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第28回#「もし、あなたがビジネス書を書くとしたら・・・」

こんにちは
出版局の稲川です。

先週、私が編集担当した本の見本が無事に印刷所から上がってきました。

これまで、企画の立て方から売れる文章術まで、ビジネス書を書くエッセンスを述べてきましたが、
この本が出来上がってくる瞬間というのは、著者にとっても編集者にとってもドキドキの瞬間です。

とにかく、編集者は本がミスなく印刷されてくるかが最もドキドキするのですが、著者はこれまで文章に注力してまとめ上がましたから、実際に本という形で見る瞬間にドキドキします。

そんなさまざまな思いのうえに、本が出来上がってきます。

ということで、最近のドキドキはこの本でした。

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『1分彼女の法則』(ひすいこたろう/大嶋啓介/白鳥マキ・著)という本ですが、
この本は2年前に出版されてベストセラー(12万部突破)になった『前祝いの法則』(ひすいこたろう/大嶋啓介・著)のジャンルを変えた企画(自己啓発・スピリチュアル→女性エッセイ・恋愛)です。

『前祝いの法則』は、「予祝(よしゅく)」というテーマで書かれた本なのですが、日本人は古来、予祝という考え方を持っており、たとえば、お花見などは満開の桜を稲穂に見立て、秋の豊作を先に祝ってしまう“儀式”だったのです。

いわば「前祝い」。
この本が出版されてから、古舘伊知郎さんが元SMAP3人の「新しい地図」で“予祝”と言ったり、宝くじのCMでは役所広司さんが“予祝”と言ったりと、この言葉もだいぶ世の中に認知されてきました。

そんな予祝が“恋愛や結婚”にも応用できるとして、結婚相談所業界で成婚率9割(通常の結婚相談所では1~2割)を誇る「Change. Me結婚相談所」の代表を務める白鳥マキさんを著者陣に迎え、このたび本が出版されることになりました。

と、長くなってしまうので内容は割愛しますが、著者のひすいこたろうさんが自身のラジオ番組(「ひすいこたろうとたっちゃんのWe have a dream!」ドリプラジオ)で、本の誕生をこう語っていたのが印象的でした(ちなみに、『1分彼女の法則』の見本が届いたその日の収録だったそうです)。

「作家(著者)は内容をワードで書いているだけなので、平面の2次元の世界なんですけど、本になるのは2次元が3次元になってくるので、次元が変わってるわけですよね。自分が書いていた魂が命を宿って、体を持ってこの世界に誕生してきてくれたっていう、本当に文字通りわが子との対面っていうかね。2次元が3次元になって、魂を持って、この世界に誕生してきたわが子っていう感じですかね」

編集者としても、著者の方がこれほどの喜びを感じてくれていることに心が震えます。

これは「もし、あなたがビジネス書を書くなら・・・」にとって、実は大切なことです。
というのは、著者にも“わが子”を1人でも多くの読者に“旅立ちさせる”思いがあるからです。

つまり、販促です。

今回は、著者がどう1冊でも多く読者に届けていくかというお話をいたします。


◆本には“発売日”がない!?

先ほど、「見本が上がってきた」と書きました。
実は、実際に本が書店に並ぶまでは、少しタイムラグがあります。

まず、印刷所からだいたい100冊前後、出版社に見本が届けられます。
ここで出版社は、流通に関する記載(定価やISBNコードなど)が間違っていないか、乱丁、落丁がないかなどを検品します。

そこで問題がなければ、本を各取次に持っていき、その取次店で何部ほど配本するかを交渉します。
取次でも本に問題がなければ、取次部数を決定し、その部数を出版社に伝えます。そして、印刷所から指定の期日に本を取次に納めます(搬入)。

搬入された本は、随時トラックに積まれ、全国の各書店に納品されます。納品された本は、ビジネス書ならビジネス書担当の書店員さんが店頭に本を並べてくれます。

ここでようやく、本が発売となるわけです。

よく著者の方から「本の発売日は、いつですか?」と聞かれることがあるのですが、実は本には正確な発売日というものはありません

まず、取次のトラックが書店さんに納品する日は、全国ですから行きわたるのがまちまちです。さらに、書店の担当者さんが休みだったり、まだ店頭に並べていなかったりすれば、その分、発売が遅くなります。

