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マイクロサージャリーとは?〜乳房再建〜

F.MEDの下村です。今回はマイクロサージャリーとは何をするものか?ということについてお話ししたいと思います。
多くの方は手術についてよく知らないと思います。私も医師ではなく、ここで述べる事柄は医師からの聞き取りや統計資料から導いた筆者の推論であったりします。ですので、詳細について知りたかったり体に不具合を感じたりした場合は必ずお近くの専門医にご相談ください。

さて、F.MEDが開発に取り組んでいる手術支援ロボットは、マイクロサージャリーという手術手技の支援を念頭にしています。マイクロサージャリーとは、直径1mm程度の極細い血管等を縫ってつなぎ合わせる手術の技術のことを指します。形成外科、整形外科、脳神経外科、耳鼻咽喉科といった診療科で活用されています。今回は乳房再建を例に挙げ、具体的にどの様な事をするのかご紹介します。

近年、残念なことに乳がんになる患者さんの数、そして乳がんの手術件数は増加を続けています。国立がん研究センターの統計によると、乳がんは女性のがん罹患(新たにがんと診断されること)部位1位であり、日本国内の罹患者数は年97,000名にも及びます(2019年)。幸い手術、投薬、放射線治療の進歩により、現在乳がんは早期の段階で適切な治療を行うことができれば治る病気とされており、多くの患者さんが社会復帰をされています。

しかし、がんの治療をして命が助かり、社会復帰ができればそれでいいのでしょうか?患者さんが社会復帰された後の生活の質(QOL)や、前向きに生きていくことのサポートまでをも見据えた手術も必要なのではないでしょうか?

例えば乳がんの場合、手術でがんを取り除いて治療できたとしても患者さんが乳房の一部、または全体を失ってしまうことが多くあり、その数は年間5万例程度と推計*されます。(*厚生労働省 第5回NDBデータより、乳房全摘・部分切除術を合計)

乳房を失ってしまった患者さんの喪失感はいかほどのものか、想像に難くはありません。そういった患者さんに向けては、がんで失ってしまった乳房を取り戻すための乳房再建手術が実施されます。これは文字通り、乳房を再び作り直す手術です。

乳房再建の方法

その中でも自分のおなかの脂肪などを移植して、再度乳房を作り直す自家組織による乳房再建は、シリコン製インプラントを埋入する方法より自然な感触が得られ、患者さんの満足度は高い*とされています。
(*参考:1) Health at a Glance : OECD Indicators, 2) Matros, Evan, et al. "Cost-effectiveness analysis of implants versus autologous perforator flaps using the BREAST-Q." Plastic and reconstructive surgery 135.4 (2015): 937-946.)

この自家組織による乳房再建を実施するためには、移植する脂肪組織の血管に体の血管をつなぎ合わせて血液を供給する必要があります。そうです、マイクロサージャリーの出番です。しかし、技術的に困難であるため、マイクロサージャリーを用いた乳房再建術を実施できる医師は日本でもまだ少なく、自家組織による乳房再建の年間実施数は2,000例程度*です(*厚生労働省 第5回NDBオープンデータより)。マイクロサージャリーは限られた地域や病院でしか実施できていないのが実情であり、手術を受けるために新幹線を使って大学病院へ通う、そんな患者さんも多くいらっしゃいます。

もしマイクロサージャリーを実施できる医師が増えれば、そのような不便な思いをしなくても、より多くの患者さんがご自身の自然な乳房を取り戻すことができるようになると期待できます。F.MEDはロボットによる支援で実施できる医師の増加に貢献し、その結果マイクロサージャリーの技術を標準化させ、多くの患者さんが治療の選択肢として選べる環境を作ることを目標としています。

次回は別のマイクロサージャリーの適応例、リンパ管静脈吻合についてお話しします。