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IPOを通じて実感したスタートアップCFOの存在意義は「Equityの追求」

こんにちは、CFOのnickです。
フーディソンは2022年12月に東京証券取引所グロース市場に上場しました。
私は2016年にフーディソン入社し、その間にファイナンス面ではシリーズBの資金調達、銀行借り入れ、IPO準備を進めました。年間に上場する企業は90社程度あるので、それぞれストーリーが違うと思いますが、個人的に考えてきたことをまとめさせていただきました。


スタートアップCFOの管掌範囲

スタートアップとは便宜的に、VCファイナンスを調達した未上場企業とします。
CFOはChief Financial Officerという名の通り、ファイナンスにコミットするだけであれば、スタートアップCFOの役割は以下の5つに大別されると思います。

これだけでも十分に役割としてはありそうに思えます。
ただし現実的にはIPO準備以外は比較的単発業務で、常に発生するわけでもないという実態があります。そのため、時間が余るCFOの能力を最大限に活用するために、管掌領域をファイナンスだけに限らず、広く持たせるという選択を多くの企業がしているのだと思います。

実際に私もファイナンス、HR、コーポレート、ストラテジーと、いわゆるコーポレート機能全般を管掌しておりました。企業によってはCFOと並行して、人事や採用を管掌するCHROを配置したり、広報を別の責任者に任せたりするなど、組織を構築する上で線引きをどこにするかは色々なアプローチがあると思います。

スタートアップCFOに求められる能力

スタートアップ企業から「どういう人をCFOとして迎え入れるべきか?」といったご相談いただくことがあります。CFOの候補者選定において、能力面とキャラクターの両方を考慮することは非常に重要だと思います。

能力面については、経営チームの能力や組織のニーズを踏まえて、CFOの役割や管掌範囲を明確化するのが良いと思います。CEOが金融出身者である場合、ファイナンスに関する課題はそれほど大きくないかもしれません。その場合は、会計や業務体制の構築に優れた知識や経験を持つCFOの方が適しているのかもしれません。経営チーム全体のバランスを考え、CFOが持つべき専門知識やスキルセットを明確にし、そのプロフィールに合致する候補者を探すことが重要なのだと思います。

一方でキャラクター面については、経営チームとの相性と会社のミッションへの共感が重要です。特にIPOを目指す場合、最低でも2年はプロジェクトとしてのコミットメントが必要ですし、一般的にはもっと時間がかかるので、「IPOを成功させてレジュメに書きたい」というような安直な動機だけだと現実的には続かないのではないかと思います。

特に金融出身者は1つのプロジェクトが長くても数ヶ月、短いと1ヶ月未満というような時間軸での業務経験が多いため、2年以上のプロジェクトとなると経験したことなく、途中で飽きがきてしまうケースもあるような気がしています。そのため、CFOとしての長期的なコミットメントが見込まれるかどうかは経営チームとの相性とミッションへの共感に対する評価を行うことが重要だと思います。

個人的な見解としては、CFOは組織の安定化と成長を担うべきだと考えていますので、キャラクター面の評価が能力面以上に重要だと考えています。

CFOの真の役割はEquityの追求

経営幹部の役割として、利益成長の角度を長期的に上げていくことはCFOに限らず求められると思いますが、特にCFOに求められる役割は「Equityの追求」だと考えています。

Equityとは一般的には資本とか株式とか解釈されると思いますが、ここでいうEquityとは公正を意味します。

少し脱線しますが、世の中には株式、債券、為替、コモディティなど色々な金融商品があります。株式だけは非常に特殊な金融商品で、それは金融商品の意志として株価を上げるというミッションを持っているということです。債券は価格を上げたいとか下げたいという意志はなく、金利が上がれば債券価格は下がり、下がれば上がります。コモディティについても同様で、原油自体が価格を上げたいとか下げたいという意志はないのです。

一方で、株式は違います。

株式会社は株式価値が上がらないとリターンが得られないため、企業価値を上げていくという前提が構造上あり、それに向けて経営や執行が企業活動をしているという実態があります。「意図的に長期的に利益を下げよう」という経営をしている株式会社は理論上存在しないはずで、従って、株式は株価を上げるという意志を持っていると言えます。

そしてまさにCFOはこの意志をもった株式の意志の実行者なのだと考えています。

コーポレートファイナンスは理論と実践の間に開きが生じることが多々あり、このギャップをEquity(公正)の観点から埋めるために、意志を実行するCFOの存在が必要とされるのです。

Equityの追求とは?

