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はじまりの物語 第1稿

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(非公式) なんのはなしですか サイドストーリー。noteの路地裏に迷い込んだら🐍に出会ってしまいまして、蛇のはなしを綴っています。とりあえず勢いでかいたものは一旦ここに保管。つ…
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2024年7月の記事一覧

はじまりの物語㉞ 始まり

はじまりの物語㉞ 始まり

天上に戻ってきた

濃くて長い旅路から戻ったというのに
いつも天上にいたかのような錯覚をおこす

天帝は上機嫌だ
蛇の出した皆のおもいは朝の陽光のように
八方に白金色の光を放つ
木のそばの水辺に入れると7色に光輝いた

ふむ、やはり水の中が一番よいな

さて、主にはふしぎな力があるようだ
それをわしも感じてみたい
そばで仕事をしてほしい
仕事はなんでも選ぶといいぞ、とそういった

この水辺が見れた

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はじまりの物語㉝ 来迎

はじまりの物語㉝ 来迎

一水を始めとする僧侶の抑揚のある経の合唱
一般のものも一緒に
手を合わせ 声を合わせ 心を合わせる

一昼夜行われるというのに、その声は一向に
衰えることを知らず大きくなってくる
その中には戸籍を失ったいわゆる乞食もいたが
手伝いやなにがしかのものを投じて参加していた

道風が蛇にいう

ほら、文殊菩薩も身をやつして来ているぞ
きっと天帝も天上から見ているな

使徒はいい
人の姿で一緒になって交わ

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はじまりの物語㉜ その日

はじまりの物語㉜ その日

応和3年8月23日
その日はよく晴れ渡っていた
鴨川の水面がキラキラと輝く

あの修羅のような災害からも人々は逞しく立ちもどる
市の聖とよばれ、市井にでれば手を合わせ微笑み
挨拶を交わす
そんな日が続くと特に仏の教えを広めることなど
無用かという気もしてくるから不思議だ

だがしかし、あの修羅の中にあっても
皆と一緒になって炊き出しを行い
汗をかいて力仕事をした日々は
生の充足感に溢れていた

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はじまりの物語㉛ 熱

はじまりの物語㉛ 熱

醍醐天皇の法要以降
ときおり一水は宮中に説法に招かれるようになった

説法といいつつその実、
めっきり年老い気力が弱った宇多法王とそのひ孫
後の村上天皇となる成明(なりあき)様の話相手である

父、醍醐天皇をたった4つで失くした阿古に
宮中で目の前にいる法王の膝に載り
漢詩を諳んじていた子どもの頃を懐かしく思いだす
漢詩に加えて今、主流の和歌も学ぶ
若木が水を吸い上げるように、どんどんコトバを

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はじまりの物語㉚ 目標

はじまりの物語㉚ 目標

夕刻となり、一葉さま お帰りで、と
達吉が炊事場の方から入ってきた

触れれば熱が伝わってきそうな日焼けした肌
頭はあの達谷の岩崖のように白灰色をしている

達吉の方も丸く剃髪した頭に目をやり
ようこそご無事で帰られましたと涙を浮かべた

留守の間はどうであった、と尋ねると
変わらずでございます
耕作地を手放して地方からくるもの多数
瀕して京を出るものも多数
商人は自分が利することばかりで
その利

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はじまりの物語㉙ 六波羅

はじまりの物語㉙ 六波羅

7月、山城方の梅の木にたくさん果が実った

ゆすり落として落ちたその実を井戸の水で洗う
こっそり影に木桶を用意し蛇もしばし水浴びを楽しむ
冷たく澄んだ水が気持ちがいい
どうだ、いい水脈であろうと誇らしげに頭を上げた

そこに山城の声がする
一水さまー、本当にこのような井戸まで設えて下さり
ありがとうございます
これからこの梅の木も増やしていきましょう
果が成れば、毎年京まで送りましょう

十分すぎ

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はじまりの物語㉘ 梅

はじまりの物語㉘ 梅

承平1年4月25日

筆をおいて今宵の宴を思い出す
母かもしれない、と思い続けてきた方々を前にしても
ふしぎと心乱れることはなかった
今生での縁は薄くともここまで至ったきっかけを与えてくれた
ふくよかなる人生だ
今生での縁、浄土では丸くひとつとなる円

