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凡作を割るべきか、生かすべきか | 自由大学 メールマガジンVol.554

「連載はね、毎回おもしろい必要はないんだよ」

むしろ、ハズレ回がなきゃいけない。そんな趣旨のことを、多数の連載執筆を抱える作家さんが話していました。いやいや、毎回おもしろいに越したことはないだろうに。頭にはてなマークを浮かべていたら、どうもこんな理由のようです。

「おもしろい」が普通になってしまうと、慣れてしまって読者はおもしろいかどうなのかわからなくなってしまう。ハズレの回がたまにあるから、ああやっぱり普段は面白かったんだと認識できる、というわけなんです。

たとえば、高速道路を一定速度で走っていると、100キロでもゆっくりに感じてきます。サービスエリアで休憩して、また加速するとやっぱり100キロは速いんですね。サッカーやバスケの選手も、緩急の差を大きくしてドリブルで抜いていきます。ダンスも緩急ですね。いくら動きが速くても、一定だと驚きがないんです。

人間は「差分」にこそ反応する。ハズレ回も良い緩急になる。そう考えたら、連載のプレッシャーがずいぶん軽くなり、力を抜いて書けるようになりました。たとえ全力を出しても、凡作になってしまう時はどうしたってありますから。

陶芸家のようにガシャーンと割るのも勇気だが、凡作を人目に晒していくのも勇気。ぼくは後者のスタンスです。打席にたくさん立てば、必ず発見がある。書き手としてはいまいちな出来でも、いつも以上に読者から共感が集まる原稿もありますから、不思議なものです。

「そうそう、それが言いたかったのよ! 私も同じ考え」

ぼんやりしていたモヤモヤを、うまく言語化してくれてスッキリ。ありがとうと喜ばれることもある。そんなとき、自分の評価軸がすべてではない、と気づかされます。
そうしてわかってきたのは、定番と独自性のバランスです。もし1冊の本を書くのだとしたら、共感される「定番」8割と驚きの「新説」2割。この配分がちょうどいいんですね。

本を書こうとする挑戦者は、いつだって「新説を世に問おう」「読者を驚かせたい」と目論んでいます。だから、理想として「新説10割」の本を目指してしまうんです。だって、定番の話なんてすでに先人が言い尽くしてるし、他の人でも書けるじゃないか。

わかります。でも、新説オンリーでは、読者との信頼がうまく構築できないんですね。

「そう、それ私も同じこと思ってた」
「うん、わかってる、やっぱりそれでいいんだよね」

こういう定番の8割があるから、つながれる。「いい天気ですね」と空を褒め合う、挨拶みたいなものです。どうやら私とこの著者は文化度と感性が近いらしい。しっかり橋をかけてから、初めて新説を差し出すんです。

「え、そんな話はじめて聞いたけど、ほんと?」

驚くけれど、信頼関係ができているので拒否反応は出ません。確かにそうかも。いいこと聞いた、となります。

せっかく一冊の本を読んだのに、知ってる話ばかりだったら、損した気持ちになりませんか。だから定番10割でもいけません。新説2割は必要です。この2割があなたの独自性になっていく。

ファッションでいえば、パリコレで披露する最新コレクションみたいなもの。奇抜すぎて日常では絶対着られないけど、ブランドの世界観を示す作品です。

20代前半から書き始めた当初は、毎回おもしろい原稿を目指して全力でした。緩急や余白、抜け感、そういうバランスなんて考える余裕もなかった。いつも全力でど真ん中ストレートのみ。もしつまらないメルマガの配信が続くと、1万人中500人くらいがごそっと解約されるんです。

シビアですけど、読者が減るのは、悪いことじゃありません。本当に伝えたいメッセージは、耳障りのいいこと、おもしろいことばかりじゃないので。立場を明確にするほど賛否両論あって、読者が減ったぶん、残ってくれた人のエンゲージメントは上がっている。そう信じて、数字に一喜一憂せずに、読者の顔を思い浮かべながら書いてきました。

100%を目指してあまりに自己検閲を厳しくすると、作品数が増えません。ある程度の量がないと、誰の目にもつかないし、誰の心も満たせないし、一冊の本にもなりません。

書き続けてきたブログの過去記事を見直したら、どうも稚拙に感じる。ぜんぶ消したい気持ちもわかります。だけど、消し始めたらキリがないです。誰だって成長して目が肥えてくれば、過去の作品は稚拙で恥ずべきものに見えるものです。いつだってベストな作品は「Next One」なのですから、それ以外は凡作です。

成長記録として、消さずに残してあげてください。スキルはないけど、せいいっぱい背伸びをした若かりし自分。やけどしそうな情熱が、現状にあぐらをかきそうな自分を蹴り上げます。

20年も経てば、恥ずかしさを通り越して、一周回って愛おしくなる。そして24歳には24歳なりの、44歳には44歳なりの、その時にしか言霊が乗らないメッセージがあります。88歳になったら、何を書くのでしょう。

毎回、満点にはほど遠いし、なかなか傑作は生まれない。もどかしいけど、伸びしろがあるからこそ、続けられるのかもしれません。きっと、どんな仕事も同じなのでしょう。凡作でも器を割らずに、愛していこうではありませんか。

TEXT:自由大学 学長 深井次郎自分の本をつくる方法 教授

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<ピンときたらゴーだろうね。>
https://freedom-univ.com/

※定員に達し次第受付終了となります。

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