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【フォレスト出版チャンネル#13】出版社の裏側|企画が通る通らない問題

このnoteは2020年12月2日配信のVoicyの音源「フォレスト出版チャンネル|知恵の木を植えるラジオ」の内容をもとに作成したものです。


年間どれくらいの本数を企画している?

今井:フォレスト出版チャンネルのパーソナリティーを務める今井佐和です。今回は本づくりの舞台裏、「企画が通る通らない問題」をテーマにフリートークでお伝えしたいと思います。そこで2人の編集者をお呼びしました。フォレスト出版編集長の森上さんと副編集長の寺崎さんです。よろしくお願いします。

森上・寺崎:よろしくお願いします。

今井:さっそくですが、「企画が通る通らない問題」ということで、出版社によっては「企画をそんなにしない」という編集者さんもいたりすると思うのですが、フォレスト出版は「企画立案は大事」という感じなんですよね?

森上:そうですね。一応1人の編集者あたり、年間9本は通したものを本にしなきゃいけないというノルマはあります。

寺崎:でも、企画は通りません(笑)! 基本的に企画とは通らないものです。だから月2回編集会議をやっていますけど、1回につき2本企画を出して、月4本。年間50本前後の企画書を出して通るのは最低9本なので、企画通過率は18%……。

今井:だいぶ低いですね。

森上:50本以上出している人もいますよね。企画がなかなか通らないと。でも、年間9本と縛りがあるじゃないですか。そうすると出すしかないですよね。企画本数を。

今井:数撃ちゃ当たれじゃないですけど、そういう感じになってくるってことですね。

寺崎:言い方悪いですけどね……。だから、期末に、「ヤバい! 足りない!」って焦って2本どころか3本、4本出して、それでもやっぱ通らないみたいな……(苦笑)。

今井:ええ! そうなんですね!

寺崎:みんながみんな「これいけるんじゃないか」っていう企画はそんなに出せないんで……。

売れない本をつくると、○○に呪われる!?

今井:ノルマがあるので、大目に見て企画を通してあげるということもないんですね?

森上:そうですね。企画を通すのはいいけれど、本ってご存じのとおり、1冊も売れなくてもお金がかかっちゃうので。1冊つくるのに、最低ざっくり300万ぐらいはかかる。我々の社員の人件費無しで。

今井:最低で300万かかるんですね!

森上: 5000部で1400円~1500円ぐらいで、だいたい印税がそうですね。そのくらいですよね。

寺崎:だから重版しないと赤字です。初版で止まったものは確実に赤字です。

今井:赤字なんですか……。

森上:そうなんですよね。

寺崎:断裁にもお金かかりますから。断裁して廃棄するのにも。

今井:捨てるってことですか!?

森上:そうそう。在庫で残ったものは資産になっちゃうので、それを期末とかに断裁することになります。

今井:断裁してたんですね!

寺崎:全部粉々にして、粉砕してごみにするんです。

森上:環境破壊もいいところですよね。

今井:知らなかったです! そんな悲しいことが行なわれているとは……。本好きにはちょっと胸が痛む話ですね。

森上:ですよね。せっかくつくったのにっていう……。

今井:かわいい我が子は、すべて皆さんの手のもとに届けたいみたいな。

寺崎:三振がずっと続くと、もう心が……。大量に紙パルプ使って大量に廃棄して、なんでこんな自然破壊をやっているんだみたいなね。

森上:呪われそうだよね。

寺崎:罰当たりそう……。自然環境から。

森上:だから、話を戻すとね、そんな簡単に通すわけにもいかないんですよ。実際に売れるっていうものを出さないと。ただ、9本はやらなくてはいけないけれどって、話なんだよね。

寺崎:企画が通らない方が健全だと思います、出版社としては。出版社によってはとりあえず本を出せばお金が入ってくるんですよ。で、その後、返品分が取られる。とりあえず出せばキャッシュは入ってくる。だから、次の返済までに新刊を出す。自転車操業。

今井:クレジットカードで、赤字でヒイヒイ言っている人みたいなイメージですね。手元にお金はないけど、これからとりあえず払って、次の支払日までになんとか頑張ってみたいな。

森上:そう。不健全な出版社の状態というのは、そういうことだと思うんですよね。そこには陥りたくないというのが、うちの考え方。それは絶対しないので。月の新刊点数も平均的になるようにしていますから。だいたい月に5冊くらいですかね、多くて。「年間60冊くらい」というのをベースにしている感じですかね。他の出版社さんでは「今月、新刊が結構多くて!」というようなところもありますもんね。

今井:(刊行点数に)波があったりする。

森上:そうそう。

企画立案は、編集者の根幹の仕事

寺崎:ちなみに、僕が前にいた職場で、企画がもう何カ月も通らなくてやめた人いますよ、他の出版社で。

今井:えーーー!

