【フォレスト出版チャンネル#92】ゲスト/編集者|東洋経済新報社編集部長が語る、編集者への道
このnoteは2021年3月23日配信のVoicyの音源「フォレスト出版チャンネル|知恵の木を植えるラジオ」の内容をもとに作成したものです。
Excel作成術本ブームを巻き起こした編集者
渡部:フォレスト出版チャンネルパーソナリティの渡部洋平です。今日は編集部の森上さんとともにお伝えしていきたいと思います。よろしくお願いします。
森上:よろしくお願いします。
渡部:今日もまた、素敵なゲストに来ていただいているんですけれども、森上さん、今日もフォレスト出版からではなく、他の出版社の編集者の方が来てくださっているということで。
森上:そうなんですよ。私の業界の大先輩でリスペクトしている編集者の方です。うちのチャンネルが出版社の枠を超えて、Voicyを通じて、出版業界全体を少しでも盛り上げていきたいと考えている旨をお伝えしながら、ぜひ出ていただけないかとオファーしたら、快諾いただきました。本当にお忙しくて時間がない中、貴重なお時間を今日はいただけるとのことで、本当にありがたい話です。
渡部:出版・書籍など興味あるリスナーの方にとっては、とてもおもしろい放送になると思いますので、ぜひ楽しんで聞いていただければと思います。それでは、ゲストの方を僕から紹介させていただきます。東洋経済新報社・出版局編集2部部長・齋藤宏軌(さいとう・ひろき)さんに来ていただきました。今日はどうぞよろしくお願いいたします。
齋藤:こちらこそよろしくお願いします。
渡部:では、さっそくなんですけれども、まず齋藤さんから簡単な自己紹介をお願いしてよろしいでしょうか?
齋藤:はい。東洋経済新報社の今ご紹介いただいた齋藤と申します。かれこれ書籍編集の仕事を始めて、もう四半世紀、25年になります。古株です。東洋経済には出版局に1部、2部、3部という部署があって、1部はだいたい時事トレンドの本、2部がビジネス・経営、3部は翻訳とかですね。そういったかたちでカテゴリーが分かれているんですけど、これは厳密なものではなくて、ゆるいカテゴリーなので、割と自由につくっています。私はその中のビジネス・経営の本をつくる2部の責任者をやらせていただいております。よろしくお願いします。
森上・渡部:よろしくお願いします。
渡部:フォレスト出版もビジネスであったり、自己啓発であったりといったところが得意領域なので、まさに森上さんと齋藤さんは同じようなジャンルの書籍を編集していると。
齋藤・森上:そうですね。
森上:齋藤さんとお目にかかるきっかけっていうところは、一人、キーマンがおりまして。あの方は伝説の編集者と言ってもいいですよね、齋藤さん。
齋藤:もう間違いないですね。ビジネス書(というジャンル)をつくったような人ですね。
森上:そうですね。片山さんという、元々かんき出版にいらっしゃった方ですよね、片山一行さん。
齋藤:そうですね。
森上:もう伝説の編集者でいらっしゃいまして、その方が年に一回ぐらい会を設けているんですよ。齋藤さんとは年に1回、必ずそこでお会いできるという感じで、なんだかんだ何度も個別にお酒をご一緒させていただいたり、業界の大先輩として、いろいろご教授いただいていて。
齋藤:いえいえ。
森上:齋藤さんご自身も部長さんでいらっしゃいますし、数々のヒット作を生み出されている、東洋経済新報社さんにとってはエース編集者としてご活躍されている方で、いろいろと学ぶべきことがすごく多いんですよ。
渡部:本当に数々のベストセラーを生み出されているということで、知っている方が多いんじゃないかなと思います。この流れで、齋藤さんが携わった代表作っていうのを何冊か挙げていただけたらと思います。
齋藤:はい。ここ4、5年ですと『プロの資料作成力』とか、あとは『外資系コンサルのスライド作成術』とか、ちょうどMBAブームもちょっとあったんですけど、そういった資料作成系の本はいくつか作って、どれも5万部ぐらい売れたので良かったかなと思ってます。
そのシリーズの一環で、『外資系金融のExcel作成術』っていうのを作ったんですけど、これはいわゆるビジネス書の中のエクセル本の中ではかなり先駆け的なものになったかなと思って。売れましたし、その後に他の出版社がすごい勢いでキャッチアップしてきたから。
森上:(笑)。いやいやいや、あれは齋藤さんがブームをつくったと言っても過言ではないですよ。
齋藤:もうちょっと逃げ切れるかなと思ったんですけど、早かったですね、半年ぐらい。
