あいのさんか #1/10
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ヒトサライがくる。
ヒトサライがくる。
アツコちゃんがまた独り言をいっている。公園には彼女はいつもひとりできている。男子たちに混じって鬼ごっこをしたりブランコを押し合ったりもするが、誰か女の子とつるんでいるところを見たことがないし、基本はひとりで公園をぐるぐると巡回している。
アツコちゃんを見つけても、わたしからは声をかけない。公園を徘徊するアツコちゃんは、いつかわたしを見つけると挨拶しにくる。あ、マリエちゃん。わたしは左手を上げて、やっほーと応じる。アツコちゃんはまたふらふらとどこかへいってしまう。
「なによ、その気のないやっほーは」
ママが苦笑する。ママがいうには、わたしには二種類のやっほーがあるそうだ。目を見開いて、にこやかに呼びかけるやっほー(A)と、気の抜けたおざなりのやっほー(B)。好きな人にはやっほー(A)で、嫌いな人にはやっほー(B)。あたりまえじゃん、そんなの。
「なによ、あのギャルみたいな格好は」
アツコちゃんを見送りながら、ママはいった。アツコちゃんは背が高く、スラリとして、とても同じ小学三年生には見えなかった。その日は、タータンチェックのミニスカートに、黒のタートルネックだった。たしかにアツコちゃんは、外でも学校でも派手めな人だった。
つづく
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