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食品添加物と私

しばしば悪者にされがちな食品添加物。

食品企業に勤めている人は添加物まみれの自社製品を実は避けているとか、ソースはなんやねんという言説も聞かれる今日この頃ですが、そんな話を聞いてふと思ったのです。

私自身食品企業に勤めているわけですが、そういえば私自身食品添加物とどう付き合ってるんだろう?と。

そう考えた始めた時に自分自身の中に存在するいろんな属性ごとに議論が始まって、頭の中がカオティック状態。

じゃあその属性ごとに文字におこしてみよう!というのが本日の趣旨でして、
・開発者としての自分
・研究者としての自分
・消費者としての自分

にわけて語っていただきたいと思います。

※あくまで個人の見解です
※空き時間で一気に書き上げたので、誤字脱字すまぬ

前提として

食品添加物が安全なのか、危険なのか。例えば発がん性や病気になるリスクがあるのか、という点においては既に結論が出ていて、今回は取り上げません。

気になる方は厚労省のサイトをご覧ください。

開発者の立場で考える

まずは商品開発者、つまり実際に味を検討したりレシピを作るなど食品を開発する立場で考えてみます。

添加物はすごい

食品添加物は非常に万能なもので、商品の中にさまざまな用途で使用・設計することができます。

食品添加物を使うパターンはいくらかあるんですが、一つ目は生産や流通、保存を考えて入れるべしという場合。その場で作ってその場で食べるなら必要ないこともありますが、食品の多くは消費期限や賞味期限があるように、ある程度の期間品質をキープする必要があります。

それを聞いたら「保存料!」と思われるかもしれないけど、(嫌われているせいか)(包装技術の進歩か)保存料が使われる機会は減っている印象で、それよりは味が悪くなるのを抑えるために香料や酸化防止剤などを入れる、という形での品質保持もよくあります。

二つ目の使われ方として、そもそも味の骨格になっている場合。テクスチャーを変えるためにゲル化剤などを入れたり、豆腐を作るのににがりを入れたり、スポドリ作るのに香料入れたり・・・。便利というか、ないと成り立たない。

三つ目の使われ方として、健康のため。サプリメントに栄養素(ビタミンCなど胃いわゆる強化剤)を配合したり、糖を減らしつつ甘味をキープするために甘味料を入れたり。

他にも用途の数だけ色々あるんですが、どれをとっても便利なもので、過去の偉人たちはよくこれだけのものを生み出してきたなぁと素直に感動することが多いです。

市場の商品の裏側の表示を見て「この添加物はなんのために使われているんだろう?」と考えるのもある意味一つの醍醐味。

でも無添加もすごい

一方で、食品添加物を使わないということ自体に消費者が価値を感じることも多い、つまり無添加が良いという人が一定層いるのは理解しています。

「添加物は危険だ!」という言説には真っ向から反対ですが、一方で「無添加なんて意味ない!」という主張にも私は反対。文化的な側面、情緒的な側面からも添加物不使用の食品は存在し続けてほしいし、需要がある以上は(誤解を与えない前提で)開発もされるべきだと思っています。

食品は自然科学でもあると同時に人文学的な価値もあるため、安全危険の議論だけでは済まないのです。

そして、添加物を使用せずに味を作ったり流通など耐えさせたり、添加物を使わないからこその英知もたくさんあるわけで、「このミートボール、添加物を使ってないのにどんな技術使ってるの?!」みたいな開発目線に驚きもあり、世の中にある無添加食品をそれはそれですごい!

研究者の立場で考える

続いて開発の一歩上流として、研究の立場だとこんな感じ。

メカニズムを考える

開発者の時はその用途の中で安全に使うことを考えていましたが、研究目線で言うと、「なんでその用途で使えるんだろう」という方にむしろ目を向けることが多くなりました。

例えば、エナジードリンクなどにカフェインを入れることがありますが、開発目線だと「カフェインは眠気防止効果あり、少し苦い、○○mgまで安全だから入れよう」までですが、研究目線だと「なぜカフェインは眠気防止ができるのか?メカニズムを考えると他にどんな成分を配合すべきか?」など一歩深く考えます。

ちなみに研究の方が深掘りできてすごいのではなく、対消費者の前線に立つ開発者と基礎的な知見を追究する研究者の役割が違うに過ぎないです(むしろ研究者の方が暇だからそこまで考えられる説)

メカニズムまで抽象化することで応用もしやすくなって、例えばただの酸化防止剤として使われていたもののメカニズムや構造まで深掘りした結果、別の効果が発見されて用途が広がった、なんて例も。

疑いの目は忘れない

冒頭に書いた通り、食品添加物は安全です。その気持ちに変わりはないのですが、安全と結論づけて言い切った時点で研究は終わってしまうので、本当にそうなのか常に懐疑的な思考は持っておきたい。

ここは開発人格と研究人格の大きな違いかも知れません。

例えば、よく出てくる例としては高甘味度甘味料ですね。安全なのは確かだけど、腸内細菌を乱すのでは?などいろんな話が出てくるのも事実。

https://twitter.com/food_juggle/status/1572517789763796993?s=61&t=D7LUcmSTbcS4gp-K8gQWaQ

それに対して判を押したように「安全だ!」と言い切るのは簡単ですが、研究の立場としては失格。ちゃんとその報告を読んで、実験の不備など指摘しながら、現段階での結論を持っておくということが肝要だと思っています。

それも含めて「現段階の知見としては」安全なんですけどね。注視は必要。

消費者の立場で考える

最後に上記二つを踏まえて、私が消費者としてどのように行動しているか簡単に。

基本的には気にしない

はっきりいって、気にしていません。子供にあげるものでも気にしない。

食品企業に勤める人は添加物の悪さを知っているから、自分の会社の製品を買わない、なんて絶対嘘。むしろよく知ってるからこそ買う。

しかしごくたまに避けることはあって、それは自分が苦手な香味の食品添加物が一部存在しており、それを避けるために表示を見ることはたまにあります(なんのことか明言は避けますが)。

むしろ無添加のリスク

一消費者として、むしろ無添加を標榜しているものこそ本当に大丈夫かなと疑うことが多いです。

開発パートで書いた通り無添加にするために英知を結集している商品は尊敬しているのですが、一方でそのような技術や知識もなくただ添加物を使わないだけのものは、味がすぐ劣化したり、最悪の場合食中毒の原因となったり、むしろ無添加の方がそういったリスクを伴うと思っています。

ある意味その怖いもの見たさで買うこともあって
無添加→いつもと違う味がする→本来の味はこれだ!→(と思ったらただの劣化臭でした)
なんてこともあるので、ある意味これも経験です。

まとめ

というわけで、食品添加物に対して、危ないとか大丈夫とか一言で結論を求めたくなる人が多いのはわかるのですが、私個人の頭の中ではこういったいろんな切り口から眺めております。

そして、最終的に「一言では無理」に行きつく。

今回はその「一言では無理」を3000字ぐらいで書いてみましたので、みなさんも食品添加物に思いを馳せることがもしあれば、頭の中がごちゃごちゃしたやつがいたなと思い出していただければ幸いです。


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