わたしがお世話になった人 - 高校の化学の先生
20代の頃に、よく見ていた夢がある。
高校のときにお世話になった化学の先生が、堕落しているわたしを見て
「可能性を捨てちゃったんだねぇ・・・」
とボソッと呟く。
就活がうまくいかなくて、家で寝腐っていたある日
惰性に任せて、飲み歩くだけの毎日を送っていたある日
先生は、たまに現れて消える。
飄々おじさん
先生とは高2の授業で出会った。
わたしは理科系の科目全般が好きではなかったけど、先生の教える化学は面白いと思った。
だから、センター試験で理系科目を一つ選択しなければならないとなったとき、迷わずに化学を選んだ。他の選択肢としては生物と物理があったけれど、化学一択だった。
センター試験まで残り6ヶ月。当時、おそらく50代だった大ベテランの先生からの教え。「化学は1ヶ月あれば8割は取れる」という先生の言葉を信じ、わたしは数学と英語をひたすら勉強した。
結果、本番では国数英の目標点数をクリアできた上に、化学は9割近くまでとれた。報告にいったとき、先生はすごく喜んでくれたと記憶している。
受験勉強を始めてまもない頃、先生がわたしにそう言った。話の流れも、温度感も忘れてしまったけれど、いつも前向きな言葉をかけてくれたことは覚えている。
卒業式。先生らしい、飄々としたエール。
文系に進む私が化学を勉強することは当分ないだろうけれど、この経験はきっと何かの役に立つ。いや、役に立ったらいいなと思った。
ベンゼン環
化学の勉強は、すこぶる楽しかった。
特にわたしが好きだったのが「ベンゼン環」に代表される有機化合物の分野。
意味がわからない?なるほど。正直、わたしもほとんど覚えていないし、今となってはまったくもって意味不明だ。
一応、せっかくなので説明すると(ググった笑)
有機化合物とは「炭素(C)」を含んだ化合物のことで、その中に「ベンゼン環」と呼ばれる環状の物質がある。
このベンゼン環を持つ化合物がいろいろあるのだが「この場合はトルエンができる」とか「こうすると酢酸(お酢)に変化する」とか、それがひたすら面白かった(なんとなく思い出してきたぞ!)
そして、先生はいつも楽しそうに授業をしてくれた。
ニコニコしながら、自信満々にそんなことを言う先生だったから、おもしろかったのかもしれないね。
エラーをしたあいつ
先生はいつも白衣をきていた。
加えて小柄でメガネ。タイプとしては頭のキレる曲者じいさん(じいさんは怒られるか?笑)
まぁ、そんな感じだったので、勝手にスポーツには興味がないと思っていた。
そんな先生が、野球部のキャプテンだったわたしの友人について話したことがあった。
へぇー、と思った。先生が野球部のことを語るのが意外だった。そして、そこまで深く関わっていない(であろう)生徒のことまで気にかけているというのも、意外だった。
先生はいつも物事を冷静に分析し、飄々と語った。強く主張することはないけれど、達観したような言葉を淡々と投げかけてきた。
本当はもっと素敵な、先生らしいワードチョイスなのだけれど、20年近くたった今、そのフレーズを思い出すことはできない。
ただ、その言葉に込められた意図やメッセージは、ブレることなくわたしの中に残り続けている。
そういう言葉を扱う、先生だった。
可能性を捨てちゃったんだねぇ
夢から目を覚ますと、いつも泣きたくなった。
不甲斐ない自分でごめんなさいと
申し訳ない気持ちになった。
夢の中の先生は、過去のわたしを映す鏡だった。
受験勉強を死ぬ気で頑張った、高校生のわたし。
当時のわたしは未来のわたしに、どれほど期待していたことか。
過去に描いた理想と、今ここにいるわたし。
そんな目を背けたくなる現実と向き合うために
先生はときどき、現れてくれたんだと思う。
もう何年も、先生は夢に出てこない。
わたしは、あの頃期待していたわたしに、少しでも近づけているのだろうか。
それとも、ただ過去の記憶が薄れ、当時見えていた可能性さえ消えかけているのだろうか。
真相はわからない。
ただ、いつかまた先生に会ったときに、堂々とこれまでの人生を振り返れるような人生を歩みたいと思う。
わたしの可能性を最大限に活かした、わたしらしい人生を。
【関連】 受験勉強のときに学んだことを書いた記事。割と力作。
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