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あいのさんか #2/10

公園をいつも独り言いいながら徘徊するマリエのクラスメイトのアツコちゃん。アツコちゃんは小学三年生とは思えない背の高いスレンダーで、お洒落な女の子だった。
前回までのあらすじ


2

 わたしは逆上がりができない。

 ママやパパに教えてもらおうとしたこともあったけど、わたしは人から教わるのがどうも苦手らしい。人知れず練習して克服するというのがわたし流なのだ。いつのまにかできるようになったところを見せると、ママもパパも心の底から感心してくれた。

 公園で逆上がりの練習をしていると、女の子が隣りの鉄棒でぐるぐる回りだした。アツコちゃんだった。わたしが挨拶するより早く、
「そんなんじゃ、いつまでたってもできるようにならないよ」
 といって、いきなりわたしの両の足首をつかんで持ち上げて、前のほうへ引っ張った。
「ちょっと、やめて!」
 危うく手を離しそうになって、そうなったらわたしは仰向けの状態で地面にそのまま落ちるところだった。
「もっと足を高く上げないと」
 アツコちゃんに悪びれる様子はぜんぜんない。

「乱暴は、やめて」
「乱暴なんか、してない」
 わたしは鉄棒に手をついて深呼吸した。深呼吸しながら、わたしは全身で拒絶をあらわにした。気まぐれな彼女のことだから、こんなことにはもう飽きて、ふらふらっとまたどこかへ行ってくれるものと思って、しばらく待った。
 ところが、アツコちゃんはその場を動かない。わたしの息が調うのをむしろ待つふうなのだ。

(ウザいな、マジで)

 思いながら、だったらわたしがここから去ればいいと思っていこうとすると、ちょっと、マリエちゃん、と呼び止められた。なんだか警告するような声だったので、どうしたんだろうと見返すと、両目をまんまるにして、さも珍しいものを見つけたという顔をしてわたしの足らへんを見ていた。
「そのあし、どうしたの」
「え?」
「曲がってるじゃん!」

 そういわれて、わたしはすぐに自分のX脚のことをいってるのだと察した。妹の脚がX脚だったので、それを笑ったら、わたしもX脚であるのをママから指摘された。あのときはほんとうにショックだった。それ以来、わたしには自分のあしにコンプレックスがある。曲がってるだけじゃない、人より短いんじゃないかと、それも密かに気にしていた。
「曲がってなんかいない。X脚だし」
「えっくすきゃく? なんか、すごそう」
 あいかわらずじろじろとわたしの足元を見つづけていて、それはほんとうに失礼な話で、わたしは泣きそうになるのをあやうく我慢して、アツコちゃんをにらみつけてやった。
「だから逆上がりできないんだよ。そんなあしの子で、できる子、見たことないもん」
 アツコちゃんはいってから、また鉄棒をぐるぐる回りだした。

つづく

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