサルタントの資格を取ろうと勉強していました。そのときに、自分にとって一番身近な公務員こそ、キャリア形成が難しい仕事なんじゃないかな、と思うようになったんです。周りの公務員をみても「異動先は運で決まる」と受け身な感じがあったりして、主体的にキャリアを作っていくというのが難しいんだな、と気づいた。それが一点目です。

もう一つは、特に地方は仕事が限られていることもあり、地方公務員にはとても優秀な人が多いと感じるんです。地方では最大の潜在力の一つが公務員だと思うのですが、その力が職場でも地域でも活かされていないことが多く、とてももったいないなと感じる場面が多々ありました。

この2つの問題をなんとかできたら、と常々感じていました。それでコロナでステイホームになったとき、「こういうときだからこそ、公務員の力を地域や職場に活かすための学びの場作りをしたい」と構想を練り、連休中にみんなに「やらない?」と声をかけたのが始まりです。

―― 坂本さんは県庁にお勤めで、メンバーには市町村の職員の方もいらっしゃいます。皆さんお知り合いだったんですか?

坂本:私は全員知っていましたが、メンバー同士は知らない人もいたと思います。ただ、知り合いの知り合いくらいの距離感ではありました。

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坂本さん他、公務員Shiftプロジェクトメンバー3人が以前から関わっている起業支援のコミュニティ「芽から樹」にて。このような活動の場などで知り合った県内公務員に声をかけ、プロジェクトが立ち上がりました。

―― 具体的には、どのようなことをしようと考えていましたか?

坂本:公務員の力を、自分の人生にも組織にも地域にも活かせるような「三方よし」ができたらいいと思っていたので、そこに向かっていけるような学びやチャレンジの場を作りたいと考えました。特に、一歩を踏み出すためには安心安全な場であることが重要だと思っていました。

というのも以前、上司が外では公務員であることを隠していると知って、私はすごく驚いたんです。

―― えっ! それは何故でしょう?

坂本:私の上司以外にも少なからずそういう人はいて、公務員であることで批判されたり、色々と頼まれたりするんじゃないかという怖れがあるのかもしれません。

でも身分を明かして出ていってみれば、地域の方からすごく感謝されることもあるんですよ。怖れないで外に飛び出していくために、まずは安心安全なファーストステップの場があればいいんじゃないかと思ったんです。

背中を押されて一歩を踏み出した経験が転機に

―― 坂本さんご自身は、もともと怖れずに外に飛び出していくタイプだったんですか?

坂本:いえ、以前は家と職場を往復するだけの毎日でした。

そんな中、「子育てがあるから」という過剰な配慮をされてチャレンジングな仕事を任せてもらえないというマミートラックにはまっていました。それでつらかったときに、夫から「地域女性向けの講座があるから行ってきたら」と言われたんです。行ってみると、地域でいきいきと働いて活躍している女性の方がいて、「すごい! 自分もこんな風になりたい!」と思いました

そうやって外でロールモデルに出会ったことが、とても大きくて。その後は学びの場に積極的に出ていくようになり、自分が役に立てることは何かを探しながら、小さな成功体験を積み上げてきた、そんな感じです。

今、県庁で女性活躍の支援の仕事をしているんですけど、それももともとは業務外の活動でやっていたことで、一生懸命やっていたらそれが仕事になった、という状況なんです。

―― そうでしたか! その経験が、Shiftプロジェクトへの思いにつながっているんですね。

坂本:そうですね。背中を押してもらって一歩踏み出せたことが今の自分に至る大きな転換点だったので、最初の一歩を踏み出せる場を作れたらいいなって。自分ですらこんなにいろいろできたんだから、みんなだったらもっとできるんじゃないかって、思うんです。

楽しそう! ワクワクする! プロジェクトのポジティブな雰囲気に引き寄せられたメンバー達

―― メンバーの皆さんは、どうしてこのプロジェクトに参加されたのでしょうか?