例えば、コーポレートファイナンスにおける企業価値の理論値の算定方法としてDCF(Discounted Cash Flow)法が挙げられていますが、この方法では割引率rや成長率gの前提によって企業価値が大きく変動するため、実践上はこの数値の調整をします。

売り手は成長率を高く設定し、割引率を低く設定することで企業価値を上げようとします。一方、買い手は逆の立場であり、企業の価値を低く見積もりたい傾向があるため、それぞれの理論値に開きが生まれます。このような場合、CFOは短期的な株主の利益を最大化することも重要ですが、一方で、公正性を保つことで、長期的な株主の利益も毀損しないようにすることも同じく重要で、利益相反が生じる中で企業価値の最大化と公正性の確保を行うという難しい役割を担うのだと思います。

この例に限らず、会社の利益を内部留保、株主、従業員にどう配分するかなどでも同様の利益相反が起き、一定の判断が求められます。このような場面において、どのような整理をして、如何にフェアに判断していくかがCFOのEquityの追求なのではないかと考えています。

スタートアップCFOはEquityの追求が一層求められる

スタートアップCFOにおいて特にEquityの追求が重要になるのは、客観的な市場評価が得難い中で、一つの結論を出す判断を頻繁に求められるからです。

具体的には以下の2点があるかと思います。

1.ファイナンスフェーズに伴いルール変更がある

スタートアップの成長に伴い、ファイナンスのルールや評価指標が変化することがあります。CFOはこれらの変化を適切に説明し、過去の投資家や関係者に新しいルールへの理解と共感を促す役割を果たします。例えば、未上場時の評価指標がPSR(Price Sales Ratio:価格売上高倍率)だったものが、上場時にはPER(Price Earnings Ratio:株価収益率)へ変わるなどの説明や調整が求められることなどがそれに当たります。

2.ステークホルダーマネジメントの矢面に立つことが多い

スタートアップはさまざまなステークホルダーのインセンティブが異なる状況で運営されます。どのステークホルダーもそのスタートアップの成功を望んではいるものの、時間軸やリスクテイクの考え方が違い、CFOは既存投資家、新規投資家、従業員、取引先、創業者などの間の利益相反の調整役となり、最適解を見出し、関係者の納得を得る役割を果たすことが多いと思います。

最近になりダウンラウンドと呼ばれる上場時の公募価格が未上場時の発行価格よりも低くなるケースが見られるようになりました。真相はわかりませんが、裏ではCFOがEquityの追求を通じて、スタートアップの成長とステークホルダーの利益をバランスさせる難しい舵取りを行っていた可能性もあるかと思い、勝手ながら敬意をもっております。

さいごに

私自身Equityとは何なのか考え始めたのはCFOという役割に就いてから数年後でした。

未上場株の市場環境がまだ良かった時代に少し大きめな資金調達を検討しましたが、取締役会で社外取締役から資金使途でバッファーを取ることの是非について「CFOがラクしたいだけでは?」と指摘され、それがEquityについて考えるきっかけになりました。

CFOとしては、資金調達は手間だし、マーケットが良いときに不測の事態に備えて厚めに調達しておきたいという心理がある中で、希薄化による既存投資家の価値毀損については軽視していたことに気付き、調達額を抑えるという判断に切り替えることになりました。

それ以来、Equityについて自問自答しながら、その都度ステークホルダーの皆様と話をさせていただいたり、想像させていただいたりしながら、各立場から見て「フェアに見えるだろう」という考えの下で意思決定を行ってきました。うまくできているかどうかは甚だ不明ではありますが、そこについて十分に思考を巡らせて結論を導くことがEquityの追求であると考えています。

フーディソンでは新たな仲間を募集しています

以上、スタートアップCFOについての考えをまとめさせていただきました!
フーディソンは未上場のフェーズは終了しましたが、上場間もない企業として全方位的に採用をしています!
ご連絡お待ちしております!



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