円と思い浮かべて
そうだ、君も大切だよ、と酒宴での酒を前に置いた
蛇は、うれしそうな一水をみながら
チロチロッと酒をなめた

それにしてもこの書に

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はじまりの物語 ㉗約束の地

はじまりの物語 ㉗約束の地

この丘から見える先に何があるのか

下りの道は木々の隙間から差し込む光が
苔の水滴をキラキラと照らし出す
逸る気持ちと裏腹に足元を見ながら下って行く

谷の分岐までやってくる
このような場所にも経路が整えられている

こんな地まで朝廷とはすごいものだな
一水はそう思った
この陸奥の国は百年もたたない昔は蝦夷が住んでいた
それを遠征して平らげたのだ
坂上田村麻呂 生まれた御世は先になるが
文の菅原道

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はじまりの物語㉖ 吉祥女

はじまりの物語㉖ 吉祥女

朝の澄んだ空気がヒンヤリと頬と射す

一水は神鹿の杖を突きながら
谷の分岐の手前で東に位置する丘に向かって足を進める

ぽつんとひとつ民家があり
その前で薪をわる一人の男がいた

はるか西の京の都より浄土へ至る阿弥陀を唱え
巡行していたらここに至った
どこにも属さぬ根なしの游行である
阿弥陀仏を唱えさせてはいただけないか、声をかける
男はぱっと顔をあげ、
これからあさげをお供えするところです
どう

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はじまりの物語㉕ 東国

はじまりの物語㉕ 東国

尾張を出て三河 遠江 駿河 の後 甲斐にも足を延ばす
笠と法衣を身に着け、胸からみぞおちにかけて
下げた鉦(かね)を撞木で打ち鳴らす

阿弥陀仏の称名を唱えながらの遊行である
街道の大きな国府は通ったに違いない
菅原の方がいないか気にかけながらも
その地の風土や人の営みを直に感じる

蛇と出会う前に播磨や阿波 讃岐 土佐と
自らの修養のために行脚していた

都から離れれば離れるほど未開であろうと

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はじまりの物語㉔ 門出

はじまりの物語㉔ 門出

旅立ちの朝

そのまま社で一夜を過ごした道風が
ちゃんと持ったかと心配そうに声をかける

これから向かう先は尾張の国分寺である
もちろん、国の鎮護のための神護院の管轄社寺だ
尾張は畿内と東国を結ぶ重要な要所である
そこの国府の任を道風の父が担っているときに
道風は生まれ12になるまでそこで過ごした
偉い仏僧のもとで修業したわけではない一葉だが
そこなら馴染みの任官や僧侶に口添えできる
一葉には駅路

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はじまりの物語㉓ 神酒

はじまりの物語㉓ 神酒

社に戻るともう道風と実頼が待っていた

昼間は汗ばむぐらいの陽気だが日が落ちると
幾分か涼しい
風にあたりながら食そうか

社は小さいものであったがそれでも通りからは
十分に距離をとってぐるっと木々も植えてあった
その辺は、天上の使徒でもあり地上でも神護院に
属する道風のお手のものだ

色々な意味でしっかり守りが固められ
安心してしゃべることのできる場所であった
そうとはいえ、政に携わる実頼はそう

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はじまりの物語 ㉒決意

はじまりの物語 ㉒決意

蛇にとっては
『呑んで』『出す』
ただ、それだけのこと

あとのきれいな玉を眺めて晴れやかな気持ちになる
ことはあったが一葉のいう『浄化』という行いは
蛇にとっては取るに足りないであった

それにしても一葉の『おもい』から出た玉は綺麗だ
蛇はきらきら光るその透明な玉をうっとり眺めた

一葉はというと、もう2回、合唱して呟いた

ああーーー、すっきりした

そのあとは堰を切ったように語りだした

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はじまりの物語㉑ 旅立ちの前に

はじまりの物語㉑ 旅立ちの前に

夏はすぐそこであった
すべてではないが、早くに着工したものはもう井戸が
できあがっている
こどもに背中を緒ぶった母親、
老親の世話をする中年男、
下の兄妹の面倒を見つつ一緒にはしゃぎぐ子供たち
近くに水場ができて皆が喜び礼をいう

力を合わせて掘ってくれたおかげだよ、
一葉はそう言ってはにかんだ
好かれているのだな、と蛇もうれしくなる
一葉との毎日が新鮮で
かの者を思い出して寂しくなることも少なく

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