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キム・ギドク(1960-2020)

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鬼才キム・ギドク(1960-2020)の作品を振り返ります。 ※2000年代に書いたものを掲載したものです。
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『ポンヌフの恋人』に影響を受けたキム・ギドクのデビュー長編『鰐 ~ワニ~』

『ポンヌフの恋人』に影響を受けたキム・ギドクのデビュー長編『鰐 ~ワニ~』

地上生活が窮屈なホームレス 『鰐 ~ワニ~』はソウルを流れる漢江の橋の下に住んでいるホームレスの物語。『悪い男』のチェ・ジェヒョンが凶暴な主人公ヨンペを演じている。

 社会の底辺にいるヨンペは北野武監督『菊次郎の夏』の菊次郎を彷彿させる理不尽なダメ男だ(時代的には『菊次郎』の方が後だった)。漢江の水中に沈んだ自殺者から金品を奪ったり、ペテン師じみた路上販売をしたりして生活している。だが、ツキがま

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Do you want a New Life ?―キム・ギドク監督『絶対の愛』

Do you want a New Life ?―キム・ギドク監督『絶対の愛』

 「もし自分の鼻が1日1ミリずつ伸びていったらどうなるだろう。何日たつと自分の顔は見分けがつかなくなるだろう?」

 ミラン・クンデラの『存在の耐えられない軽さ』で、主人公の一人である女性テレザは大きな鏡の前で問いかける。上の台詞の後、クンデラはこう続ける。

 「そして、体の部分が大きくなったり、再び小さくなったりし始めて、テレザとまったく似つかないようになっても、まだ自分自身なのだろうか。まだ

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徴兵制の支持者にキム・ギドク監督『コースト・ガード』を見せたい

徴兵制の支持者にキム・ギドク監督『コースト・ガード』を見せたい

 時々、誰かが「日本にも徴兵制を」と発言して物議を醸したりする。愛国主義者の他、規範意識を欠いた若者たちを成長させる強制的なイニシエーションの場が必要だと思う輩もいるのだろう。

 仮に徴兵制を導入するとどうなるか。キム・ギドク監督の韓国映画『コースト・ガード』は現代における徴兵制、軍隊を考える機会を与えてくれる。

 軍事境界線近くの湾岸で、北朝鮮のスパイが侵入しないか監視するカン上等兵(チャン

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キム・ギドク『弓』と川端康成『眠れる美女』

キム・ギドク『弓』と川端康成『眠れる美女』

◆キム・ギドク『弓』

 キム・ギドク監督『弓』は、海に漂う船の上で暮らす老人と少女の純愛ドラマ。だがキム・ギドク作品なので、一癖も二癖もある作品に仕上がっている。

 まず、老人と少女には台詞がない。なぜ老人と少女は一緒に海の上で暮らしているのか。どんな過去があり、どんな思いで過ごしているのか。一部の情報を除いてほとんど語られず、明らかにされないまま幕を閉じる。

 少女の恋愛感情の揺らぎは映像

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夢と現実の間で(キム・ギドク監督『うつせみ』)

夢と現実の間で(キム・ギドク監督『うつせみ』)

◆夢かうつつか、ペソア的感覚

 アラン・コルノー監督の映画『インド夜想曲』でジャン=ユーグ・アングラード扮する旅人が神智学(神秘的・直観的霊知によって、神を体験・認識しようとする神秘説。グノーシス主義・新プラトン派などの神秘主義にうかがえる:大辞林より)の老学者と会話をするシーンで、こんな詩が登場する。

「だれもが皆、ふたつの人生を生きる

真実の人生、
子どものころに過ごし
大人になっても霧

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キム・ギドク死去

キム・ギドク死去

 キム・ギドク(1960-2020)がいなければ韓国語を始めていないし、就職してからあまり見なくなっていた映画に再び熱中することもなかったし、この仕事にも就かなかったかもしれない。

 監督作は以下のとおり。

鰐~ワニ~ 악어(1996年)
ワイルド・アニマル 야생동물 보호구역(1997年)
悪い女~青い門~ 파란 대문(1998年)
魚と寝る女 섬(2000年)
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