本日の本請け(2023.6月)
読んだ本と、本のお供の飲み物やお菓子ーー「本請け」を一緒に写真に撮って載せております。
『ノッキンオン・ロックドドア2』青崎有吾(徳間文庫)
先月1巻を読んだので、続けて2巻を読みました。
不可能専門の探偵と、不可解専門の探偵がバディのミステリ。
シリーズなのかな?と思っていたので、1巻から気になっていた謎が解けてびっくり。
「穴の開いた密室」がインパクトあって面白かった!
不可能と不可解について、トリック専門の探偵と動機専門の探偵のことかと思ってたらそういうわけでもなかった。
キャッチーで気軽に読めるミステリなのだけど、フィクションラインがゆるいのが気になってしまった。1巻のときから簡単に事件現場を探偵に見せちゃうこと、捜査の内容を話ちゃうことが若干気になってしまっていたんだけれど、2巻は特に、大学の課題でそんなことをさせるのはコンプライアンスとしてだめでしょう……という気持ちがどうしても拭えなかった。トラブルになるのが目に見え過ぎている。
ドラマではそのへん、演出とかで勢いで押し切るのかもしれない。
『あたたかき日光 三浦綾子・光世物語』田中綾(北海道新聞社)
三浦綾子さんの執筆の様子などを書いた、夫の光世さんの日記。それを、三浦綾子記念文学館の館長中心に、小説風の読み物に仕上げ、写真等資料も載っています。
昨年から三浦綾子さんの作品を読んでいたため、北海道新聞の連載を少し追っていました。今回、一冊に内容がまとまったため購入。
こちらは著者の方のインタビュー。
インタビューを読んで、本を読んでいておおっ、と思った部分はどれも創作の部分だと発覚し、なるほど、エモくなるようにしてたんだからそりゃそこにぐっとくるよな、となんだか納得してしまった(笑)。
北海道に住んでいる者として身近な場所の名前や、聞き覚えのある事件等もいくつか出てきて、地続きなんだなと感慨深くなりました。
ここのところ、三浦綾子さんに興味があって自叙伝的なものを読んできていたので、次は作品自体をもう少し読みたいと思っています。『氷点』『塩狩峠』を読んだことがあるくらいだし、それもものすごく前なので。
『1Q84ーーBOOK2<7月ー9月>前編』村上春樹(新潮文庫)
オーディオブックで数えると3巻目。
天吾の朗読をしている柄本さん、牛川のところと天吾の父のところがよかった。
牛川はとても不気味で得体が知れないところがとても似合ってて。
天吾の父のところは、淡々としているのがちょっと不気味さもあった。
「あなたは何者でもない」
「何者でもなかったし、何者でもないし、これから先も何者にもなれないだろう」
と、いう言葉がずーんと胸にきました。父親から言われるのは、余計にしんどい。
そこに続く、
「僕は何者でもない。たったひとりで、夜の海に投げ出され、浮かんでいるようなものです。手を伸ばしても誰もいない。声をあげても返事は返って来ない。僕はどこにもつながってはいない」
という言葉も。この寄る方のなさ、普通に生きている自分たちにも経験がある気がします。
上の本文中の引用ですが、オーディオブックで聴いているのを文字起こししたので、原文ママではないと思います。
『社会契約論ーーホッブズ、ヒューム、ルソー、ロールズ 』重田園江(ちくま新書)
以前読んだ『世界のいまを知り未来をつくる 表論文読書案内』でおすすめされていたものを読んでいこう、という試みのひとつの一冊。
社会の教科書でよく見る「社会契約論」……ルソーの名前は知っているけれど、それがどんなものなのかはよくわかっていませんでした。教科書に載っている文面を見ても、「一般意志」っていうのがなんだかふわふわしていて。
最初に「なぜ今、社会契約論の話をするのか」というところから話をしてくれるのでとても納得しました。
以前、貴志祐介の『我々は、みな孤独である』を読み終わったときに、結末について「うーん」と忸怩たる思いがあって。
ネタバレになるので深くは話しませんが、私は「えーと、つまり、個性よりも全体が大事ってこと?」と感じて、ちょっとむっとしてたところがありました。
けれど、そうじゃなくて……社会契約論のお話を軸にしていくと、新たに解釈することができた。個人的にですが、とてもすっきり。
「社会契約論」は「人が他者との間の埋めようのない隔たりを前にして、それでも何かしたいと願うときつねにそこに立ち返る一般的な視点を示してくれる思想なのだ」と最後にむずんでいるけれど、どうしてそう言えるのか。その理由をさくっとは説明できなくて、そのためにはこれだけの文字数、ページ数が必要であることを実感を持ってまざまざと感じました。とても今、読んですばらしくよかった。
『愛するよりも愛されたい 令和言葉・奈良弁で訳した万葉集1』佐々木良(万葉社)
短歌が好きになって、万葉集のことを知りたいなー、でもいきなり原文は無理ー、と思っていたときに記事を見ました。
欲しいなと思っていたけれども本屋で見かけず見送っていましたが、見つけたので購入しました。
面白かったのですが、個人的にはあまりにもくだけすぎている気もしてしまいました。
マジ卍とかも出てきて気になってしまって、自分はもう少し普遍的な言葉のものが読みたかったんだなと気づきました。くだけ具合がもう少し、中間くらいの本を次は読んでみたいかな……?
