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変形性膝関節症の臨床評価とアプローチ【サブスク】

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変形性膝関節症の病態と疫学

変形性膝関節症(knee osteoarthritis;KOA)とは、膝関節の関節軟骨と軟骨下骨の進行性退行変性が慢性的に生じる状態¹⁾とされています。

近年では、軟骨下骨、半月板、靭帯、滑膜、骨格筋などを加えた関節構成体すべての退行性変化²⁾と捉えられています。

主な症状には、身体運動時の膝関節疼痛に併発する起立・歩行障害膝関節変形の増加¹⁾が挙げられています。

変形性膝関節症は約800万人が疼痛や硬さ、腫れなど何らかの症状を有しており、X線学的な関節症変化は約2500万人に存在し、40歳以上で有病率が約55%、有症状者が1800 万人に達する³⁾とされています。

日本の医療機関全41施設における調査により、変形性関節症患者は整形外科新患 の約12%を占めており、さらに変形性関節症における変形性膝関節症患者は約63%を占めていた⁴⁾と報告されています。

変形性膝関節症のリスク因子

変形性膝関節症には複数のリスク因子が挙げられています。複数の研究で共通して明らかにされたリスク因子³⁾として、肥満(過体重)、女性、高齢、膝関節外傷の既往、膝関節に負荷をかける活動性(職業)が挙げられています。

また、変形性膝関節症では、機械的因子(メカニカルファクター)の影響が大きいとされ、内外反アライメント、膝伸展筋力低下、歩行時スラスト現象、脛骨関節面内方傾斜、可動域制限、内側半月板変性が膝 OA のリスク因子である可能性が指摘³⁾されています。

変形性膝関節症の重症度分類

Kellgren-Lawrence(K-L)分類⁵⁾は、X 線画像より変形性膝関節症の重症度を判定する方法です。

図1 Kellgren-Lawrence(K-L)分類
6)より画像引用

Grade 0は正常、Grade 1は関節裂隙の狭小化、または骨棘、骨軟骨硬化の疑い、Grade 2は関節裂隙の狭小化(25%以下)、Grade 3は中等度関節裂隙の狭小化(50〜70%)、Grade 4は高度関節裂隙の狭小化(75%以上)と著しい骨変形¹⁾とされています。

多くの疫学調査でGrade 2以上を変形性膝関節症と定義した有病率調査が行われています³⁾⁷⁾。

一方、K-L分類の検者内信頼性は相関係数0.66-0.88、検者間信頼性は相関係数0.56-0.80と決して高くない³⁾⁸⁾とされています。

K-L分類がGrade 1〜Grade 2では、理学療法として大腿四頭筋筋力強化運動、関節可動域練習、装具療法が適応となり、非ステロイド抗炎症薬や関節内コルチコステロイド注射が行われます¹⁾。

変形性膝関節症の臨床機能評価

従来、膝OAの機能評価は日本整形外科学会変形性膝治療成績判定基準(以下;JOAスコア)⁹⁾が広く使用されてきました(図2)。

図2 JOAスコア
10)より画像引用

JOAスコアは評価項目としてADL まで網羅されているものの、主として疼痛との関係を主体とする¹¹⁾とされています。

世界的にはWestern Ontario and McMaster Universities(WOMAC)などの患者立脚型臨床機能評価法が一般的になり、本邦でもこれをもとに日本人の生活様式を加味した患者立脚型臨床機能評価法として、日本版膝OA機能評価(Japanese Knee Osteoarthritis Measure;以下JKOM)が開発されています⁶⁾¹²⁾(図3)。

図3 JKOM
12)より画像引用
※日本語訳は
こちら

運動療法の効果のエビデンスを検証するために開発されたものであり、妥当性、信頼性が認められています¹²⁾¹³⁾。

下肢アライメント指標

正常下肢アライメントの指標として、大腿脛骨角または膝外側角(femorotibial angle;以下FTA)と下肢機能軸またはMikulicz線があります。

FTA

FTAとは、膝伸展位で正面から見た大腿骨と脛骨骨幹部の長軸のなす角¹⁴⁾をいいます。詳細には、大腿骨顆間窩中心と近位10cmの髄腔中心を結ぶ線と脛骨内顆面から3cmおよび10cm遠位の髄腔中心を結ぶ線とのなす角度¹⁵⁾とされています。

図4 FTA
15)より画像引用

正常膝のFTAは約172〜176°¹⁴⁾¹⁶⁾と外反アライメントを呈しています。FTAは180°以上で内側型(O脚)170°以下で外側型(X脚)と定義¹⁴⁾されます。

