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【書評・要約】なぜ差別化が大事なのか SCP理論『世界標準の経営理論』#1

今回から入山 章栄さんの『世界標準の経営理論』の要約を何回かに分けて投稿します。というのも、この本はたくさんの理論が紹介されていて、1つにまとめきれないのです…

今回はSCP理論とポーターの競争戦略について要約し、なぜ企業は差別化を重視しているのかについて解説しようと思います。

SCP理論(産業組織論)とは

SCP理論とは簡単に言うと、この世には構造的に儲かる産業ともうからない産業があり、その儲かる/儲からないの構造を体系化したものです。

例えば本書では米国主要産業の株主資本利益率が載っていて、製薬業や医療品の収益性は比較的高い一方で、情報通信や航空産業の収益率は低いことが挙げられています。産業ごとになぜ収益率が違ってくるのかの疑問を解決するのがSCPです。

そしてそのSCP本質、骨子は「独占に近い業界ほど儲かる構造であり、完全競争に近い業界ほど儲からない構造である」です。例えばたばこ業や製薬業は法律により独占に近い状態(寡占)なので想像しやすいと思います。

すなわち企業としてはいかに自社の環境を独占に近づけるか、ということが重要になります。

ちなみにピーターティールも「完全競争下では長期的に利益を出す企業は存在しない。」と同じようなことを言っていますので、気になった方はこちらの記事から読んでみてください。

独占に近づきやすい業界

ではどのような産業、業界が独占に近づきやすいか。ここで考え方が分かれるので便宜上「経済学のSCP」と「経営学のSCP」と名前を分けて説明したいと思います。成り立ちや研究者まで知りたい方は是非本を買ってみてください。

経済学のSCP

経済学のSCPでは、参入障壁の高い業界が独占しやすいと考えました。この参入障壁には法律や規制なども含まれるので、例えば日本の認可事業である銀行などは高くなりがちです。

経営学のSPC

経営学のSCPはそれに対しこう主張しました。

『業界の参入障壁』だけでは企業の収益率を説明するには不十分」と主張した。代わって彼らが提示したのは、「そもそも参入障壁は産業だけにあるのではない。 一産業のなかにも『 企業間の移動障壁』 がある。それを理解しないと本質を見誤る」というものだった。

言い換えると、産業の枠組みで見るのではなく、似ている商品、似ている進出地域、似ている費用構造という枠組みで企業をグループに分けて考えろ、ということです。本書では国内自動車製造業での例が挙げられています。

日本の国内自動車製造業を取り上げよう。この業界にも、企業同士のグループは存在する。例えば「軽自動車メーカー」と「乗用車メーカー」は別のグループだろう。両グループの間の移動障壁も高そうだ。カルロス・ゴーン氏がCEOに就任する前の日産自動車は軽自動車に進出していなかったし、他方で国内販売の9割以上を軽自動車が占めるスズキは、乗用車セグメントに長らく本格参入してこなかった。BMWやダイムラー(メルセデス・ベンツ)などの「ラグジュアリー車メーカー」と「大衆車メーカー」も違うグループだろう。

産業というのは制度上の枠組みなだけであって、その参入障壁だけでは説明できないと経営学のSCPでは考えます。

そうだとすると、企業は自社のグループをほかのグループの似せないこと、そしてそのグループ内の企業数も少なくするという戦略を立てます。

これこそが差別化が重要な理由であり、経営学のSCPが大事な理由だと著者は語ります。たとえ収益率が低い業界であってもそのどこかで誰にもまねできないよう独占してしまえば儲かるということになります。


差別化だけを言ってしまえば今や当たり前のことですが、その差別化という考えのもとにはこのような理論があります。著者は常に、理論を思考の軸にしろと語っています。それには理論の結論やフレームワークを丸覚えするのではなく、理解することが必要なのです

SCPの限界

実は近年、経営学研究ではSCPの有効性を疑問視する声が上がっています。そこで著者の考えを引用します。

結局SCPの限界とは何なのだろうか。以下、筆者の見解を2点述べたい。 第1に、SCPはそもそも「安定」と「予見性」を前提としていることだ。SCPは古典的な経済学に立脚しており、「市場構造を規定する条件が与えられれば、市場は最終的に均衡状態になる」という前提がある。
しかし、もしその業界がハイパーコンペティションにあるなら、状況はまったく異なる。そこでは市場を規定する参入・移動の条件がめまぐるしく変わり、均衡が定まりにくい。結果として、競争環境の方向性が極めて予見しにくい。すなわち、不確実性が高い世界だ。そのような世界では、「安定」と「予見性」を前提にしていたSCPモデルは、通用しにくくなる可能性があるのだ。
第2に、SCPは人の認知面に入り込まない。第1部冒頭で述べたように、古典的な経済学の前提は「人間は合理的で、認知バイアスに影響されない」と考えるからだ。

簡単にまとめると、経済学からスタートしているSCPは経済学の前提を使っているが、その前提が違っているケースがあるので限界がある、ということです。

だからこそ丸暗記ではなく思考の拠り所にしてほしいという著者のメッセージがあります。


まとめ

・独占は儲かる一方競争は儲からない

・業界単位で考えるのではなく似ているグループで考える

・前提が違う場合SCPが有効ではないケースもある

以上が入山 章栄さんの『世界標準の経営理論』のSCP理論についての要約です。経済学のSCPはあまり掘り下げませんでしたが、ここにその前提が詳しく書いてありますので気になった方は買ってみてください。


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これからも本の要約をメインに発信していこうと思うので、おすすめの本や要約してほしい本がありましたらコメントください。最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

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