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腰部痛の理解と臨床実践

はじめに

このnoteは、誰にでもお役に立てるわけではありません。
ですが、以下に一つでも当てはまる理学療法士の方は、読んでみてください。

✅腰部痛に関して臨床に必要な知識を身に付けたい
✅臨床で多く遭遇する腰部痛に対応できるセラピストになりたい
✅椎間板性腰痛、椎間関節性腰痛、仙腸関節性腰痛、筋筋膜性腰痛の実践的な評価やアプローチを学びたい
✅評価結果に基づき、その人に必要なエクササイズを提案できるようになりたい

臨床力を高めるいちきっかけとなれば幸いです。

by Rui

自己紹介

はじめまして、forPTのRui(ルイ)です。理学療法士免許を取得し、現在は整形外科クリニックに勤務しています。

forPTとは、理学療法士の臨床と発信を支援するために2019年に発足されたコミュニティです。

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第0章 腰痛概論

腰痛の定義と分類

腰痛とは、腰部を主とした痛みやはりなどの不快感といった症状の総称です。

医師の診察および画像の検査(X 線やMRI など)で腰痛の原因が特定できる特異的腰痛と、厳密な原因が特定できない非特異的腰痛に分けられます¹⁾。

一般に、特異的腰痛は約15%非特異的腰痛は約85%の割合²⁾とされており、これは多くの症状が、画像所見だけでは捉えきれないことを示唆しています(図1)。

図1 特異的腰痛と非特異的腰痛の割合①
1)を参考に作成

一方、腰痛診療ガイドライン改訂第2版では、腰痛の75%が診断可能で、診断不明の非特異的腰痛は22%に過ぎなかった³⁾⁴⁾とも報告されています(図2)。

図2 特異的腰痛と非特異的腰痛の割合②
4)を参考に作成

腰痛診療ガイドライン改訂第2版の報告では、これまで非特異的腰痛とされてきた椎間関節性腰痛、筋・筋膜性腰痛、椎間板性腰痛、仙腸関節性腰痛にも診断がつけられています。

これは、臨床所見と照らし合わせることで腰痛の多くは診断できるようになったとも言えます。

またこれに関しては、画像所見と臨床所見が必ずしも一致しないことを抑えておく必要があります。

SD Boden⁵⁾は、健常者67名を対象とした調査において、60歳未満のグループでは、20%に椎間板ヘルニア、1名に脊柱管狭窄症を認め、60歳以上のグループでは、36%に椎間板ヘルニア、21%に脊柱管狭窄症を認めたと報告しています。

Kanayama⁶⁾は、健常者200名を対象とした調査において、椎間板ヘルニアがL4/5 高位で25%、L5/S1高位で35%に認めたと報告しています。

MRI画像で椎間板の膨隆や突出を認めたり(腰椎椎間板ヘルニア)、脊柱管の狭窄がある(脊柱管狭窄症)からといって症状が必ずしも存在するわけではありません。
むしろご高齢の方であれば、画像上の問題はあっても疾患の特異的な症状がないことも珍しくありません。

非特異的腰痛の評価ツール

非特異的腰痛を細分化し、グループに対して特異的介入を行うことが重要視されています。

ここでは非特異的腰痛に対する2つの分類法(評価ツール)をご紹介します。

STarT back screening tool(SBST)

STarT back screening tool(以下、SBST)⁷⁾は、簡易的に心理社会的要因の把握ができ、腰痛予後のリスク度に応じて分類できます(図3)。

図3 SBSTの評価項目
7)より引用

SBSTにおけるHigh risk群では、認知行動的アプローチを初期の段階から導入したほうが望ましいとされています。

O’Sullivan Classification System(OCS)

O’Sullivan Classification System(以下、OCS)⁸⁾⁹⁾は、生物心理社会モデルに基づいて心理的因子の影響も含めて階層的にsubgroup化(分類)していることが特徴です(図4)。

図4 OCSの評価項目
8)より画像引用

参考・引用文献一覧
1)厚生労働省:腰痛対策
https://www.mhlw.go.jp/new-info/kobetu/roudou/gyousei/anzen/dl/1911-1_2d_0001.pdf.最終閲覧日2022.2.20.
2)Deyo, Richard A., James Rainville, and Daniel L. Kent. "What can the history and physical examination tell us about low back pain?." Jama 268.6 (1992): 760-765.
3)日本整形外科学会,他:腰痛診療ガイドライン2019 改訂第2版,株式会社南江堂,2019.
https://minds.jcqhc.or.jp/docs/gl_pdf/G0001110/4/Low_back_pain.pdf .最終閲覧日2022.2.21.
4)Suzuki, Hidenori, et al. "Diagnosis and characters of non-specific low back pain in Japan: the Yamaguchi low back pain study." PLoS One 11.8 (2016): e0160454.
5)Boden, SCOTT D., et al. "Abnormal magnetic-resonance scans of the cervical spine in asymptomatic subjects. A prospective investigation." JBJS 72.8 (1990): 1178-1184.
6)Kanayama, Masahiro, et al. "Cross-sectional magnetic resonance imaging study of lumbar disc degeneration in 200 healthy individuals." Journal of Neurosurgery: Spine 11.4 (2009): 501-507.
7)松平浩; 藤井朋子. 診療ガイドライン, エビデンスを踏まえた慢性腰痛に対する患者主導型治療へ向けて─ Stratified approach (層化アプローチ) の重要性. PAIN RESEARCH, 2017, 32.4: 252-259.
8)飯塚雄亮, et al. 非特異的腰痛に対して STarT Back Screening Tool と O’Sullivan Classification System を組み合わせた stratified care を用いて介入を行い奏功した一症例. 徒手理学療法, 2020, 20.2: 41-48.
9)三木貴弘, et al. 生物心理社会モデルに基づく非特異的腰痛に対する理学療法の進化. Journal of Spine Research, 2021, 12.6: 825-830.