『V.T.R.』辻村深月(講談社文庫)
先月恩田陸の『鈍色幻視行』を読んだ、その作中作である『夜果つるところ』が今月出る、というお話をお友達にしたところ「あ、辻村深月のチヨダコーキみたいなこと?」と言われて「そう!」と返しました。
そうだあれも作中作だった、と思って久しぶりに読了。
この作品、とても好きで……いつでも読めるようにしたいと電子書籍を入れておいたので思い立ったときに読めました。
マーダーライセンスを持ち、合法的に人を殺せるティーは、現在は女のヒモ。
ある日、三年前に別れたアールから突然電話がかかってくる。ひどい噂をたくさん聞くだろうけど、アタシは変わっていない。短い電話が切られた後、ティーはアールについてを調べ始める。
読んだ本の内容は忘れてしまって「好きだ!」という感情や感触しか覚えていないことも多く、なぜ好きだって思ったんだっけ、と考えながら読みました。
結論としては、この本の登場人物たちの、「ままなさらなさ」が好きなんだよなあって。
一見、矛盾しているようにも見える。整合性が取れていない。それでも、そうとしか生きられない。
『スロウハイツの神様』を読み返してからの方がいいのだろうけど、こちらも電子書籍を購入したままになっているので、いつか。
『猫を抱いて象と泳ぐ』小川洋子(文春文庫)
『1Q84』をオーディオブックで聴きつつ、気分転換に別のものが聴きたいなーと思って聴き始めてみた作品。
主人公は閉じた唇を持って生まれてきた男の子。プールで死んでいたバスの運転手を見つけたことをきっかけに、バスに住んでいる「マスター」にチェスを教えてもらうことになる。やがて彼は、人形の中に入り盤の下に潜り込んでチェスを指す「リトル・アリョーヒン」となる。
朗読が非常にすばらしい!となり、夢中で聴き終わってしまいました。
キャラが変わったのがわかるし、主人公の「リトルアリョーヒン」と人形の「リトル・アリョーヒン」では言い方が違って、どちらを示しているのか、朗読でわかるのが本当にすばらしかった。
何よりマスターとのお別れ……涙ぐんでしまいました……。
また、語り口が「朗読」、誰かにお話を読んでもらう、という形式に合い過ぎていた。
思わず朗読をした人を調べてしまった。「声の小さい人たちの話」。いいなあ。
読み終わった後に読んだインタビュー。もう十年以上前の小説だったのか。
成長し過ぎて屋上から降りられなくなってしまった象。壁の隙間から出られないミイラ。バスから出られなくなりそうなマスター。
取り返しのつかない物事。それでもそこにいる人々。良いお話でした。
『夜果つるところ』恩田陸(集英社)
先月読んだ『鈍色幻視行』の作中作品。1ヶ月、首をながーくして待っておりました。
産みの母親、育ての母親、戸籍上の母親。三人の母親のいる墜月荘で暮らす主人公は学校にも通わず、その奇妙な屋敷で幼少期を過ごしていく。
そこに訪れる人々との交流と三人の母親たちとの関係、やがてその暮らしが終わるまで。
装丁がとても凝っていて素敵でした。それと引き換えにお値段がかわいくなくなっていますが……(笑)。
ページの数字のフォントがとてもクラシックでよくて、めくるたびにニヤニヤしちゃった。
読み終わった後に、『鈍色幻視行』を読むと『鈍色』の登場人物たちと『夜果つるところ』の話をしている気持ちになれてとても良かったです。
うーん、私はでも、こっち読んだ後に『鈍色幻視行』を読みたかった!
『鈍色』の終盤で『夜果つる』のネタバレがあるので。
発売順、逆にして欲しかったなあ。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?