寺崎:通らなすぎて。仕事にならないんで……。

森上:仕事がないんだもんね。

寺崎:編集者は入社して半年ぐらいは企画を出すしかないんですよ。企画を通すしかない。それを商品にしていくっていう過程があるんですけど。通らないことには、何も仕事がない。

今井:そうですよね。はじめの部分ですよね、企画って。

森上:自分で仕事を生まなきゃいけない。

寺崎:企画が一度も通らなかったら給料泥棒だから、いられないですよね。

今井:確かに。ツラいですよね。

森上:そういう意味でも、(編集者は)自分で企画をつくって通して、初めて仕事が生まれる。やっぱりまず企画を通すっていうのか、企画を通して仕事をつくるというのか。

今井:慈善事業ではなく、商業出版っていうところですよね……。

森上:そうですねぇ。

今井:でも「売れる本」と「売りたいっていう自分のパッションがある本」って同じなようで、違ったりすることもあるじゃないですか。特に売れる本って、過去からの経験則というか、「今こういうのが流行っているから売れそうだな」っていうのと、「こういう未来を皆さんに伝えたい」という編集者としてのパッションがあってというのは、少し違ったりするじゃないですか。そこの折り合いをどうやってつけて企画をつくって通していくんですか?

森上:おそらく、それが最大公約数になったときが、1番気持ち良く本がつくれるし、売れていくんでしょうけど、最大公約数につながるものって、なかなかないのが現実であります。どっちかに偏っているパターンが多いですね。人の共感を得られるというか、楽なのは過去の実績から「こういった傾向があるからこういうのを出しましょう」みたいなほうが通りやすいですよね……。

今井:確実に売れるという安心感がありますよね。

森上:そうですよね。片やなかなか賛同が得られないけど、「これが見えている」という編集者の個人的な“カン”みたいなものがあるじゃないですか、未来に向けた。それがハマるとすごいよね、やっぱり爆発するパターンが多い。外すパターンはそれより多いけれど……。

今井:外すパターン(笑)。ギャンブルみたいですね。

寺崎:でも、「全員賛成した企画が売れるのか?」 どう思いますか?

森上:いい命題ですね! どうなんですかね。実際うちでそんな本ってあったのか。ないと思うんですよね……。

通る企画のパターン、通らない企画のパターン

森上:企画が通る通らないパターンで言うと、3つぐらいあるよね。著者はOKだけどテーマ、切り口がNGとかね。

寺崎:逆にテーマ、切り口はOKだけど著者がNGとか。

森上:著者もテーマもOKだけど、切り口がNGとか。

今井:なるほど! なにかがNGということなんですね。

寺崎:実は3つ目が一番多いんじゃないかなと思いますね。

今井:著者、テーマはOKだけど、切り口がNG。

寺崎:「その著者の過去の著作とどう違うの?」とか、「どこが新しいの?」っていう質問にスパッと答えられないと、ちょっとそれきついんじゃないのという話になる。

今井:切り口が大事だというお話があったんですけど、他にも企画が通らない理由っていうのはあったりするんですか?

寺崎:そうですね。企画書あるあるなんですけど、企画のおもしろさが、その企画している本人以外に伝わらないっていうのがよくあります。

今井:自分だけがおもしろいみたいな。

寺崎:「なんでこのおもしろさ、わからないのかなー」みたいな。

今井:独りよがりになってしまうみたいな。

寺崎:そうそう! 「こっちは、それ全然おもしろくないんだけど。おまえだけじゃん! おもしろがってるの!」っていう(笑)。「何がおもしろいのか」を、まずその場にいる人(企画会議出席者)に伝えなくてはいけない。人によってはサンプル原稿を付けるとか、紙面見本をつくって、「こんなおもしろい紙面の本にするつもりです!」みたいなものを示して、「これだったらおもしろそうだね」みたいな。

森上:企画会議の場でおもしろさが伝わらないものが、本になっておもしろさが伝わるわけがない。

今井:確かに! 確かに!