高位脛骨骨切り術後のFTAは、170°から175°程度に矯正するのが効果的である¹⁷⁾¹⁸⁾¹⁹⁾とされています。一方で、Mikulicz線を指標にするべきとの見解¹⁷⁾もあります。

Mikulicz線

Mikulicz線とは、股関節中心と足関節中心を結ぶ線¹⁶⁾をいいます(図5)。立位時の下肢荷重線を表すもの¹⁴⁾とされています。

図5 Mikulicz線
17)より画像引用

Mikulicz線は、正常膝では膝中心よりもやや外側を通る¹⁴⁾¹⁶⁾とされています。内側型変形性膝関節症の下肢アライメントでは、膝関節は内反しMikulicz線は膝中心より内側を通ります¹⁶⁾。

正常膝では、Mikulicz線と床面への垂線がなす角度は約3°²⁰⁾²¹⁾と考えられています(図6)。

図6 Mikulicz線と床面への垂線がなす角度(θ)
20)より画像引用

Mikulicz線が脛骨関節通過部位を表現するのに、%Mikulicz(%M値¹⁷⁾または%MA¹⁵⁾)があります。
%Mikuliczは、脛骨高原最内側点からのMikulicz lineの通過位置を基準として算出されます(図7)。

図7 %Mikulicz
17)より画像引用

高位脛骨骨切り術後に、Mikulicz線が外側関節面中1/3を通過する群において、最も安定した治療成績が得られた¹⁷⁾との報告があります。

膝関節周囲の疼痛閾値マップ

Dye²²⁾²³⁾は、自らの膝を用いて局所麻酔下において膝関節内の組織を刺激して、その時に感じる疼痛レベルを記録しました(図8)。

図8 膝関節内組織の疼痛閾値マップ
(0:何も感じない、1:感じる程度、2:少し痛い、3:痛い、4:とても痛い、A:刺激位置がわかる、B:刺激位置がはっきりとはわからない)
22)より画像引用

これによると、膝蓋骨軟骨は0、顆部軟骨は1B、半月板前節は2-3B、膝蓋下脂肪体は4A、膝蓋上包は3-4A、ACLの起始部は3-4B、ACLの実質部は1-2B、ACLの停止部は3-4B、半月板の脛骨付着部は1Bとされています。

山田²⁴⁾は、膝OAの痛みを発している7つの組織として、①膝蓋下脂肪体、②滑膜および関節包、③筋腱付着部、④軟骨下骨、⑤半月板、⑥筋実質、⑦神経原性疼痛を挙げています。

(外部)膝関節内反モーメント(KAM)

膝OA患者の動作解析時に多用されているメカニカルストレスの代表値の一つに、(外部)膝関節内反モーメント(knee adduction moment:以下KAM)²⁵⁾が挙げられます(図9)。

図9 KAM
(Ground reaction force:床反力、Moment arm:床反力の垂線と膝関節中心の距離)
26)より画像引用

関節モーメントには、関節を回転させようとする力が生み出す外部モーメントと、それに拮抗しようとする筋の収縮力や筋膜、靱帯の粘弾性などが生み出す内部モーメントがある²⁷⁾が、一般にはこの内部モーメントを関節モーメントと表示していることが多い²⁸⁾とされています。

(外部)膝関節内反モーメント²⁸⁾とは、外力として膝関節を内反させる力のモーメントであり、床反力の大きさとモーメントアームである膝関節中心点から床反力作用線に降ろした垂線の長さが主に影響します。

荷重時の関節モーメントは、床反力ベクトルと関節中心の位置関係を見ることで推定することができる²⁹⁾とされています。

臨床的には関節モーメントは、「現在考慮する関節から上部にある質量中心位置が、水平面上その関節からどの程度離れているか」を評価する³⁰⁾とされています。

KAMは、膝関節内側コンパートメントに加わる負荷と強い関連を示す³¹⁾とされています。また、内反アライメントではKAMが増大し、膝関節周囲の筋肉の共収縮や(内部)膝関節外反モーメントが大きいと、さらに膝関節内側へ圧縮負荷が加わる可能性³²⁾が挙げられています(図10)。

図10 ニュートラルアライメント(A)と内反アライメント(B)のKAMの違い
32)より画像引用

6年後のフォローアップを行った調査では、KAMが1%増加すると膝OAの進行リスクは6.46倍に増加した³³⁾と報告され、単純X線画像上での膝OAの重症度の予測因子としても挙げられています²⁵⁾。KAMはK-L分類との相関を認めています³³⁾。

