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私たちの食欲とタンパク質について

こんにちは、食品業界で働いているらびです!

最近、日本でも「タンパク質補補給食品」が溢れています。

タンパク補給食品ブームの背景として、スポーツ人口増加による筋力トレブーム、高齢者のフレイル予防、健康志向など、今の日本人のニーズ(健康寿命を伸ばしたい!)がとても反映されています。

そこで、今回のテーマはタンパク質と肥満。私が関わる、加工食品についての話も交えながら、タンパク質と肥満の関係について、ある仮説をベースに解き明かしていこうと思います。

※一部内容は「科学者たちが語る食欲 (原題:Eat Like the Animals)」という書籍や著者の発表論文から抜粋しながら紹介します。


1. 加工食品は肥満の原因となり得るのか?

一般的に、加工食品=脂質・炭水化物が多く、太りやすい食べ物、という認識の人も多いのではないでしょうか?

「ほとんどの加工食品は、食べる事=肥満(過食)に繋がる可能性は低い。しかし一部加工食品(俗称:超加工食品)に関しては、注意しなくてはならない」というのが私の率直な感想です。

さて、一口に加工食品といっても様々なものがあります。

加工食品の分類法は「NOVA分類システム」と呼ばれるものが業界では有名です(この分類は科学的根拠に乏しい、矛盾を孕んでいる、という批判もありますが便宜上使用させて頂きます)

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図1.  NOVA分類システム (森田満樹氏が作成: FOOCOM)

Group 1〜3に分類される加工食品が悪者にされることはあまり無いです。単純な物理的加工のみであったり、食経験が長いことが理由だと思います(燻製、チーズなどもGroup3に分類される)

ところがGroup 4の食品に関しては、食べ過ぎに気をつけている皆さまも多いのではないでしょうか?

これらの食品は一部で超加工食品と呼ばれており、高炭水化物、高脂質の製品が多く、タンパク質は少ない傾向にあります。タンパク質レバレッジ仮説 (PLH)という仮説によると、このような配合の加工食品は、過食を促進させる可能性が高いです。

2. タンパク質レバレッジ仮説 (PLH)とは?

この仮説を一言でいえば、

「 食欲とタンパク質の摂取量は、逆相関関係(一方が増えれば、もう一方は減る関係)である」

になります。

ざっくり言えば、「タンパク質の摂取比率を上げないと、いくら食べてもあなたの食欲は尽きませんぞ」ってことです。

少し詳しく説明すると・・・

人間を含む多くの動物は「タンパク質ターゲット」という、1日あたりの必要摂取量が「体内時計」のように定められていると考えられております。そして、筆者ら(Simpson and Raubenheimer)の長年の研究により、タンパク質ターゲットは単純に必要量を摂取するのではなく、摂取比率(1日の摂取総カロリーのうち、タンパク質が占める割合)が大切である事がわかってきました。


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上図はPLHの提唱者であるSimpson and Raubenheimerらによって作られた検証結果のグラフを、栄養学者であるDr. Ted Naimanが加工したミーム(笑)です。縦軸は食事中の脂質の割合、横軸はタンパク質の割合です。

この図は食事にタンパク質を多く取り入れると、相対的に炭水化物の摂取比率は減り総摂取カロリーも低くなる、という事を示しています(その逆もしかりで、炭水化物を多く取り入れるとタンパク質摂取比率は減り、本能的にそれを補おうと食事量も増えて総摂取カロリーも増えます)

筆者らの実験によれば、被験者の女性に知らせずにタンパク質摂取割合を15%から13%に落とした場合、1日あたり290kcal程度摂取カロリーが増え、15%から17%に増やした場合は150kcal程度摂取カロリーが減ったとのことです。

ほとんどの生物がこの「タンパク質ターゲット」を満たすまで、食欲は尽きないと主張しています。

さらに、Liebermanらも人口統計学的観点でPLHを支持しており、ライフスタイルの要因に関係なく、米国の人口および複数の国際的な人口のタンパク質摂取量が一貫して総エネルギーの約16%であるという内容の論文を発表しております (Lieberman et al., 2020) 

炭水化物の四分位範囲はタンパクの倍以上値が高かったので、やはり人間の「タンパク質」に対する嗅覚がかなり正確であることを感じました・・・人体って本当にすごいですね。

Liebermanらの論文の結論では「生物的防除メカニズムがタンパク質摂取を厳密に調節し、その結果、他の主要栄養素や食品成分の摂取に影響を与える可能性がある」という趣旨を述べておりました。

● まとめ

タンパク質レバレッジ仮説を簡単にまとめると、タンパク質と食欲は逆相関関係であるということ。日常でタンパクが不足していると、空腹感が収まらず、過食に繋がる可能性があるっていうことですね。

そして、タンパク質ターゲット量は体重が増えるほど増加します

当然、タンパク質ターゲット量が増えれば、それを達成する為に、多くの食べ物を食べてしまうで、過食・肥満の悪循環にはまってしまう・・・特に肥満率の高い米国・英国においてはこの負のサイクルに超加工食品が寄与しているので、日本よりもかなり問題視されています。

● 最後に

冒頭でも言った通り、これはまだ仮説の段階です(そもそも明確なエビデンスでもって証明する事は難しい)。過度に信奉する必要はないですが、タンパク質の摂取量で食欲をコントロールする、という考え方は非常にヒューマン・フレンドリーに感じました。

超加工食品に関しても「絶対に食べない!」と我慢(我慢って負の感情なので、つらいですよね・・・)して、ストレスを抱えてしまうよりも、「自分の体調、ライフステージ、生活レベルを鑑みて、できる範囲で最適な食べ物を選択していこう!」と前向きに、柔軟性を持って、QOLを上げていけたら素敵だと思いました。

何事もほどほどに、ですね。


おしまい


参考資料
・S. J. Simpson and D. Raubenheimer, Obesity: the protein leverage hypothesis (2005)(原文はコチラ)
・ 超加工食品ってなに?食べてはいけないの? (森田満樹, 2019)
・フードトラップ 食品に仕掛けられた至福の罠 (Micheal Moss, 2014)
・食の歴史 人類はこれまで何を食べてきたのか (Jacques Attali, 2020)
・Lieberman HR, Fulgoni VL, Agarwal S, et al. Protein intake is more stable than carbohydrate or fat intake across various US demographic groups and international populations. Am J Clin Nutr. 2020.
・科学者たちが語る食欲(David Raubenheimer, 2021)



お気持ちだけでも十分嬉しいです!ありがとうございます。