森上:そもそも、その企画のおもしろさを伝える努力を、本は基本的に文字というコミュニケーションツールだけで表現しなくてはいけないわけです、書店の店頭では。別に、本に口があるわけじゃないから(笑)。(書店の店頭で)「このおもしろさ、わかってくれないかなー」と本が言ってくれればいいけど、という話になっちゃう。そこはやっぱり、企画書の段階でわかってもらう努力をする必要がありますよね、企画者はね。あと、これは5つ目になるのかな、「客観的データが乏しい」ものは通らない。

寺崎:そうですね! 「おもしろい魅力的な著者なんです! 以上」と言われても。類書の実績とか、指導実績何十万人とか、よくあるのは何年先までキャンセル待ちの先生とか、講演実績とか、そういった客観的なデータがほしいものがありますよね。

森上:あとSNSのフォロワー何人とか。そういうのはわかりやすいじゃないですか。

今井:わかりやすいです!

寺崎:最近は、SNSのフォロワー数とか、チャンネル登録者数などは、かなり重要度が増していますね、年々。

今井:確かに! メンタリストのDaiGoさんの本があっという間に売れるみたいな。というのも、やっぱりTwitterでフォロワー数がいっぱいいたり、YouTubeでバンバンやっていたりという話を、DaiGoさんご本人がしていました。

森上:そうですよね。そういう意味では、出版社側も売れが見えるので、そこは強いですよね。そういう客観データがあると。

今井:大事なデータなんですね! 客観的データ。

森上:そうですね。それがあると強いですね。企画が通りやすいですよね。

満場一致でOKだった企画は、必ず売れるのか?

今井:じゃあ、逆に客観的なデータもあるし、切り口も良くて、全員「それはおもしろいね!」っていうような満場一致の企画は、やっぱり売れるという見方でいいんですか?

森上:そうとも言えないのが難しいところですね。

寺崎:そうとも言い切れないし……。好きな話があるんですよ。セブンイレブンを日本に持ってきて成功させたセブン&アイホールディングスの鈴木敏文さんがセブンイレブンをつくったときに、セブン銀行を始めたじゃないですか。「業界内やマスコミから総スカンをくらった」と。「うまくいくなんて誰1人言わなかった。」で、この次が好きなんですよ。「みんなが賛成することはたいてい失敗し、反対されることはなぜか成功する」

今井:ええ! 勇気が湧くセリフですね!

寺崎:そう! スティーヴ・ジョブスも、そのようなことを言っていたはずなんですよ。マイクロソフト(ビル・ゲイツ)だったな? ちょっとわかんないですけど(笑)。

森上:でも、ありますよね。出版の企画会議でも、会議で結構反対があったものに対して、その企画者のパッションというのかな。

寺崎:逆に燃えてくるよね。「ダメだ! ダメだ!」って言われると。本人はイケると思っているので。

森上:そう! そうすると反骨精神が! 本づくりにエネルギーが増すというかね。逆に「今に見てろ」と執念を燃やす人もいますよね、反対意見があっても、なんとか通った企画の場合ね。それで結果が出たときに「やった!」と本人は思うんだと思うんですけど。

今井:うれしいですよね!

寺崎:究極の企画を通す方法があるんですよ。

今井:何ですか!?

寺崎:それはですね、しつこく何度も何度も手を変え、品を変え、出し続けて、まわりに「こいつ、頭おかしいわ」と思わせて、無理やり企画を通す。結局、最後は言い出しっぺの熱量に比例するので、「そこまでしてやりたいんだったらいいよ」みたいな。実際そういう企画も多いです。

森上:ありますよね。うち(フォレスト出版)でも、結構それはありますね。

今井:てっきり、本って著者のパッションのほうが大事なのかなって思っていたんですけど、編集者さんのパッションが本に載ってくるっていう感じなんですね。

森上:そうですね。そのエネルギーがうまく重なったとき、爆発する。著者さんのパッションも、あればあっただけいい力になりますよね。編集者と著者のエネルギーが掛け算されたときに科学反応が起こるという感じですかね。

今井:本にはたまに「あとがき」で「編集者の〇〇さんありがとうございます。」なんて名前が書かれていたりもしますが、基本的に名前って載ってないじゃないですか。そんなパッションを持って企画を練って編集しているんだと、今回知れて良かったです、

森上・寺崎:ありがとうございます。

今井:ということで、編集者さんに限らず、皆さんがお仕事してる中で「これやりたい」とか、「ああしたい」とか、「ここを変えたい」とかいろいろあると思うのですが、最後は言い出しっぺの熱量に帰結するということで(笑)。ぜひ皆さん、しつこく歯を食いしばって、パッション高くいっていただけたらと思います。今回は、編集者の森上さんと寺崎さんに「企画の通る通らない問題」についてお話しいただきました。どうもありがとうございました。

森上・寺崎:ありがとうございました。

(書き起こし:フォレスト出版本部・冨田弘子)


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