ブロニー1

自分を肯定的に受け止めることができた。『死ぬ瞬間の5つの後悔』vol.1【読書感想】

私の背筋はピンと伸びていた。
カフェで『死ぬ瞬間の5つの後悔』を読んだ後の帰り道、ここ半年で初めて私の背筋は伸びていた。以前習っていたバレエでいつもやっていた姿勢、維持するのには少し辛いのだけど、体があるべき場所にちゃんとある、そんな感じだ。いつも重い足も、軽やかだった。その理由は、『死ぬ瞬間の5つの後悔』を読んで、自分を肯定的にとらえることができたからだ。

難しい金融商品を生み出して、それを興味のない人に売りつけることができる人。コンサルタントで様々な業界に精通していて、いつも高そうなお洋服で身を包んでいる人。自分に自信を持っていいのは、こういう人たちだと思っていた。私が得意とする、「人の心に寄り添うこと」は誰にでもできることで、前述の人たちと比べたら専門性もスキルも何もない。介護の仕事も、どちらかと言えば、「私の側」だろう。
でも、ブロニーが能力があると見込まれて仕事を頼まれたこと、彼女がクライアントときちんと心を通わせてよい関係を築いていたこと、そしてそういうことができないヘルパーもいることを知り、「人の心に寄り添うこと」も立派な専門性なのだと思えてきた。できない人もいるのだ。技術的にできても、自分の気持ちをその仕事に捧げられない人もいるのだ。

今の私の仕事は、カスタマーサポートのようなものだ。ユーザーの質問にひたすら答え続ける。サービスを理解すれば誰にでもできることだと思っていた。他の部署で自分の専門性を活かして仕事をしている人たちが、ずっとずっとうらやましかった。もともと、もっとクライアントの人生に関わる仕事をしていたから、ただ質問に答えたり、利用のサポートをするだけでは物足りないと感じていたのもある。そういう場面でこそ、私の今までの経験が活かせると思っていたからだ。

でも、ふと思った。社長は私のしていることができるだろうか、と。イエスでもあり、ノーでもある。彼は技術的なことをしっかり理解しているし、質問に正確に答えることができるだろう。でも、ユーザーが「この人は自分の疑問をわかってくれた」と思える対応はできないのではないか。ユーザーの気持ちに寄り添うことができないからだ。私と同じチームにいる同僚も実は同じだと思う。きちんと答える。間違ったことは言わない。プロとしての完璧な対応。でも、ユーザーとの距離は縮まらない。それは仕事として処理しているだけで、相手を理解しようという気持ちが伴っていないからだ。

私の得意としていることや、今の私の仕事は、派手な仕事ではない。でも、ないと困る仕事だ。先日、クライアントと電話で話していたら、一通り質問に答えた後に、「お忙しいところお時間を取ってしまってすみませんでした。」と言われた。決まり文句で言っているのではない。彼女は本当にそう思っていると感じた。この言葉の背景には、サービスのことがわからない自分を恥じている気持ちが隠れていると思った。だから「最初はわからないことがたくさんあって不安ですよね。いつでも電話してくださいね。」と答えた。そしたら、初めて笑ってくれた。今まで張りつめていた声が、少しやわらかくなった。とってもうれしかった。

これは、私にしかできないこと、私の得意とすることなのだ。ブロニーが私に自信をもたせてくれた。

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