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明日から実践できる超効果的なOJTマネジメント手法

季節の変わり目。みなさん体調を崩されてはいないでしょうか。

我が社は個人個人がそれぞれ目標の売上金額(利益額)を年初に掲げて、それをゴールに1年間突っ走る年俸制です。

がんばって結果出した分、ストレートに評価されます。逆に結果が伴わない場合、年俸額が下がるケースも。

まるでスポーツ選手のようですが、人によってはプレッシャーから体調を崩したり、メンタルが弱ってしまうケースもあります。

とかく個人プレーが主体になりがちではあるものの、やはり組織としてはチームワークがないと成立しません。ですが、みんなでお互いを支え合う仕組みづくりは一朝一夕では成立しない面もあります。

このあたり、組織運営上の悩みどころです。

そこで、リクルートグループで営業マンとしてキャリアをスタートさせ、その後、新規事業のスーモカウンター(住宅事業)で陣頭指揮を執って、6年間で売上30倍、店舗数12倍、従業員数を5倍にした立役者である中尾隆一郎さんから「イケてるチーム運営のコツ」を学んでみましょう。

中尾さんはスーモカウンターを成長させた実績が評価され、リクルートテクノロジーズ社長、リクルート住まいカンパニー執行役員、リクルートワークス研究所副所長を歴任。いずれもイチから事業運営を成功させてきた実績があります。

歩きながら職場の問題の兆しをキャッチする「ウォークアラウンド」

 みなさんの職場に、よくメンバーに声をかけているリーダーや上司っていませんか? フロアを歩きながら、色々な人に声をかけている人です。
 一見、雑談をしているように見えますが、よく見ると、困っている人に声をかけています。雑談のように見えて、アドバイスをしているのです。あるいは、困っている人のところに別の人を呼んで、3人で話をしだして、解決してしまったりします。
 新しく入った人に声をかけたり、元気がない人を励ましたりもします。
 これは「ウォークアラウンド」という立派なOJTマネジメント手法の1つです。
 従来のOJTで有効な方法は、こうした面倒見のいいリーダーや上司のように、組織の弱いところを見つけて、適切なアドバイスをすることなのです。

OJT=On the Job Training、つまり職場の現場における人材育成です。

「あの人、あちこちで雑談してるだけで、ぜんぜん仕事してないよな」

そんな風に感じる人って、どの職場にもいそうです。でも、その人はじつは「ウォークアラウンド」という一つのマネジメントを実践してるのかもしれません。

定期的に職場を観察して「変化」に気づく

 ウォークアラウンドのポイントは3つあります。

「①現状把握」「②解釈」「③介入」です。

 それぞれのポイントを説明しましょう。
 最初に行うのが「①現状把握」です。重要なのは、職場で起こっている変化を把握することです。そのためには、思いつきで「現状把握」するのではなく、定期的に「現状把握」することが必要です。定期的に職場を眺めていると「変化」に気づきます。
 例えば、いつも外回りをしている営業担当が内勤している。あるいは、いつも元気そうな内勤メンバーの表情が優れない。逆に嬉しそうな顔をしている。
 定期的に職場を見ているからこそ気づく変化があるのです。
 変化に気づいたら、その変化があった人、場所で何が起きているのか「②解釈」をします。の際には、見ている事実に加えて、様々な情報を総動員することが重要です。
 外回りをしていた営業が内勤しているのは、例えば、先日大きな商談があると言っていたので企画を練っているのかもしれません。逆に大きな失敗をしたので、営業計画を再考しているのかもしれません。
 今見えている「現状把握」に加えて、様々な事実、経験、勘を組み合わせて「解釈」をしていくわけです。

まずは、なにか「変化」がないかどうか「現状把握」をする。そして、変化の兆しをキャッチしたら、どうしてそのような変化が起こったのか「解釈」を加えていく。

冒頭で紹介した「プレッシャーでメンタルが弱った社員」がいたら、その変化の兆しをまずキャッチして「あいつ、メンタルやられてそうだな」と現状把握する。次になんでそうなっているのか「解釈」を加える。

