今の、リアルな富山って? 注目のリトルプレス『スピニー』編集者・居場梓さんに聞いてみた【富山県・前編】
*画像提供:空耳カメラ
連載|地域のリアルを、地域の人の目線から。
日本の各地域には、地域に根ざし、地域の目線で活動を行い、発信を行うローカルな偉人が多く存在します。
この連載は、全国の各地域に住む方々に話を伺いながら、それぞれの地域の発信者である彼らの目線を通して見る「地域の今、地域のリアル」を探り、一望しようとする試みです。
今回は、富山県編。意外な富山の素顔が浮き上がってきました。
日常の奥行きに潜む人々の熱量 —富山県—
取材・文/荻布裕子
日本のスウェーデン!? 富山県を知ってますか?
中部地方の日本海側に位置し、北陸3県の1つである富山県。
3,000m級の立山連峰をはじめとする山々が囲み、その山が育むミネラル豊富な水は、水深最大約1,000mにも達する富山湾に注ぎ込み、豊かな漁場を形成している。
雨晴海岸から望む立山連峰
災害が比較的少なく、持ち家率やその延べ面積は全国1位で、幸福度ランキングはいつも上位。
最近では『富山は日本のスウェーデン』(集英社新書/井出英策著/2018年)という本も出されている。
勤勉とされる県民性ゆえか、実は“ものづくり王国”という一面も。
高岡銅器、越中和紙、井波彫刻など伝統工芸の産地や先端技術を有するものづくり企業が集積し、質のみならずデザイン性に優れた製品も数多く生み出されている。
400年の歴史を持つ高岡銅器/画像提供:(公社)とやま観光推進機構
小さな成功を収めたリトルプレス『スピニー』
さて今回、話を伺ったのは、リトルプレス『スピニー』編集を手がける、居場梓さんです。
「スピニー」を共同で編集・執筆する、居場梓さんと高井友紀子さん。
画像提供:空耳カメラ
カバンにもちょっと忍ばせて持ち歩きたくなるB6サイズの小さな冊子は、「富山の日常を旅するガイドブック」がコンセプト。
現在2号目まで発売されており、
・「駅前、徒歩15分のとやま案内」
・「とやまの週末、まちあるき案内」
といったテーマに沿って、作り手目線からの「好き」が集められている。
行きつけのお店や場所、富山の人にとってはおなじみの食文化などが一人称で紹介され、それぞれにまつわるストーリーに引き込まれる。
『スピニー』は1冊750円(税込)
画像(下)提供:空耳カメラ
現在この冊子が購入できるのは、県内複数の個人古書店などのほか、「富山県美術館」のミュージアムショップやD&DEPARTMENTの直営店「D&DEPARTMENT TOYAMA」、高級ホテル「リバーリトリート雅樂倶」のおみやげコーナーなど、県内外から情報感度の高い人がたくさん集まるところばかり。
さぞ戦略的に販促されたのだろうと思いきや、自然と声がかかり、広がっていったものもあるという。
一般書籍でも数千部を売るのが大変な時代。リトルプレスは一般書籍のようなマーケティングもしないし、少部数が当たり前だが、『スピニー』は創刊号の初版300部が1カ月も経たずに完売し、2版目を新たに1000部増刷。
リトルプレスとしては「成功事例!」と注目を集め、雑誌『POPEYE』や『ソトコト』にも紹介されるなど、知る人ぞ知るメディアとなっている。
地域誌を立ち上げるまで
この「スピニー」を立ち上げた居場さんは、富山生まれ・富山育ち。大学進学を機に上京し、東京で雑誌編集者、フリーライターとして活躍。
その後富山に戻り、一時期異なる仕事をしていたこともあったが、やはり自分には出版だと、富山でタウン情報誌を作る出版社の仕事に就いた。
出産・子育てのブランクを経て独立し、現在は富山経済新聞の編集長ほか、フリーマガジンの編集、webライティング、広告分野など、幅広い活動を行っている。
今の「スピニー」につながる構想は色々あったが、フリーランスとして働くなか、誰かの企画に沿って仕事をするだけでなく、自分の企画で好きなものを作りたい!と思ったことがその大きなきっかけの1つだった。
「好きなもの」に対して似た感覚を持つ元同僚のライター・高井友紀子さんに声を掛け、発行を実現させた。
ちなみに「スピニー」は英語の「spin」から来ていて、人々をいろいろ富山に巻き込んでいきたいという思いが込められている。
自分たちの目線、自分たちの足
メインの観光地の概要や、付近の飲食店の情報とちょっとした口コミ程度ならインターネットで簡単に情報を拾えてしまう時代。
「あくまで自分たちの目線、自分たちの足を使って感じてきたことをそのまま紹介し、自分たちが日常でどう使っているかを読者の人にみせていく、リアリティのあるガイドを作りたい」と居場さんは話す。