森上:(笑)。でも、やっぱり一番しっかりしたつくりと、一番売れてるという信頼感は間違いなく齋藤さんの御本です。
齋藤:今でも結構ツイッターとかで、例えばモルガンスタンレーとか、ああいうところに入ったときに、“先輩から「これ読め」って勧められた”とかっていうのを見ると、やっぱりうれしいですね。
森上:編集者冥利に尽きますよね。いやー、いいですね。
齋藤:あと、経営者の本では、今、富士フイルムの会長をやっている、古森さんって方がいるんですけど、その方の『魂の経営』っていう本も4年ぐらい前につくって、今でも売れていて、最近だとアビガンとか、薬をつくったりして話題になって、また本も売れてみたいな、いい循環になっています。
森上:素晴らしいです。いわゆる経営書とか、ビジネススキル系のものとかは、本当にうちが太刀打ちできない部分で、勉強させてもらうことばっかりなんですけども。
渡部:エクセル本ですが、後追いの書籍がたくさん出たということなので、もしかしたら違うかもしれないですけど、僕、買ってると思うんですよ。もしかしたら、後追いのほうを買っているかもしれないんですけど……。
齋藤:オーケーです(笑)。世の中のエクセルリテラシーが上がれば、僕は本望です。
渡部:ありがとうございます。僕のエクセルリテラシーも上がりました。
森上:それを作ったのは齋藤さんだから。
王道のビジネス書編集者・齋藤さんの意外なキャリア
渡部:Voicyを今聴いてくださっているリスナーさんも、「これ、買ったな」っていう本があったんじゃないかなと思うんですけども。ここからは主に進行を森上さんにバトンタッチして、実際に編集者としての斎藤さんの仕事術に関してインタビューさせていただきたいと思います。
森上:はい。よろしくお願いします。改めてお酒がない中でお話するのは、ちょっと……(苦笑)。
渡部:今日、お酒用意しておけばよかったですね(笑)。
森上:そうかもしれない(笑)。ちょっと緊張しちゃうんですけど、斎藤さんは元々東洋経済さんの前にかんき出版にいらっしゃったんですよね?
齋藤:そうですね。はい。
森上:新卒でかんき出版さんだったんですか?
齋藤:私は最初のキャリアは、おまわりさんをやっていて。
森上:ええーーーっ!!
齋藤:神奈川県警にいたんですよ。
森上:マジっすか! それは初耳かも。警察官ですか。
齋藤:はい。横浜駅の交番にいましたね。
森上:ええ。横浜駅の構内ですかね? ありますね、交番。
齋藤:はい。あそこに1年ぐらいいましたね。
森上:ほんとですか。新卒でまず入ったのが、神奈川県警。
齋藤:ちょうど就職氷河期世代なんですね。
森上:そうですよね。
齋藤:それで、大学も日本大学芸術学部っていう就職には全く役に立たない大学なんですよ。 これはもう困ったな、と。出版社もそのときに受けたんですけれど、受けたというか、会社説明会に行っただけなんですけど、とてもじゃないけど、これは無理だなということで。ただ、食べていかなきゃいけないんで、どっか働かなきゃと思って、選んだのがなぜかわからないですけど、警察だったんですね。なので、大学を卒業してから2年2か月は公務員やってました。
森上:そうでしたか。ご出身は神奈川なんでしたっけ?
齋藤:いや。出身は僕、関西で京都なんですよ。
森上:そうだ、そうだ。
齋藤:はい。で、大学のときにこっちに来たんですけれど、大学は埼玉にあったので、神奈川は通過したことしかなかったんですよ。
森上:(笑)。
齋藤:実家に帰るのが嫌だったんで、なんとかこっちで就職しなきゃと思って、とりあえず警視庁と神奈川県警を受けたら、警視庁は落ちて、神奈川県警だけ受かったんで。
森上:そうでしたか。
齋藤:神奈川とか横浜とか行ったことはないけど、まあいいやと思って。
森上:(笑)。それはちょっと初耳でした。警察官のときのご経験というのは、今の編集者人生において、活かされたりしているもんですか?
齋藤:そうですね。やっぱり一番役に立ったなって思うのは、理不尽なことにあっても耐えられる忍耐力ですね。
森上:(笑)。なるほど。ストレス耐性(が鍛えられた)というか。
齋藤:でかい組織の社長さんに説教で呼び出されたりしても、もちろん平謝りはするんですけど、包丁持ったヤクザよりはいいな、とか。
森上:(笑)。確かにそうですよね。
齋藤:襲ってくることはないなって思うので、そういった変な忍耐力はつきましたね。
森上:(笑)。ストレス耐性が半端ない。なるほど。そこはもう間違いなく、そのときのご経験が役立っていますね。それで、警察官を2年2カ月やられた後に、いきなり、かんき出版ですか?