次項以降では、腰部痛の中でも多くを割合を占める椎間板性腰痛椎間関節性腰痛仙腸関節性腰痛筋筋膜性腰痛についてご紹介します。

第1章 椎間板性腰痛

椎間板の構造と内圧

椎間板の構造

椎間板は、外側の強固な線維輪と内側の髄核、 隣接する椎体を強固に連結する硝子軟骨組織である軟骨終板で構成されます(図1)。

図1 椎間板の構造
1)より画像引用(右側)

荷重における椎間板の歪み

脊柱の前方を圧迫する(屈曲を模倣)と髄核は後方移動し、後方繊維輪に剪断ストレスが生じます²⁾。

脊柱の後方を圧迫する(伸展を模倣)と髄核は前方移動し、前方繊維輪に剪断ストレスが生じます²⁾。

図2 荷重における椎間板の歪み
2)より画像引用

脊柱屈曲に伴い腰椎椎間板ヘルニアが後方突出するメカニズムに関与する知見になります。

姿勢と椎間板内圧の関連

椎間板性腰痛では、椎間板内圧の上昇を伴う姿勢や動作で疼痛が誘発される場合があります。

脊柱屈曲位荷物を持ち上げる動作は、椎間板内圧を上昇させます³⁾(図3)。

図3 姿勢と椎間板内圧の関連
3)より画像引用

また、腰椎生理的前弯位に比べ腰椎屈曲位では椎間板内圧が高まる⁴⁾と報告されています(図4)。

図4 腰椎アライメントと椎間板内圧の関連
4)より画像引用(右側グラフ)

実際の臨床では、立位よりも座位で疼痛が誘発されたり増強したりするケースがみられます。脊柱を丸めた座位前傾姿勢は直立位に比べて椎間板内圧が高いことが一つの要因として挙げられます。

椎間板性腰痛のメカニズム

正常椎間板では疼痛の原因にはならない⁵⁾とされています。

しかし、衝撃吸収能が低下した椎間板に大きな外力が加わることで繊維輪が損傷し、その修復過程で繊維輪内に血管および神経が入り込みます⁶⁾(図5)。

図5 慢性椎間板性腰痛と椎間板内部への神経侵入
6)より画像引用

神経が入り込んだ変性椎間板(図6)では、再度外力による損傷が生じることで激しい疼痛が発生します。

図6 椎間板の変性(L4/L5)
(変性椎間板は水分が減少しMRIで暗く描出される)

7)より画像引用

実際に、人体において椎間板の繊維輪最外層部には神経終末が存在することや、変性椎間板では繊維輪の内層部にも神経終末が存在した⁸⁾との報告がなされています。

椎間板性腰痛の特徴的な臨床所見

椎間板性腰痛では、椎間板内圧が上昇する前屈動作くしゃみや咳骨盤後傾位での座位で症状が増強するのが特徴⁵⁾です(図7)。

図7 椎間板性腰痛の特徴的な臨床所見

また椎間板性腰痛は、背部の深部に知覚される持続的な、鈍い、疼くような疼痛⁹⁾とされています。

椎間板性腰痛の評価ポイントとアプローチ

椎間板性腰痛の臨床における評価ポイントは以下の3つ挙げられます。

【椎間板性腰痛の評価ポイント】
・動作パターンの修正(腰椎前彎・骨盤前傾誘導)
・下肢後面のタイトネス
・座位姿勢指導(腰椎生理的前弯位の保持)

これに関連した実際の評価やアプローチの例を以下にご紹介します。

前屈動作時痛に対する治療的評価①

椎間板性腰痛が疑われる前屈動作時痛に対して、対象者の骨盤を評価者が徒手で前傾方向に誘導して再度前屈動作を行います(図8)。骨盤前傾誘導は口頭指示で、対象者自身に行ってもらうこともできます。

図8 前屈動作時痛に対する骨盤前傾誘導

この操作で動作時の腰部痛が減弱する場合は、骨盤前傾運動の制限による影響を示唆しています。

前屈動作時痛に対する治療的評価②

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