グルテンフリーという響きから得られる快感とその実態
○○フリー、○○ゼロ
○○には大抵体に悪そうなものが書いてあります。
カロリーゼロとか糖類ゼロとか明らかに摂りすぎたら体に良くなさそうなものなら、確かにアピールになりそう。
コレステロールフリーなんてのもありまして、(植物油に書いてあるとそりゃそうだろとなりますが、(まあそれはそれで知らない人もいるので))一定の役割はあるんでしょう(知らんけど)
添加物フリーもあるかな?添加物が体に悪いのかは一旦置いておいて(以下のコラムをご覧ください)、それを求める人には大切な表示です。
さて、本日はそんな中でも最近よく見かける「グルテンフリー」について真正面から当たってみよう。色んなところで火傷するかもしれないけど、私の今の見解をば。
結局どうなのか
特定の人にとってはグルテン(あるいは小麦)を除去した食生活がQOLを上げる可能性は確かに考えられます。
ただ、万人に当てはまるわけでもなく、中途半端に気にしてモヤモヤするくらいなら一切気にしない方が幸せです。
例えば「グルテンは腸を痛めるらしいから避けた方がいいと思う」くらいの(実際に被害を被っていない)レベルなら、気にしなくていいと思う。
グルテンとは
というわけで本題。
そもそもグルテンとはなんでしょう?
グルテンはグルテンという成分だ!と言われたらそうなんですけど、グルテンフリーを学ぶならグルテンの正体を知るのが筋。
細かい話なので、良し悪しだけ知りたい方はこの章はスルーしていただいて構いません。
グルテンはたんぱく質からなっており、つまりアミノ酸がたくさん連なったものです。特にグルタミン酸配列が多く含まれるのが特徴(だからグルがつくのかな?)。
なおたんぱく質の名称としてグルテンというものはなく、グルテニンとグリアジンというたんぱく質が合わさりグルテンと呼ばれています。それぞれ物性が違うので、パンとかうどんとかがなんかいい感じにもちもちになります。
なんかいい感じな絵がここに↓
ちなみに、グルテンは確かに小麦に特徴的なたんぱく質ですが、グルテリン(※水、中性塩溶液、アルコールには溶けないが、薄い酸、塩基に溶ける物の総称。グルテニンはこれの一種)は他の穀物にも多く含まれておりまして、、
例えば、お米も意外とたんぱく質が含まれていることで知られていますが
ということでお米はグルテンフリーですが、グルテリンフリーではないというわけ。
でも、お米のたんぱく質ではグルテンのような物性(弾性&粘性)は出なくて、小麦のあの組み合わせは奇跡なのかもね。
話がそれましたが、グルテンはたんぱく質なので、分解されてアミノ酸やペプチドとして吸収されるのが基本です。
消化吸収についてはこちらをどうぞ。
グルテンフリーは健康か?
さて、健康系雑誌なんかに
小麦をやめたら体調良くなったから
グルテンフリーは最高の健康法(きらきら)
なんて言葉をたまに見かけますが、果たして本当でしょうか?
人は物事に善悪をつけたくなります。小麦は善なのか、悪なのか。
一言で言うと一言では言えません。
例えば、以下のパターンが考えられます
小麦を避けると体が
1.良くなること自体気のせい
2.良くなるが小麦以外の食材が原因
3.良くなるが小麦のグルテン以外の成分が原因
4.良くなるのはグルテンが原因
ということで、一つずつ見ていきましょう。
1 気のせい説
元も子もないけど、気のせいの場合。
グルテンフリーが悪いって聞いたから、そんな気分になるという嘘のような本当の話。小麦のノセボ効果とも言えるかもしれません。
こういう考え方や思想は決して否定されるものではなく、多様性な世の中では尊重されて然るべき。
ですが、、、正直こんなことで小麦を避けて欲しくないんですよね。実際小麦を避けるのは、時間的金銭的コストがかなりかかります。
少なくとも、エビデンスなく煽る業者さんやインフルエンサーの方々はこういった犠牲者を出していることを自覚してほしいです。
最終的には自己判断とはいえ、提供側がそれを助長するのに私は反対。
2 小麦以外が悪い説
どういうこと?って思うかもしれませんが、例えば
パンをやめた→痩せた→グルテンは太る
という論理の飛躍がこれにあたります。
一見正しそうだけど、そもそもパンを食べなくなって摂取カロリーが減ったのでは?とか、そもそも小麦冤罪のパターンも普通にあり得ます。
健康に良い成分の場合も全く同じ構図ですが、食品全体の話を特定の食材や成分に単純化させる(例えば、このスープでがんが治る!とか)と誤解を生むことも多いので、詳しくない人はそういうのはやめときましょう。たまに有効な場合もあるので、一概にダメとは言いませんが。
3 小麦は悪いがグルテンではない説
このパターン意外と見落としがちですが、私は案外あると踏んでます。
小麦には発酵性の糖質(いわゆるFODMAP)が含まれていまして、これは小腸で吸収されず腸内細菌により代謝されるものです。
