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デザイン力を上げるには?

授業ではたまにこんな質問があります。
いろんな答えがあると思うけど、私なりに思うところをちょっと書いてみようと思います。


序 デザインセンスを磨くということ

時々、学生さんたちの中には持って生まれた才能を持つ人がいて、特に何も学んでなくても(本人云はく)、そこそこデザインできてしまう人っています。
ただ、いろいろ聞いていると、”特に何も学んでいない”というのも実は正確ではないな、と思います。
というのも、”自分では学んでいないつもり”でも、趣味や”好き”の中で、意外と自然に学んでいたりします。

例えば自分は絵を描けない(美術学部的に)!という人も、実は小さな頃から絵は描いていた。つまり、公的な機関で習っていないというだけで、絵の経験はその人なりにあるわけです。そういう人は、持っていた才能だけで突如絵が描けるようになるわけではなく、やはりそういった期間が必ずあります。

前置きが長くなりましたが、私なりに思うのは、
デザイン力は、いくらでも磨ける ということです。というか、むしろ磨いて完成するものだと思います。
しかしそれは、”教育機関に行ってデザインを学ぶ=授業を受ける” ということだけでは、できません。教育機関で働いているにも関わらず、はっきりいってしまいました笑

もちろん、課題も含め、日々いろんな作品を作り出し、デザインしていく実践を積み重ねるのは、スキルを上達させる上で非常に重要だと思いますが、
それ以外にここで2つ紹介します。これはデザイン力を磨く、というよりも、デザインセンスを磨く、というさらに上位のスキルになると思います。

それにもいろんな方法があると思いますが、ここでは二つ挙げておきます。

1. いろいろなものを見る、体験する

一つ目は、いろいろなものを見る、体験するということ。
特に、本物をたくさん見ることです。
例えば、美術館でしかみられないような、歴史的な作品などを見ることです。
例えば、お店に行って、人気の商品を見る(買う、試す)ことです。

以前、私は都内で商業系のインテリア事務所でデザインを担当していました。商業系は、ほとんどがお店なのですが、ティールームのデザインを受注しました。
客層や価格設定、店員のファッション、ショップカード、ロゴなどの取りまとめはプロデュース会社が担当し、我々インテリアデザイン事務所チームはその中で内部の設計を担当します。(ロゴデザインなんかは、グラフィックデザイン事務所に発注しています。)
その案件では、プロデュース会社がデザインイメージなどのざっくりとしたイメージを担当しましたので、そこから考える必要はなかったのですが、
まずやっていったのは、大量のデザイン本を見てイメージを集めること。そして、人気のカフェや新しくできたカフェに片っ端から行きました。
プロデュース会社の人との打ち合わせは、すべてこのようなカフェでやっていました。
重要なのは、そこで「見る」だけでなく、「体験もする」ことです。
その店に実際に行って、実際にメニューを注文し、食べてみる。
お金も払って、サービス全体の「デザイン」が体験として得られます。
”デザイン”というとあたかも視覚的なものだけを意識しがちですが、そうではなく、お店などでは、メニューや価格も含めてすべてがデザインされています。それを客として体験することで初めて、全体像がわかります。

このような”体験”は、デザインセンスを磨く上で非常に重要なものとなります。なので、現地に行って体験するということに対して自己投資できるのであれば、それはやるべきだと思います。


歴史主義の乱立の夕暮れ1 by F.D

2. デザインや建築の歴史を学ぶ

え?と思うかもしれません。
なぜ、歴史を学ぶことがデザイン力、センスを磨くのに重要なのか、少し解説して行きます。

私が大学生の時、建築の歴史・意匠学研究室に在籍していました。
建築学科は通常、意匠系、計画系、環境系、構造系 などに分かれます。その中で、将来「設計」や「デザイン」をやりたい人というのが、大抵、私の大学では、意匠系か計画系に行っていました。

今現在、近い年代の人で、雑誌に載ったりデザイナーとして活躍しているのは、圧倒的に”歴史意匠系”の人が多いです。
これまであまりそのことに注視してきませんでしたが、なぜなのか?
その理由は、私自身、デザインの現場に行ってはっきりと実感しました。

実は、デザインや建築の歴史を知るのは、デザインする上で必須の知識になります。

ところで、建築の場合は、歴史の知識は必要のない場合もあります。例えば新しいビルディングなどを設計する場合、組織で設計する場合、個人の住宅を設計する場合など、多くの場合は、あまり関係がないかもしれません。そこではむしろ、歴史=知識、としての認識が強いかもしれません。

しかし、そうではない場合も多くあります。
(作品を作る場合などは特に、関係してきます。)

例えばあなたがクライアントから、インテリアのデザインやコーディネートを頼まれたとしましょう。
そこで、〇〇風にしたい。
というとき、その〇〇がどのようなものか分かっていないと、お仕事はできません。
この”〇〇風” これこそが、歴史の知識と直結します。
例えば、ロココ風の家具を置きたい。と言われたとします。
あなたはロココがどのようなものか知っていますか。
そういう話です。

それはどのような場合でも大なり小なり出てきます。

かなり近代に絞ったとしても、ミッドセンチュリー風のインテリアにしたい。
と言われ、ミッドセンチュリーが何かわかっていないとお仕事はできませんよね。
インテリアには、この、〇〇風と言われる王道の様式なるものがいくつか存在しますが、そのどれもが過去に何度も行われてきて定番化=様式化したものになります。
それがどのような雰囲気で、どこからやってきて、どのようなトレンドを持っているのか。過去から現在までについて理解していなければなりません。そうでければ、適当にピンタレストや画像検索で雰囲気を掴んで、それはそれなりに何かを模倣した”軽い”デザイン止まりになることでしょう。

このように、何かをデザインする場合に、歴史の知識は必須になることが多いです。(だからこそ、インテリアコーディネーターや建築士の試験では、歴史が必修ではあるのですが)
これを、試験用、知識用、と思ってはいけません。
実務上、必須の知識、あるいはスキルだと思ってください。何を知っているか、
何を理解しているか、すべてがデザインに影響してきます。

では、インテリア以外ではいらないのか?
私はそんなことはないと思います。
例えば、イラストを描く仕事があったとします。
そのイラストは中世のイギリスを舞台にしたとします。背景を書くことを頼まれた場合、中世のイギリスの建築様式や人々の生活用具、ファッションについて調べなくてはなりません。決して当時の人がユニクロを着ているわけではないのです。

デザインとは、過去の出来事(=歴史)から現在(トレンド)を理解した上で、作られねばなりません。

私はそう思っています。

他にもポイントはいくつかありますが、実務の一例を挙げてみました。


歴史主義の乱立の夕暮れ by F.D







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