阿部:坂本さんとは、以前に男女共同参画の講座ですとか、女性による地域に役立つ小さな起業を支援する「ナリワイプロジェクト」の事業などでご一緒していました。その坂本さんが公務員Shiftをやりたいとおっしゃっているのを聞いて、きっと何か楽しいことができるんじゃないかな、という思いで参加させていただきました。

原田:私は2019年に早稲田大学マニフェスト研究所の人材マネジメント部会の研修に参加していまして、県外の自治体の職員さんとつながる機会がありました。それがとても刺激的だったので、今回の坂本さんのお話も間違いなく新しい出会いにつながりそうだと感じました。

実は、坂本さんとは高校で同じクラスだったんですよ。県職員となった坂本さんが仕事以外のオフサイト活動でも頑張っていることは、Facebookを通じて知っていました。そんな坂本さんのアイデアにはワクワクする楽しいオーラがあったので、「まずはやってみよう!」と思ったんです。

青木:僕は坂本さんとはいろいろな業務外のイベントでお会いしていて、すごい方だなと思っていました。また、坂本さんの旦那さんとも仕事でつながりがあって、旦那さんもすごい方なんです。「なんだろう、この夫婦……」って以前から思ってたんですよね(笑)。だから、Shiftに参加したのは坂本さんに興味があったということがひとつ。

それから、ちょうどその頃に同じ部署にいた3年目の若手職員の話がとても気になっていたんです。その方は大学時代から男女共同参画に興味があって、そういう仕事をしたくて公務員になったそうなんです。でも、実際に男女共同参画を担当してセミナーを開催したとき、すごく面白くなかったという話をしていて……。

おそらく、その仕事にその人の思いが反映される余地がなかったのだと思います。興味があるはずの仕事なのにやりがいが感じられないなんて、もったいないですよね。なんとかできないものか、ということを考え始めた時期に坂本さんから声をかけてもらって、ぜひご一緒したいなと思ったんです。

三浦: 私は、この4月からShiftのメンバーになりました。きっかけはShiftの勉強会に参加者として出たことです。

そのとき、県だけとか市だけとかではなく、組織の違いを超えて公務員が参加する学びの場というのが面白いなと感じたのと、ただ学ぶだけではなく、実践しながら学んでいるのが素晴らしいと思ったんです。しかも、無理なく好きなことを、やれるメンバーがやるというShiftの考え方を聞いて、「これだったらできるんじゃないか」と。

でも、自分から「入れてください」とはなかなか言えなかったんですよね。その後、青木さんがやっていた「フク業プロジェクト」に参加する中で、「せっかくだからどう?」と声をかけてもらって入らせてもらいました。

山本:僕は山形県庁のデジタル化の仕事をしていまして、Shiftに入ったのはこの4月です。
きっかけは、Shiftが行った意識調査に、うちの部署が担当しているアンケートフォームが使われたことです。坂本さんがうちの課に来たときに「こういうユニークなアンケートをやるんですよ」という話を聞きました。それにすごく興味を惹かれて僕が食いついたので(笑)、メンバーに誘っていただきました。

―― 皆さん、プロジェクトへのワクワク感や坂本さんのお人柄に惹かれて、すごく前向きに参加されているんですね!

メンバーそれぞれのやりたいことを、皆で応援して実現

―― 公務員Shiftの、これまでの活動内容を教えてください。

坂本:まず、昨年6月の決起集会でみんなで話し合って3つのコンセプトをまとめました。そのコンセプトの下、メンバーそれぞれがやりたいことを主体的に企画し、みんなで応援して実現する不定期の勉強会、「公務員のフク業プロジェクト」という5回連続の講座、そして山形県の公務員のパラレルキャリアに関する意識調査を行いました。

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―― では皆さんそれぞれに、ご自身が企画された勉強会についてお伺いできますか?