歩行におけるKAM³²⁾は通常、立脚期に2つのピークを示します(図11)。1つ目の大きなピークは歩行の荷重応答期(歩行周期の0~12%)に生じ、2つ目の小さなピークは立脚後期(歩行周期の50~62%)に生じます。KAMは歩行の遊脚期(歩行周期の62%~100%)には無視できるほど小さくなるとされています。

図11 歩行時のKAM
32)より画像引用

歩行におけるKAMピーク値は非OAに比べて内側型膝関節患者で大きく、中等度のOA患者よりも重度のOA患者で大きい³⁴⁾ことが示唆されています。

KAMを減らす歩行戦略³⁵⁾として、歩行速度の低下、(荷重側への)体幹の揺れの増加、足部の進行角度の変更が挙げられています。しかし、歩行速度の低下は日常生活に支障をきたす可能性があり、体幹の揺れの増加(デュシェンヌ様歩行)は腰痛や不均衡を誘発するとされています。
一方、足部の進行角度を変えることは、最小限の不快感でKAMを軽減します。

つま先を内側へ向けるtoe-in歩行は、KAMの最初のピークを減らす³⁵⁾³⁶⁾と報告されています(図12、13)。

図12 トレッドミル上での通常歩行(左)とtoe-in歩行(右)
36)より画像引用

図13 toe-in歩行によるKAMの減少
35)より画像引用

変形性膝関節症患者は、6週間のtoe-in歩行(1日少なくとも10分間)を再訓練した結果、KAMの最初のピークが約20%減少し、痛みの軽減と機能改善(VASおよびWOMAC)を認め、6週間のトレーニング期間終了後1 か月後も維持されていた³⁷⁾と報告されています。

図14 toe-in歩行練習後のKAM減少
(Base line:通常歩行(トレーニング前)、Post-Training:6週間のトレーニング後、1-Month Follow up:トレーニング終了から1ヶ月後)
37)より画像引用

高位脛骨骨切り術などの外科的治療によりKAMは33%減少する³⁸⁾と報告があり、toe-in歩行練習によるKAMの減少はこれに匹敵する³⁵⁾と述べられています。

一方、17文献をまとめたシステマティックレビュー(2022)³⁹⁾では、toe-inはKAMの第2ピーク(立脚後期)を増大させると報告されています。
また、24文献をまとめたシステマティックレビュー(2011)⁴⁰⁾では、toe-outは立脚後期のKAMを減少させるとの報告が多いとされています。

市橋⁴¹⁾は「toe-inでは立脚初期に後足部が外側に移動し、床反力が外側に変位することでモーメントアームが減少し、KAMが減少する。立脚後期ではtoe-outにより床反力の起点が外側へ変位することでモーメントアームが減少し、KAMが減少する(図15)。」と考察し、さらに「立脚初期に痛みを訴えるような患者のKAMの減少にはtoeーoutを減少させる(toe-inを増加させる)歩行が有効である可能性がある」と述べています。

図15 歩行時の足角とKAM
(立脚後期におけるtoe-outに伴うKAMの減少、立脚前期におけるtoe-inに伴うKAMの減少)
41)を参考に作成

lateral thrust(ラテラルスラスト)

歩行の立脚初期に膝が外側に動揺する現象²⁵⁾は、lateral thrust(ラテラルスラスト)またはvarus thrust(内反スラスト)と呼ばれます(図16)。

図16 lateral thrust
42)より画像引用

lateral thrustは、X線画像における膝内反アライメントと有意な相関があり、またKAMとの正の大きな相関が示されています³⁾⁴³⁾(図17)。

図17 thrustの量(角度)とKAMの関係性
43)より画像引用

lateral thrustが認められる群でKAMのピ ーク値が有意に大きい⁴⁴⁾⁴⁵⁾と報告されています。さらに、KAMのピークはlateral thrustと同時期に発生する⁴⁴⁾⁴⁶⁾と報告されています。

Trendelenburg徴候では、腸脛靱帯を介して脛骨を外側に牽引するので、荷重応答期(LR)にlateral thrustが出現することがある²⁸⁾とされています(図18)。

図18 Trendelenburg徴候に伴うlateral thrust
28)より画像引用

立脚肢の股関節外転筋の弱化により対側の骨盤が下制し、身体重心が遊脚側へ移動します。その結果、モーメントアームが増大し、KAM増加および膝関節内側コンパートメントの負荷増大につながるとされています(図19)。

図19 骨盤の対側下制に伴うKAMの増大
32)より画像引用

初期接地(IC)直後にthrustがみられる場合

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