例えば過敏性腸症候群の方はFODMAPの摂取で腸内で異常発酵(小腸ならSIBOという言葉も)を起こし、増悪させるということもわかりつつあり、ガイドラインにもその名が登場しました。
低FODMAP食の介入によりIBS症状を軽減するという論文も欧米中心に出ており、今後日本でも検討が進むことでしょう。
ただし、低FODMAP食は管理が難しい(主食を減らすことが多いので)ため、個人で勝手に判断せず、医師や管理栄養士指導のもとやろうね。
ということで、小麦を断って体調が良くなるという話をたまに聞きますが、ただの気のせいと切り捨てる前にこのパターンは知っておいて損はありません。
4 本当にグルテンがダメ説
ここまで見てきてやっと本丸。
小麦アレルギーの方はやはり体に良くないです。
ここまで来れば、悪者はグルテンの可能性は高いでしょう(それでもグルテン以外のたんぱく質という可能性はありますが)。
グルテンがグルテニンとグリアジンからなることから、このあたりがアレルゲンになるのかもしれません。
これに対する特異的な検査もあるのはあるらしいです(アレルギーは専門外なのでこの辺で。。)
ちなみに、遅延型アレルギーとかいう学会が完全否定しているよくわからんやつで小麦食べるなと言われたとしても、よくわからんやつで出た結果はよくわからんので、よくわからんです。はい。
気にしないでおきましょう、というか受けるだけ時間とお金の無駄だし、結果が悪いと無駄に落ち込むし、やめときましょう。
グルテンにまつわるいろんな説を斬る
グルテンには麻薬と同じ成分がある?
これはグルテンの消化物のペプチド配列として、オピオイド系の受容体にアフィニティのあるものが存在すらというやつですね。確かに動物実験でドーパミンなど出てるかもしれません(ちゃんと調べてませんが、存在は確かです)
ただ、類似するペプチドは乳たんぱく質(カゾモルフィン)や大豆たんぱく質、緑葉たんぱく質からも派生するので、小麦だけ責めるのはナンセンス。
仮に活性があっても、麻薬のような常習性が出るレベルというわけでもないでしょうし。
また、ドーパミンなんて砂糖でも油でもなんなら出汁でも出るので、こちらも小麦に限らないですね。
グルテンは腸の壁にくっついて消化吸収を妨げる?
うんうん、グルテンってもっちりしてるもんね。
で、これどうやって確かめたんですか?もしかして大腸までもちもちのままいって、それが壁にへばりついて、宿便みたいになってるところ想像してますか?
グルテンを摂取した後の小腸内を見たことないので断言はしませんが、小腸の段階で多くのものは液体状になってますし、消化によりアミノ酸ペプチドになればグルテンの物性は失われるわけですし、ちょっと考えにくいです。
ただ見たことないことに対して断言は難しい。
ちなみに、腸のタイトジャンクションを破壊する腸もれ(リーキーガット症候群)という言葉も最近聞かれるようになってきており、グルテンとの関係が言及されることもあります。
今の私の知見としては、リーキーガットはエセ科学とは言わないけどまだわからないことも多いから、研究が進んで欲しいなと思ってる分野です。
グルテン不耐症で消化できない?
これもちょこちょこ見かけましたが、正直調べきれませんでした。とりあえず論文は出てたりするみたいですし、あるのかもしれません。
グルテンに特異的なのか?(他のたんぱく質は?)
グルテンのもちもちの物性とアミノ酸配列のどちらが原因なのか?でもあの長さでアミノ酸配列のせいでグルテンだけ切れにくいとかありえなさそう。
などなど、気になり出したら止まらないので、メカニズムに詳しい方教えて!!
発酵食品ならアレルギーでも大丈夫?
例えば味噌とか醤油とか、小麦は含まれてるけど発酵過程を経た食品というのはさまざまあります。
この場合はたんぱく質がアミノ酸ペプチドレベルまで分解されており、アレルギー反応を示す可能性は低下するのはするでしょう。
ただ、どこまで分解されているかの保証も難しいので、結果都度判断したら、医師への相談は必須かと思われます。
まあしかし、こういった物質変換こそ発酵の面白さ&奥深さ&難しさですねぇ。
発酵の話はこちら
まとめ
ということで、グルテンフリーについて色々考えてみました。
私の全体的な印象としては、グルテン=悪という誤ったイメージがつきつつあることに(特に業界側の意見として)危惧はしつつも、場合によっては小麦断ちが有効である場合もあるので消費者の皆様におかれましては、あまり流されすぎず過ごしていただきたいなと思う所存です。
色々書いたけど、そもそもグルテンを健康文脈だけで語るのがそもそも視野が狭いと思うわけですよ。
中盤にあったあのもちもちなグルテン見ましたか??あんな物性してて美味しいに決まってるじゃないですか。
おいしさだって食品の立派な機能の一つです。健康だけで語ればそりゃお酒だって体に悪いのは当然だけど、おいしさ、食文化、コミュニケーション、いろんな視点で食の機能は語りたいよね。
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