「先月担当してリリースした商品が思うように売れなくて自信をなくしてるのか?」
「来月リリース予定の著者との間で少しトラブってる話を耳にした。そのことで思い悩んでいるのかな?」
「先月、子どもが生まれたと聞いた。仕事とは関係のないプライベートの悩みがあるのかもしれない」

こういった具合に「事実」「経験」「勘」を組み合わせて「把握」するわけです。

「①現状把握」「②解釈」をしたら最後に「③介入」する

「②解釈」ができたら、次は「③介入」です。
「介入」の意味を調べると「当事者以外の者が入り込むこと。争いやもめごとなどの間に入って干渉すること」とあります。「入り込む」とか「干渉する」とか、相手が望んでいないことをする行為という意味です。
 ウォークアラウンドでは、変化が起きている人に対して声をかけます。これは、相手にとっては、大きなお世話の可能性がある≒「介入」だという意識を持つべきだと考え、この「介入」という言葉を使っています。
 声をかける対象者は、上司や先輩が声をかけるその瞬間、何か仕事をしています。少なくとも彼らは声をかけられたことで、仕事を中断するわけです。あなたの存在は邪魔であり、迷惑なのです。そのことを理解したうえで「介入」すべきだと言いたいのです。
 ここで「介入」といってもピンとこない人に1つ事例を紹介しましょう。
 あるコールセンターの事例です。
 昼休みに、メンバーだけでランチを食べた場合と、そこに年齢が離れた年上のリーダーが参加した場合を比較したところ、午後の生産性に違いが起きたのです。
 コールセンターは、従業員の様々なデータが取れます。顧客満足度、顧客の問題解決度、平均応答時間などです。これらにより生産性を数値化しやすいのです。
 さて、どちらのケースが生産性を下げたでしょうか。答えは後者です。メンバー同士がランチを食べているところに年齢が異なるリーダーが参加すると、コールセンターのメンバーの生産性が下がったのです。
 悲しい現実ですが、これが「介入」です。
 この「ウォークアラウンド」ですが、無自覚にやっている人はたくさんいます。また、特にこのようなポイントを知らなくても、天性の才能でできる人もいます。
 ところが、こうしたコミュニケーションが苦手な人も少なくありません。メンバーと雑談だけして、盛り上がって終わりの人などがその典型的なパターンです。
 そのような方も、上記の①〜③のポイントを押さえて実施できれば、「ウォークアラウンド」をきっかけにしたOJTができる可能性が高まります。

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この「ウォークアラウンド」。職場で元気がなさそうな人がいたら、ぜひ試してみたい手法です。ちなみにノーベル賞受賞者を多く輩出したベル研究所(現・AT&T研究所)には、自然とウォークアラウンドする仕掛けがあったそうです。

 リクルートテクノロジーズを担当した際に、同社のR&D部門をどうすればさらに成果が上げられるか、様々な研究所を調べたことがあります。
 その当時に調べた研究所の1つがベル研究所でした。
 ベル研究所は現存せず、AT&T 研究所になっていますが、ベル研究所が存在した当時は、多数のノーベル賞受賞者を輩出する世界最高の研究施設でした。
 そこでは、研究者全員が自然とウォークアラウンドするような仕掛けを作っていました。
 偶然の出会いを生み出して、相互にコラボレーションする仕組みです。
 聞いてみると簡単です。
 食堂に行く際の廊下に工夫をしていたそうです。いくつものコーナーやカーブがあり、立ち話をする。あるいは少し話ができる座席スペースがあったのです。そこで偶然会った人たちが話をし始め、一緒に対話、議論を始めたそうです。

