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データも使って楽しむカタールW杯 その3 :ボール保持

前々回のブログで、FIFAがカタールW杯の試合中継で使う11の指標が発表されたことをお伝えしました。「Final third entries」に続いて、今回は「Possession control」ついてご紹介していきます。

※私がここで取り扱うデータ指標の説明は、基本的には以下のことに注意しようと思っています。

  • サッカーに詳しくない人でもイメージがしやすい

  • できるだけ日本語で表現(日本語として違和感がない外国語は使用)

  • 小学校高学年が正しく理解できる言葉を使う

また、W杯が始まって中継を見ていくなかで、捉え方や表現が違うと感じた場合は修正する可能性があるかもです。

Possession controlの日本語訳

左下に表示されたPossession control(FIFA公式サイトより引用)

Possession controlは、日本語にするのが難しいと思っています。FIFAの日本語版説明資料では「ボール支配率」と書かれてありますし、これに慣れている人も多いと思います。しかし、私は支配という単語には「思い通りにできる」という意味が含まれていると思っているので、サッカーで使われるこの数字に「支配」という言葉を使うのには違和感があります。試合の状況には、チームがボールを持っていることもあれば、持たされている(そのチームがボールを持っているのに攻撃ができない)こともあります。後者の場合は、支配しているとは言えません。そこで、ここではPossession controlを「ボール保持(=ボールを持っている状態)」とします。

※このブログでは、英語で表されたものを単に日本語に訳すのではなく、日本語でサッカーを見る人が理解しやすい言葉に言い換える、ようにしたいと思います。

指標の意味

この指標は、以下のように説明できます。

  • そのチームが試合中にボールを保持している時間の割合(%)

  • チームA/チームB/競り合い、の3つに分けて表示

  • 試合時間ではなくボールが動いている時間のボール保持

注目ポイントは、「競り合い(in contest = どちらのチームもボールを保持していない状態)」という分類が加わったことです。具体的な例としては、FIFAによると「2 人の選手が飛んでくるボールを空中で奪い合い、一方の選手がボールに触れてルーズボールになると、in contest状態になります。または、ディフェンダーの守備の動きで、敵のパスをカットするためにボールに触れてルーズボールの状態になった場合も、in contestになります。」とあります。

私の経験上では、これまでは「そのチームの攻撃プレーが2つ続いた場合にボール保持が始まる。それまでは相手がボール保持」というものが一般的だったように思います。それを上記のような3つに分けたというのは、今のサッカーでの「競り合い」の状態がいかに重要かを示していると捉えられます。

※3番目のポイントの「試合時間ではなくボールが動いている時間のボール保持」について補足します。FIFAは試合時間を「プレーの中断」を含めた4つに分けているようなので、この指標では「チームA+チームB+競り合い=ボールが動いている時間(コーナーキックやフリーキックの準備、選手交代などの時間は除く)」になると思います。

指標の使い方

試合中や試合後に中継を見る時に、この指標をどのように使えばその試合を楽しめるのかについて3パターンに分けてご紹介します。

<初めての人向け>
▶︎ 両チームの数字(%)を比べる
どちらのチームがどのくらいの割合(時間)でボールを持っているのかが分かるので、優勢だと感じるチームの割合が高いのかどうか、自分の印象と比較して確かめてみると面白いと思います。
▶︎ 「競り合い(in contest)」に注目する
競り合いの割合が高い場合は、どちらのチームが試合を有利に戦えるかをお互いに争っている状態と言えます。1回1回の競り合いを制するのはどちらのチームなのかを見ていくことで、その後にどちらがボール保持をしていくのかが分かると思います。

<もうちょっと知りたい人向け>
▶︎ 数字(%)の高さと攻撃の有利さを比べる
先ほど書いたように、この数字が高いからと言ってそのチームが試合を有利に進めているとは限りません。目安としては、相手陣に入れているか、シュートを打てているかなどを確認することで、数字の高いチームがボール保持を有効な攻撃に繋げられているかどうかが分かります。
▶︎ 「競り合い」のキープレイヤーを見つける
どちらのチームか分からないボールを自チームのものにしてくれる選手は、ものすごく大きな力になります。桜木花道のリバウンドのようなものです(スラムダンクど真ん中の世代です)。競り合いのデータを意識して試合を見ることで、目立たないけど実はこの選手が試合の流れを引き寄せている!というチームに光をもたらす黒幕が浮かび上がって見えるかもしれません。

<詳しく知りたい人向け>
▶︎ チームの意図から数字(%)の意味をつかむ
何度も言いますが、この指標の数字にはそのチームの意図が表れているとは限りません。つまり、意図を理解しないと、その数字がチームにとって良いのか悪いのかが分からないということです。例えば、選手の表情に余裕があるのか焦っているのか、仲間同士が讃え合ってるのか言い争っているのか、複数の選手が連動しているのかバラバラなのか、攻撃と守備がスムーズに続いているのかどちらかがぎこちないのか。その辺りから、そのボール保持の状態をチームが意図しているのどうかのヒントを得ることができます。
▶︎ 数字を材料に試合展開を予想する
ボール保持データは、試合経過とともに変化していくものです。中継ではどのタイミングでこのデータが表示されるかは分かりませんが、データを参考にしながら試合を見ていくと、展開の予想が楽しめます。例えば、このデータが低かったチームがボールキープが得意な選手を交代出場させた場合、そこからボール保持を狙おうとしているんだなと想像できます。また、競り合いの数字が高い場合には、ミッドフィルダーの選手のポジションを少し上げることでこぼれ球が拾いやすくなり、もっとボール保持ができるかもしれないといったアイデアを思いつくことができるかもしれません。

まとめ

サッカーは、ボールを持っているチームがゴールを決めることができます。しかし、そのために常にボールを持っておかなければいけない訳ではありません。あくまで、チームがどんな狙いを持ってボールをどう保持するか、相手にどう保持させるかが試合を進める上で大切になります。
W杯では各大会ごとにトレンドの戦術があります。ボール保持データが高いチームが試合に勝ちやすいのか、低いチームなのか、それとも言い切れないのか。カタールW杯のトレンドはどうなるのか楽しみです。

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