阿部:私はプロジェクトの1回目の勉強会として、「公務員おススメ本読書会」を企画しました。本が好きで、「ナリワイプロジェクト」の方では以前から、本を活用して交流を深める会を実施していたんです。公務員Shiftでも、公務員同士が気軽に交流したりつながったりするきっかけを見つけてもらいたいという思いで企画しました。

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本好きの阿部さんは、県立図書館リニューアルオープンイベントでオリジナルブックカバーとしおりづくりのワークショップも開催。

原田:私が行ったのは、ストレングス・ファインダーの入門講座です。ストレングス・ファインダーというのは、自分の強みのもととなる資質を診断するツールです。民間企業では導入が進んでいまして、自己理解、他者理解、相互理解が進むということで、私はすごく可能性を感じているんです。全国の自治体でも首長さんが受けてみたりといった動きがありますが、もっと多くの自治体職員さんに知ってもらいたくて講座を開きました。

Shiftのメンバーもみんなでストレングス・ファインダー受けてみたのですが、例えば坂本さんはじっくり考えたり分析するのが得意なタイプだとか、それぞれの個性が見え、結果的にすごくいいメンバーが集まったチームだということが分かりました。改めて、これはチームビルディングにも使えるツールだな、と認識する機会になりました。

青木:僕は「公務員のフク業プロジェクト」を担当しています。

今の公務員は、やらなきゃいけないという「MUST」の円がすごく大きくて、自分がやりたい「WILL」の円が小さいんですよね。ここをもっと大きくして、できること「CAN」を増やしていけるような場にできたらな、という思いでやっています。

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自分の興味関心や得意を起点に新しい活動である「複業」の種を掘り起こし、 自分も組織も地域もハッピーになる「福業」を実践する仲間を増やせるような講座にしたいということで、「フク」に2つの意味をもたせた「フク業プロジェクト」としました。

具体的には、自分の「好き」と「得意」を深堀りし、フク業のアイデアを考えて具体化し、とりあえずやってみる、ということを5回の講座の中で、とにかく楽しみながらやっていきます。1回目は、原田さん、三浦さんを含む4人の公務員が参加してくれました。今は第2期のメンバーを募集しているところで、3ヶ月の講座を1年に2回くらいやれたらいいな、と考えています。

三浦:私の活動は「フク業プロジェクト」に参加しながら企画したことで、地域内にある大きな2つの市の交流をもっと盛り上げていこうというものです。今はコロナで少しストップしているのですが、県職員の立場も活かしながら、2つの市が「ひとつの地域」という意識がもてるように交流勉強会を企画しています。

山本:僕は、先日Shiftで行ったアンケート結果を分析して学術論文を書こうとしているところです。

―― それは楽しみですね! 次回は、そのアンケート調査のことについてお伺いしたいと思います。

新しい働き方を「まずはやってみる」ことの大切さ

「公務員Shiftプロジェクト」は完全に業務外での活動ということで、平日の夜に座談会を開催しました。それにも関わらず、皆さんがハツラツとしていて、ニコニコお話してくださったのが、とても印象的でした。

初期メンバーの皆さんは、すでに何かしら業務外の活動をしてみて、その楽しさやメリットを感じている方たちでした。だからこそ、坂本さんが声をかけたときにワクワクする雰囲気を感じ取り、すぐに参加を決めることができたのだと思います。

一方で、公務員という役割を持ちながら他のことにも手を出すことに、不安を感じたり意味を見いだせない人もたくさんいるようです。

一度やってみれば視界がひらけ、怖いどころか楽しいことだと分かるはず。だから最初の一歩を踏み出してみて!——そんな思いが、坂本さんを始めとするメンバーの皆さんの言葉から伝わってきました。

公務員に比べれば、民間の会社員にとっての副業へのハードルは少し低いかもしれません。しかし、最初はどうしても「本業があるのに他のことができるだろうか。やってもいいのだろうか」という不安感があるものだと思います。最初の一歩を踏み出しやすい安心安全な場を提供する「公務員Shiftプロジェクト」の活動は、公務員に限らず、世の中全体にパラレルキャリアを広げていきたい人たちにも大いに参考になるのではないでしょうか。

▼後編はこちら▼


やつづかえり
コクヨ、ベネッセコーポレーションで11年間勤務後、独立。2013年に組織人の新しい働き方、暮らし方を紹介するウェブマガジン『My Desk and Team』開始。『くらしと仕事』編集長(2016〜2018.3)。Yahoo!ニュース(個人)オーサー。各種Webメディアで働き方、組織、ICT、イノベーションなどをテーマとした記事を執筆中。著書に『本気で社員を幸せにする会社』(2019年、日本実業出版社)。

やつづかさんPH

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