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サイケデリック・シャーマニズムとプラントメディスン(薬草)の効果【概論その2】―ケン・ウィルバー、スタニスラフ・グロフ

 【概論その1 基本事項、注意事項、ティモシー・リアリー、チベットの死者の書】では、サイケデリック・シャーマニズムについての基本的な事柄を子ました。
 ここでは、その続きで、サイケデリック体験で顕れてくる「心の世界」を理解するのに、さらに参考になるものを挙げていきます。


【4】微細エネルギー/元因エネルギーの構造―ケン・ウィルバーのモデル

 実際のサイケデリック体験においては、現在、通常の現代社会(現代科学)が想定している以上の現象、さまざまな不可思議な現象も起こってきます。
 前回の、チベット密教モデルにおいても、それらは暗示されていますが、その点、別の「構造モデル」を併せて持っておくとこれも大変役に立ちます。
 例えば、トランスパーソナル心理学(インテグラル理論)の理論家、ケン・ウィルバーなどが、初期から提案していた「意識のスペクトル」などは、便利なものです。
→「ケン・ウィルバーの「意識のスペクトル」論」

 ウィルバーの理論は、元々インド・モデルであり、世界中にあった宗教(秘教)とすり合わせをしたモデルですので、ティモシーらのモデルとほぼ重なるものですが、ティモシーらが「チョエニ・バルドゥ」の領域とした「集合的無意識、元型的な領域」に、ウィルバーが区分する「微細領域」「元因領域」を重ねて見ていくと、より立体的な把握が進みます。

 「微細 subtle 領域」は、通常の心理的意識(自我的意識)を超えた心の領域であり、いわゆる「超能力(サイキック)」な体験が現れてくる領域ともなっています。時空の体験やエネルギーの体験においても、通常のリアリティではないものを、体験する領域となっています。
 よく知られているもので言えば、気功の「気」やヨガの「プラーナ」などが存在している領域です。これらは現場では実践者によって体感されるものですが、科学的には検出されていないエネルギーです。
 そのような「微細エネルギー(サトル・エネルギー subtle energy)」のある領域です。東洋思想では、古来より想定されている存在領域です。
 「元因 causal 領域」
は、さらに「本質的」「元型的」な領域となっています。世界中の宗教や秘教が語る「目撃者 witness」や「神に近い」領域がそこにあるのです。


【5】S.グロフ博士による、サイケデリック体験の特徴

 A.マズローとともに「トランスパーソナル心理学」を設立した精神科医のスタニスラフ・グロフ博士は、元々はチェコで治療用の幻覚剤LSDを使って、サイケデリック・セラピー(LSDセラピー)を行なっていた人物でした。当時、数千回(直接に三千回、間接に二千回)にわたるサイケデリック・セッションにたずさわり、人間の深い治癒プロセスや、「意識の本質的要素」を研究していたのですが、そこで現れてくる現象に、他の誰よりも通じている人物です。
 かつて、LSDの発見者A.ホフマン博士は、「私はLSDの父(ファーザー)と呼ばれるが、グロフ博士は、ゴッドファーザーだ」と呼んだほどに、サイケデリック体験の諸相に深く通じている人物です。
 そんなグロフ博士が、サイケデリック体験について得た結論は、通常の私たちの科学的世界観を大きく超えるものにもなっています。
 実際、サイケデリック体験においては、そのような不可思議な現象も多々起こってきますので、グロフ博士の言葉も覚えておくと大変助けになります。

「サイケデリック体験の重要な特徴は、それは時間と空間を超越することである。それは、日常的意識状態では絶対不可欠なものと映る、微視的世界と大宇宙との間の直線的連続を無視してしまう。現れる対象は、原子や分子、単一の細胞から巨大な天体、恒星系、銀河といったものまであらゆる次元にわたる。われわれの五感で直接とらえられる「中間的次元帯」の現象も、ふつうなら顕微鏡や望遠鏡など複雑なテクノロジーを用いなければ人間の五感でとらえられない現象と、同じ経験連続体上にあるらしい。経験論的観点からいえば、小宇宙と大宇宙の区別は確実なものではない。どちらも同じ経験内に共存しうるし、たやすく入れ替わることもできる。あるLSD被験者が、自分を単一の細胞として、胎児として、銀河として経験することは可能であり、しかも、これら三つの状態は同時に、あるいはただ焦点を変えるだけで交互に起こりうるのである」