ですから、搬入日(トラックに積まれるだろう日)から数日後に、書店に並び始めるということしか言えないのです。

また、取次から本がいかない書店もありますから、その書店では発売はないということになります(お取り寄せだったり、その後の発注ということになります)。

さて、こうして発売される本ですが、これだけでは本が書店に並んだにすぎません。

そこで、出版社営業部の存在があります。
営業部は、発売される前に書店から事前に注文を取り、なるべくいいところに置かれるように、時には大冊数の注文を取って店頭で仕掛けたり、販促物をつくって読者に訴求したりします。
また、本が行き届かなった書店にも営業をかけ、本を並べてもらいます。

こうした営業努力で、本が展開されていきます。

では、本が書店店頭に並んだあとはどうなるのか?
ここからは、著者さんにも大いに関係してくる話なのです。


◆新刊の寿命はどうやって決まるのか?

そもそも新刊と呼ばれる本は、1日に何冊くらい発売されるかわかりますか?

実は200点くらいが、毎日発売されています。

もちろん、さまざまなジャンルがありますから、すべての本が書店に届くわけではありませんが、とにかく毎日大量の本が出版されるなかで、書店での生き残りをかけた戦いが始まるのです。

では、その戦いで雌雄を決するのに、どのくらいの時間がかかるのか?

たった2週間です。

もしこの2週間で、店頭に並んだ本が1冊も売れなければ……。

そう。返品という事態が待っています。

2週間は厳しいと思った方もいるかもしれません。
しかし、これはかなりの業界でも同じではないでしょうか?

たとえば、映画業界でも封切から2週間で、ロングで放映するか、打ち切りの方向に進むかが決まると言われています。
映画業界のほうが、この判断はもっと早いかもしれません。

ですから、2週間で本が動かないと“わが子”が旅立つことなく返品、倉庫行きになってしまうのです。

以前、出版社が提携している倉庫で、返品されてくる専用の倉庫を見学したことがありますが、悲しい現実を突きつけられました。

パレットに積まれた大量の返品本。
そこはもう“本の墓場”です。

売れなかった反省と悔しさ、悲しさ、著者に申し訳なかったという思いが込み上げてきます(返品された本は、きれいに化粧直しされて再度出庫される日を待つことになるのですが、そこは本の再販制度という事情もあります)。

これが現実です。
ですから、2週間のうちに本が売れていかなければならないのです。

では、実際にどのくらい売れていれば合格なのか?

もちろん、本によって初版部数が違ってきますから、いちがいに言えないのですが、書店に搬入された部数の2割、たとえば3000冊が書店に撒かれたら600冊以上売れていればいい数字です。
3割以上、たとえば1000冊前後売れていれば、増刷するという感じです。もちろん、それ以上の売れ行きならば……ベストセラーへの道が待っているかもしれません(あくまでも、私の経験則上の判断ですが)。

では、その間、著者はどう活動すべきか?

すみません。紙面の関係上、これは次回にお話しします(本当にごめんなさい)。

最後に再び、ひすいさんが旅立つわが子をどんなふうになってほしいかをラジオ番組で語っていますので、紹介します。

「作者の思いと読者さんの思いが融合して、さらに本の命が豊かになっていくと思うんですよね……」

本日のまとめ
・出来上がってきた本と対面する瞬間を想像してみよう
・本は命を宿ってこの世に誕生したわが子(作家ひすいこたろう氏談)
・本が出てから、著者にとって大事なのは販促(次回解説)
・本が出来上がってから書店店頭に並ぶまでは、多少時間がかかる
・実は本には正確な発売日がない
・本の売れは2週間程度で決まる
・2週間で売れなければ、返品の可能性が大
・書店店頭の全部数の2~3割が2週間で売れれば、その本の売れは広がっていく

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