齋藤:そうですね。2年っていうのは多少意味があって、2年後っていうのは、承認試験が受けられるときなんですよ。
森上:そうなんですか。
齋藤:巡査から巡査部長にとかですね。同期の警察官が勉強し始める中で、僕は勉強する気になれなかったんですよね。「やっぱり僕の居場所はここじゃない」みたいなものがどっかにあって、辞めてしまおうと思って。他の勤め先を次に決める前にとりあえず退職だけして、完全に無職になりましたね。
森上:じゃあ、辞めてから、出版社に入ったと。ちょっと空白期間があるってことですね。
齋藤:実を言うと、警察に勤めているときに出版社を2社ほど受けたんですけど、やっぱり安定した帰るところがあると、やっぱり最後の踏ん張りが効かないみたいです。これは後ろ盾を絶ったほうがいいなあと思って辞めました。当時はもちろん、インターネットとかもそんなにまだ発達してないので、就職情報って、朝日新聞の金曜日とか、日曜日の欄とかですね。
森上:そうでしたね。
齋藤:はい。そういうのを見ながら、どこでもよかったですね。ある意味、業界紙だろうが、何かの専門雑誌だろうが、活字の扱える会社ならどこでもいいやと思って、いっぱいいろいろと履歴書を送ったら、返ってきた中の1つがかんき出版だったということですね。
森上:そうでしたか。元々、大学卒業後の新卒のときから出版業界にずっと興味がおありで。
齋藤:そうでしたね。新聞でも雑誌でも書籍でもいいですけれど、とりあえず文章とか、活字の世界でなにかをやりたいなとずっとあったので、それで四方八方に履歴書を送ったら、かんき出版さんに呼ばれたので。かんき出版から返事があった。その夜に書店にかんき出版の本を買いに行って、かんき出版って何の本出しているんだろうって。
森上:(笑)。業界の方はご存じかもしれないですけど、かんき出版というのは神吉晴夫(かんき・はるお)さんという伝説の編集者がいて、元・光文社社長で、その方がつくられた。
齋藤:昔のことを知っている方だと、「カッパ・ノベルズ」をつくられたとかね。
森上:そうだ、そうだ。それが有名。
齋藤:その方がつくった出版社(かんき出版)に運よく、声をかけていただいて、当時まだアマゾンもなかったので、書店に行って、「かんき出版の本ってどこですか?」って聞いたら、いくつか教えてもらって。今でも覚えているんですけど、『行政書士になる方法』っていうのと、『HTMLでホームページを作る』とかっていう本。「あー、これがビジネス書というものなんだ」みたいに、感慨深く見ていましたね。25歳のときかな。
森上:1995、6年ですかね?
齋藤:それぐらいですね。
森上:ネットがなかったですもんね。
齋藤:そうですね。パソコン通信みたいなものは、もちろんありましたけれど。いわゆるホームページでガンガン企業のサイトを見るとかっていう文化はまだなかった頃ですね。
ネットがなかった時代の編集作業
森上:あの頃って、DTPってかんきさんに入ってからもうありました? ワープロでした?
齋藤:当時はワープロを使っている人が多かったですね。もう今はないのかな、「書院」とか、「東芝ルポ」っていうのを私は使っていましたけど。それをテキストに変換する、テキストコンバーターっていうのを使って、そういうことをやっていましたね。私は実際には1回もないんですけど、私が入社する2、3年前までは活版印刷もやっていましたね。
森上:活版、やっていましたか!
齋藤:僕はやる機会なかったです。
森上:いやー、そうですね。僕が社会人になったのが98年なんですよ。僕のときがちょうど、「文豪」(NECのワープロ機種名)を使っていて、MS-DOSでやっぱりテキスト、フロッピーに落として、文字指定紙と色指定紙を付けて入稿みたいな時代でした。入稿袋に、各指定紙とフロッピーを入れて入稿みたいな、そういうことをやってた時期ですね。僕の世代でギリギリなので、それこそ、活版なんて経験できるなんてすごいですよね。
齋藤:原稿用紙で原稿をもらったことあります?
森上:えっ?(笑)。
齋藤:僕、1回だけあるんですよ。
森上:(笑)。それはすごい。
齋藤:そういう時代ですよね(笑)。
森上:そういう時代ですよね。それこそ、FAXで原稿が送られてきて、それを打ち込むとか。
齋藤:そうですね。今みたいに動画とか画像がガンガン送れるなんてことは信じられない時代でしたから。
森上:そうですよね。いやー、そうか。その時代からなんですね。
齋藤:はい。
渡部:さて、いかがでしたでしょうか?
今日は東洋経済新報社から編集者の齋藤さんにお越しいただいて、お話をお聞かせいただきました。今日は齋藤さんがどのようなキャリアを編集者として築いてきたのかについてお話いただきましたが、明日の放送では齋藤さんから本の作り方や企画の立て方といった、とても興味深いお話をしていただく予定になっております。それでは、また明日こちらのチャンネルでお会いしましょう。
(書き起こし:フォレスト出版本部・冨田弘子)
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