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経済学は使えない? 限定合理性について 世界標準の経営理論#4

今回は入山章栄さんの『世界標準の経営理論』の中でも第11章の限定合理性について紹介します。経済学に懐疑的な方や、経済学を学び始めた人は是非読んでみてください。

カーネギー学派の主張

皆さんは経済学を理想論だと感じたことはありますか?もしくは経済学を学んだけど現実にはこんなうまくいかないよと思ったかもしれません。

これはまさしくカーネギー学派の主張の根底にあるものです。カーネギー学派とは企業行動理論や、知の探索・知の深化の理論の総称ですが、要は従来の経済学を批判を根底に持つ学派だと認識してもらえればOKです。カーネギー学派はこのような主張をします。

経済学は市場メカニズムや社会全体の厚生を重視するあまり、『企業・組織の現実の意思決定メカニズム』を軽視してきた

ではこの主張を考える前に、まずは経済学の前提を確認しましょう。なお、ここでは1度企業だけに焦点を当てます。

経済学の合理性

経済学では企業やその運営者は合理的に意思決定すると仮定されています。この合理的という仮定があるからこそ、どの選択をするかが決まるため、数学的に表記したり論理的に説明ができるわけです。しかしこのほかにも暗黙の前提があり、カーネギー学派はそれを疑問視しています。その前提とは以下の3つです。カッコ内はざっくりとした説明です。

・認知の無限性(意思決定者は選べる選択肢を無数に知っている)

・最大化(意思決定者はどの選択肢が一番得か事前にわかっている)

・プロセスを重視しない
(数学で解を出すように、1番良い選択肢を一瞬で導ける)

こうして改めて見ると、確かに経済学では当たり前の前提でしたが、現実世界では神様でもない限りあり得ないですよね。実際にはどの選択肢が一番いいか完璧にはわかりませんし、そもそも選択肢全てを知るなんてことはほぼ不可能です。

限定合理性

上のような経済学への批判から生まれたのが「限定合理性」という考え方です。本書の定義は以下の通りです。

限定された合理性とは、「人は合理的に意思決定をするが、しかしその認知力・情報処理力には限界がある」というものだ。

要は今までの前提はちょっと無理があるよねということです。ではそんなカーネギー学派は意思決定をどのように捉えているのでしょうか。カーネギー学派のサイモンは以下の4つのような特性があるといいます。

・合理性
(合理性は経済学と同じく仮定するが、与えられた条件下で最適なもの、と考える)

・認知の限界性
(選択肢は全部知り得ない。せいぜい10%くらいしか認知できず、その中で選択する)

・サティスファイシング
(上の最大化に対応する概念で、どれが一番いいかではなく、限られた選択肢の中でとりあえず満足できるものを選ぶ)

・プロセスの重視
(選択した後、意思決定者は行動に移す。その行動の結果新しい選択肢が見見つかり、選択を変えるかもしれない。選択→行動→認知の拡大を繰り返しより満足する選択肢を選び続ける。)

下の図は本書で著者がイメージを図化したものです。

スクリーンショット (26)


(引用:『世界標準の経営理論』)

カーネギー学派では人は行動によって限定された認知の範囲を広げられ、新しい行動の選択肢を得てまた行動する。その結果新しい選択肢が発見され…というように意思決定を捉えます。これがカーネギー学派の原点である限定合理性です。

ホンダの成功に学ぶ限定合理性

ホンダが米国市場に参入した例は従来の経済学と限定合理性を理解する上で非常に良い例です。面白いのでぜひ読んでください。1960年代にホンダは米国オートバイ市場に参入し、50㏄の小型バイクで大ヒットしました。

このホンダの大成功をその後に分析したのが世界的なコンサルティングファーム、BCGです。BCGの出した結論は「ホンダは日本で大量生産を行い、スケールメリットを実現。コストリーダーシップによって米国の中産階級に低価格市場という新しい価値を提供した」というものでした。ホンダは経済学の理論、戦略に基づき計画的に着実に成功を収めたといわんばかりの結論です。

しかし実際の本田の米国市場への進出は戦略的なものではなかったといいます。当時の幹部らに後にインタビューしたところ、回答は「米国でとにかく何かをやってみようという気持ちだけで、戦略などなかった」というものでした。実はホンダは350㏄など米国ですでに普及していた大型バイクのセグメントを狙っていたらしいのです。これは衝撃的ですよね。

しかし実際には売ろうと思っていたホンダの大型バイクは米国人が乗ると故障やトラブルが頻発しました。一方で米国に出てみたから(行動→認知の範囲を広げた)こそ、小型バイクという選択肢が見えました。実際に現地の人が乗り回しており、ニーズを認知したのです。そこで小型バイクにシフトした(より満足する選択肢に合理的に変えた)ところ、結果は大成功だったというわけです。

ただここで強調したいのはどちらが正しいというわけではありません。切り口によって同じ結果を説明するにも大きく違うやり方があるということです。著者も本書で再三書いているように、「思考の軸」としてとらえることが大切です。

個人的には自己啓発によくありがちな行動しろ!といったアドバイスが経済学の派生形で出てくるのは面白かったです。

まとめ

・経済学は非現実的な仮定を含む場合もある

・限定合理性のほうが実際の行動に近い

・限定合理性では行動することでより合理的な選択ができる

以上が限定合理性のまとめです。なお本書ではこの続きに、限定合理性に基づいた企業の意思決定プロセスのモデルなどが書いてありますので、気になった方は買ってみてください。

最後まで読んでいただいてありがとうございました。

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