「サイケデリックな意識状態は、われわれの日常的存在を特徴づけるニュートン的な線形的時間および三次元空間に代わりうる多くの異種体験をもたらす。非日常的意識状態では、時間的遠近を問わず過去や未来の出来事が、日常的意識なら現瞬間でしか味わえないような鮮明さと複雑さともなって経験できる。サイケデリック体験の数ある様式(モード)のなかには、時間が遅くなったり、途方もなく加速したり、逆流したり、完全に超越されて存在しなくなったりする例もある。時間が循環的になったり、循環的であると同時に線型的になったり、螺旋軌道を描いて進んだり、特定の偏りや歪みのパターンを見せたりしうるのである。またしばしば、一つの次元としての時間が超越されて空間的特性を帯びることがある。過去・現在・未来が本質的に並置され、現瞬間のなかに共存するのだ。ときおり、LSDの被験者たちはさまざまなかたちの時間旅行(タイム・トラベル)も経験する。歴史的時間を遡ったり、ぐるぐる回転したり、完全に時間次元から抜け出て、歴史上のちがった時点に再突入したりといった具合だ」

「非日常意識状態についてふれておきたい最後の驚くべき特徴は、自我(エゴ)と外部の諸要素との差異、もしくはもっと一般的にいって、部分と全体との差異の超越である。LSDセッションにおいては、自己本来のアイデンティティを維持したまま、あるいはそれを喪失した状態で、自分をほかの人やほかのものとして経験することがありうる。自分を限りなく小さい独立した宇宙の一部分として経験することと、同時にその別の部分、もしくは存在全体になる経験とは相容れないものではないらしい。LSD被験者は同時にあるいは交互に、たくさんのちがったかたちのアイデンティティを経験することができる。その一方の極は、一つの物理的身体に住まう、分離し、限定され、疎外された生物に完全に同一化すること、つまりいまのこのからだをもつということだろう。こういうかたちでは、個人はほかのどんな人やものともちがうし、全体のなかの無限に小さな、究極的には無視してかまわない一部分にすぎない。もう一方の極は、〈宇宙心(ユニヴァーサル・マインド)〉ないし〈空無(ボイド)〉という未分化の意識、つまり全宇宙的ネットワークおよび存在の全体性との完全な経験的同一化である」

(グロフ『脳を超えて』吉福伸逸他訳、春秋社) ※太字強調引用者

 グロフ博士の結論では、サイケデリック体験の中では、「意識 consciousness 」というものは、時空を超えた、自由で、まさに無限の働きを示してくるものなのです。


【6】開かれた、生きた宇宙の響きあい―サイケデリック・シャーマニズム

 さて、以上、サイケデリック体験の指標となるさまざまな切り口を見てみました。
 しかし、実際のサイケデリック・シャーマニズムを深く体験すると、私たちの世界観は、もっと直接的、感覚的、直観的な形で大きな影響を受け、変容していきます。

 しかるべき準備が整っている人の場合、メディスンの力を受けて、私たちの意識は、近代人の閉じて干からびた(死んだ)意識から抜け出していきます。
 私たちの意識は、しなやかに拡張し、宇宙的に透過した意識に変容していきます。
 さまざまな形態の意識を理解できるようになり、遭遇し、交わっていきます。

 近代的な人間中心主義を超脱し、宇宙や万物をきちんと生きた存在として、対等に遭遇・体験できるようになっていくのです。
 本来のシャーマニズム的な世界観が、甦ってくるのです。
 人によっては、それは「死と再生」の体験、「破壊と再生」のような体験ともなります。
 そして、新しい感性と価値観をもって、この人生や世界(宇宙)を生きていけることになるのです。
 「新生 incipit vita nova」ともいうべき生が新しい現れてくることになるのです。

【関連ページ】
「アヤワスカ―煉獄と浄化のメディスン(薬草)」
さまざまなメディスン(薬草)の効果―マジック・マッシュルーム、ブフォ・アルヴァリウス(5-MeO-DMT)
→「サイケデリック psychedelic (意識拡張)体験とは何か 知覚の扉の彼方」
「変性意識状態(ASC)とは何か はじめに」
「英雄の旅 (ヒーローズ・ジャーニー) とは何か」
【図解】心の構造モデルと心理変容のポイント―見取り図


【ブックガイド】
変性意識状態(ASC)やサイケデリック体験、意識変容や超越的全体性を含めた、より総合的な方法論については、拙著
『流れる虹のマインドフルネス―変性意識と進化するアウェアネス』


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