この話、「京大にはノーベル賞受賞者が多いのに、なぜ東大にはノーベル賞受賞者が少ないのか」という問いに対する有名な仮説に近いものがあります。

「京大にあって、東大になかったもの」はなにか。

―――それは「喫煙所」。

さまざまな異なるジャンルの研究者が喫煙所でタバコを吸いながら研究上のヒントが得られる場が京大にはあったが、東大にはなかったからだ、というのが仮説です。

喫煙所が次々と撤廃されている昨今ではどうなのか・・・という話ですが、京大には「ウォークアラウンド」する仕掛けが備わっていたわけです。

もうひとつ、明日からでも簡単にできるOJT手法があります。

メンバーの段取り力を上げる超簡単な方法

みなさんは誰かに仕事を依頼するときに、どのような依頼の仕方をしているでしょうか。ここで紹介する手法はどんな業種でも応用できる簡単かつ効果抜群のやり方なので、ぜひご紹介させてください。

 私は中尾塾という経営者塾をしています。その際にある塾生(経営者)から「メンバーに依頼していた中間報告を先延ばしにされて困っている」という話を聞きました。納期を遅らせるメンバー自体も困りものなのですが、次のような方法で防げるなと思いました。 戦略コンサルティングファームの社長とOJTマネジメントの話をした際に伺った話です。戦略コンサルティングファームは、顧客に高額なコンサルティング費用を請求します。その代わり短時間で高い成果を提供することにコミットしています。
 したがって、数日間の無駄な作業が致命的になることがあります。そうした事態を防ぐために、その会社のプロジェクトマネジャーが必ず実施している方法があります。
 それは、プロジェクトマネジャーが、メンバーに仕事を依頼する際に、(経験年数にかかわらず)つぎのようなステップでOJTマネジメントをするそうです。

①仕事を依頼する
②メンバーに、すぐに30分間、その仕事の段取りを考えるように依頼する
③30分後に30分間、メンバーと仕事の段取りの確認をする
④その段取りに対してアドバイス、指示を行う


 これは、きわめて汎用性の高いOJTマネジメント手法です。まさに仕事を通じたトレーニングをしています。
 特に②が秀逸です。一度メンバーに仕事の段取りを自分で考えさせています。仕事を依頼する際に、その段取りまで指示する場合があります。その方がメンバーは、すぐに作業に取り掛かれます。場合によってはその方が効率的なケースもあるかもしれません。
 しかし、そこをグッとこらえて、メンバー自身が考える時間を取るのです。これを繰り返せば、メンバーの仕事の段取り力は間違いなく向上します。まさに有効なOJTです。

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 そして、その直後に30分のミーティングで、メンバーの仕事の段取りを「現状把握」します。
 この社長が言うには、以前は、2〜3日後に中間レビューをしていたそうです。ところが、かなりの確率で、間違った方向に進んでいるケースがあったそうです。
 戦略コンサルティングファームでは、前述のように短期間、例えば2週間程度ごとに何らかのアウトプットを出す必要があります。2週間は営業日で10日です。2日のロスは取り返しがつかないのです。
 そのロスを防ぐために、この依頼直後のレビューによる「現状把握」が効果的なのです。この依頼直後のレビューはステップが標準化されているので、どんな業種でも活用できそうです。

どうでしょうか?

「いついつまでにやってね」と依頼した部下からいつまで経っても成果があ上がってこない。そんな悩みをお持ちの上司であるあなたにはかなり使える手法ではないでしょうか。

ここでご紹介した手法はTIPS的なものですが、OJT=On the Job Trainingの最新型をじっくり解説しているのが、新刊『自分で考える社員が育つOJTマネジメント』(中尾隆一郎・著)です。

「OJT」というと「現場に丸投げ」というケースがほとんどかと思いますが、リモートワークが主流になりつつある現在では、社員が自律して、自らゴールを設定して稼いでもらう必要があります。そんな時代「現場に丸投げ」では組織全体の業績は向上しません。

「いろいろ工夫して、部下を動かす努力してるんだけど、それでもやっぱり動かないヤツは動かないんだよなぁ」とお悩みの場合、それは「仕組み」を変える必要があるかもしれません。そのための「OJTという仕組み」を解説したのが本書です。

この「組織の仕組み化」については、制約条件理論をベースにした、これまたパワフルなツールがあるのですが、また別の記事でご紹介したいと思います。

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(フォレスト出版編集部・寺崎翼)

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