幸福日和 #067「日常を切りとる」
昔から額縁が好きでした。
そう。
絵画や写真よりも、、、、額縁。
変な趣味でしょう。笑
何を飾るかを決めているわけではいないけれど、
額縁専門店に入り浸ったり、
画材屋さんの額縁コーナーを眺めては、
綺麗だなと思えるものや、変わった形のものがあれば
長年コツコツと買い集めてきました。
落ち着いた古い木材で、
丹念に作られた長方形の額なんかは
書道の作品を飾るためには丁度よさそうです。
こんな素敵な額縁には二度と出会えないかもしれないから、
いつかの傑作ができた時のために今買っておこう。
また、アンティークショップで出会った
落ち着いた金色の額縁も大切な一つ。
ロココ調の華やかな王室文化を表現したかのような、
四方を花柄の彫刻柄で取り囲んだ上に、
時間を経て少しづつ剥がれてきたであろう金の塗り。
時代の重みと時の深遠さを感じられる。
そんな額縁。
こんな額縁に見合う作品など思いつかないけれど、
これもまた買ってしまう。
なぜこのような、数々の額縁に惹かれてしまうのか、
自分でもよくわからないんです。
額に入れるほどの作品のコレクションがあるわけではないのに
気がつけば、多くの額縁だけが部屋の片隅に溜まっていく。
✳︎ ✳︎ ✳︎
額縁を買って、物理的に直接役立ったことは、、、
残念ながら、ほとんどありません。
それでも、
明らかに自分の中で変わったことがあるんですね。
それは日常の些細な美しさに
目を向けられるようになったこと。
額縁を買ったその日から、
この額縁にふさわしい美とはなんだろうかと
日常を細やかに眺めては、
考えることが多くなってきたんです。
ある夏。
写真が美しく収まりそうな額縁を買ったんです。
そこに入れるための写真を持っていたわけではなかったけれど、
その額に収めたいと思うほどの、
素敵な夏の思い出をたくさん作ればいいと
時間との向き合い方が変わった。
人と会うことも楽しみになったし、
大切な人との時間を今まで以上に大事にしようと思った。
また、アートとの向き合い方も変わりました。
ある時、街中でふと立ち寄ったギャラリー。
普段はなんとなくの気持ちで、ふらっと作品を眺めるだけですが、
気がつけば、自分の持っている額に合うような素敵な作品はないだろうかと
今までとは違う視点で作品に向かう自分。
「この作品いいな、部屋に飾りたいな」
そう思いながら、絵画を買い求めて家に帰り、
自分の持っている額に美しく収まった時の感動。
その喜びは言葉では表現できないほど。
✳︎ ✳︎ ✳︎
普通に生活をしていたら、
「額」のことなんてほとんど考えることはないですよね。
額やフレームというのは、
今の世の中ではマイナスのイメージで
使われることの方が多いのかもしれません。
(枠にはめられた)考え方。
(枠に収まった)価値観。
自由が求められる時代の中では、そうしたものは
不要なものだと思われてしまいがち。
それでも、僕は額縁を集めてしまう。
日常を楽しむために、美しさに出会うために、
頼りない自分の視点を支えてくれる
そうした素敵なフレームが必要なのかもしれません。
✳︎ ✳︎ ✳︎
数年前、
珍しくも「円形の額縁」を求めたことがあったんです。
もちろんその時も、どう使うかなんて決めていませんでした。
だって、、、「円形」ですから。笑
円形の絵画など見たこともないし、
丸い写真など撮る予定もなかった。笑
ある紅葉の季節。
例年よりも暖かい日々が続く中で、
急な寒さが紅葉を今までにない美しさに
彩った時がありました。
ふと足元を見下ろすと、
数枚の紅葉が、華やかに苔の緑の上に散っていたんです。
その美しさに誘われるように、
数枚の紅葉を丁寧にハンカチに包んで持ち帰り、
何に使うのか見当もつかなかった「丸型の額縁」の中に
その数枚の紅葉を散らしてみたんです。
何故そう思いついたのか、理由は覚えていないけれど、
数枚の紅葉をどのように並べても
その円形の額の中では美しいものとして収まった。
飾るものと、飾られるものとの関係は
本来こうあるべきだと
心の底から感じた出来事でした。
✳︎ ✳︎ ✳︎
日常の中で、
人は美しき「対象」ばかりを追い求めている気がします。
でも、そうして絶対的な美を追い求めるよりも、
日常の中から、自分なりの美しさを見つけられるほうが
どれほど大切なことかと思うんです。
もしかしたら日常は、
世界中の名画に勝るほどの美しさで
溢れているのではないか。
美術館に行かずとも、
身近なところで、名作絵画に劣ることのない
感動に出会えるのではないか。
そんなことを考えながら、
今日はどんな出会いがあるだろうかと
期待に胸膨らませるんです。
いつになるかわかりませんが、
今まで集めてきた数々の額縁に、
自分なりの美しさを満たしながら、
皆さんにお見せできる時がくればいいなと思ってもいます。
最後までお読みいただきありがとうございます。毎日時間を積み重ねながら、この場所から多くの人の毎日に影響を与えるものを発信できたらと。みなさんの良き日々を願って。