富山を訪れる人が、目的地を訪れる「非日常」—たとえば、世界遺産の五箇山を訪れるなどーを楽しんだあとに、「スピニー」を使ってもらって富山の「日常」を旅して奥行きを感じてもらう。
思い描くのは、そんな使い方だ。
普段の暮らしのなかにある良さや面白さをガイド
富山に帰り、タウン情報誌の編集を通じてアップデートした富山の情報と、一度県外に出たことで得た「富山の当たり前は外の当たり前ではない」という感覚。それらを通して、地元の人が気付きづらい普段の暮らしのなかにある良さや面白さを表現する。
そのためか、「富山の当たり前」を載せているにもかかわらず、実際は多くの富山県民が面白がって愛読してくれているようだ。
「例えば」として、「富山、普段の暮らしにある面白さ」の一部をガイドしてみよう。
◎富山、普段の暮らしにある面白さ Vol.1
「富山電気ビルディング」
富山電気ビルディング。エレベーター横の真鍮製ポスト。
* 画像提供:空耳カメラ
例えば1号目の巻頭で紹介した、「富山電気ビルディング」。
昭和20年の富山大空襲の戦火を逃れた数少ない建物の1つで、まちのシンボルにもなっている。
外の人にとっては、まちの歴史を垣間見る入り口。
地元の人にとっても、当たり前にありすぎて、館内を知らない人も多いかもしれない。例えば、ここに設えられた真鍮製ポストは中が1階から4階まで繋がっている。
『スピニー』本誌内では、ビル内を宝探し感覚で楽しめる、レトロ建築ならではの「胸キュンポイント」や老舗レストランを紹介している。
◎富山、普段の暮らしにある面白さ Vol.2
「BOOK DAY とやま」
「BOOK DAYとやま」開催の様子
* 画像提供:空耳カメラ
「噛めば噛むほど味わい深い、掘れば掘るほど面白い・・・富山ってそういう人が多いですね」と語る居場さん。
そんな富山県民の内に秘めた独自性は、各地で開催されるイベントにも表れている。
居場さんが真っ先に挙げたのは、「BOOK DAYとやま」。2018年5月の開催で6回目となったこのイベントは、「古本とカレー」「古本とレコード」など、年ごとのテーマに沿って出展者が一堂に会し、県内外からの客で盛り上がる。
「こんなに古本カルチャー、
サブカルチャーのようなものが発信できて、
県外からも人が来る大きな場が持てているのはすごいこと。
『古本』は富山でも地味なジャンルではあると思いますが、
それを少しメジャーに引き上げてくれたのが
このイベントだと思います」
ほかにも個人・団体を問わず様々なイベントが日々県内各地で開催されているが、居場さんが注目するのは「組み合わせの妙」だ。
東京でなかなか手の届かないようなアーティストがブッキングされていたり、それぞれの強みをコラボさせた意外性のある企画があったり…。
また、最近増加傾向にあるU・Iターン者が自分のスキルを活かして事業を起こす例も多く、まちに明るい話題をもたらしている。
◎富山、普段の暮らしにある面白さ Vol.3
「禅とサンドイッチ」
イベントで出されたサンドイッチ。 *画像提供:曹洞宗瑞龍山最勝寺
たとえば、先日あったのは、「禅」と「サンドイッチ」のコラボイベント。曹洞宗のお寺と富山市内のカフェの協力により催された。
禅の食事作法「行鉢」と坐禅をベースに、カフェの椅子で姿勢と呼吸を整え、サンドイッチとお茶を丁寧に静かにいただき、食事に対する意識を深めるというものだ。(イベント概要 → 富山経済新聞)
◎富山、普段の暮らしにある面白さ Vol.4
「スケッチモーニング」
富山市内の長屋の一角にあるギャラリー「スケッチ」で月に一度開かれる「スケッチモーニング」も面白い。画像提供:スケッチモーニング
東京から移住した編集者の女性が、そのときどきの季節や旬の食材と向き合って作った自家製酵母パンや焼き菓子、飲み物などを販売している。
毎月モーニングに合わせてポスターを製作しているのは「スケッチ」のオーナーで、隣で民芸などのセレクトショップを営む店長さんだ。
さて、前編ここまでです。いかがでしたか? スピニーから紹介させてもらった「富山の普段の暮らしにある面白さ」も、なかなか珍しい情報でためになったと思います。きっとどの情報からも、独特な富山の空気を感じとってもらえたのではないでしょうか? 次回後編では、編集者・居場さんに富山県民が肌で感じている富山について、一歩踏み込んで聞きいてみることにします。
つづく
今の、リアルな富山って? 注目のリトルプレス『スピニー』編集者・居場梓さんに聞いてみた【富山県】
▶︎ 前編
▶︎ 後編
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