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はじまりの物語㉘ 梅

承平1年4月25日

達谷西光寺に身を寄せてもうすぐ1年
梅の花のかぐわしい芳香に去りがたし
山城方恒例、道真公の復位の日を祝う梅見会に
今宵招かれていってきた
菅公夫人に付き従って京より下った親族も集まり
そのうちひとりは平泉の医師に嫁いだという
菅公夫人をここまでお連れした
典薬頭も務めた かの紀長谷雄 公より
中国の医薬典『神農草本経』の副書を戴いたが
漢語は難しくて分からないと和訳を頼まれた
和コトバ(ひらがな)の普及はその後どうだ
書物も和コトバで書かれたものが必要だ
仏の教えも『なもあみたふ』と節をつけて
和讃称名するのみと昇化する
意味するところは仏とし、
その像をこちらから出向いて見せて目と耳を傾ける、
その実践のみが証明であるとの境地にいたる
昼間は仏とともに游行しつつ
書物を読み解き和コトバに記しなおすこととする
それが終われば京に帰る

筆をおいて今宵の宴を思い出す
母かもしれない、と思い続けてきた方々を前にしても
ふしぎと心乱れることはなかった
今生での縁は薄くともここまで至ったきっかけを与えてくれた
ふくよかなる人生だ
今生での縁、浄土では丸くひとつとなる円

円と思い浮かべて
そうだ、君も大切だよ、と酒宴での酒を前に置いた
蛇は、うれしそうな一水をみながら
チロチロッと酒をなめた

それにしてもこの書にある『烏梅』(うばい)
青梅を素早く燻製にしてカラカラにした漢方薬だ
父の薬房にも置いてあった
感冒や腹下しに薬効があるが
高価で希少なものなので市井では使えない、というので
この国では作ることができないの、と聞いてみた

どうも中国の梅と違って酸が強く同じ作り方をしても
とても煎じて飲めるものではないのだ、
もう少し柔らかくふくよかであればと思うが
保存もまた問題なのだ、
と残念そうに肩をすくめた姿が思い浮かぶ

宴席でみた医師(くすし)であるというそのご仁
朗らかな笑い顔がどことなく父に似ていたからか
思いだす父も鮮やかであった

東国の冬は長く厳しい
食べ物を貯蔵しておくため塩漬けという手段をよく使う

ひょっとする と ひょっとするかも

夏が来る前には京に戻る
実頼、塩をたくさん用意しておいてほしい

一水は文にそう付け加えた

本当は菅公夫人の墓を京に遷してやれないか
とそう思ってやってきた
そのための金子(きんす)も十分に用意して

だが、それは菅公夫人と道真公
どちらにとっても意に染まぬこと
梅の実を買い取るといえばその代として
受け取ってもらえるだろう

それに華やかさの裏で貴賤と厄災甚だしい
京の都がいいとも限らない

京の民のことも気がかりだ
この地ですべきことをして京に戻ろう

今度は寺に間借りしている房にすっくと立った
11の面を持つ観音像の方に向かい直った

南無阿弥陀仏

どうぞこの世でのお役目が果たせますように
ただそれだけを祈るのであった




下書きだけの特別コーナー♪♪♪

今日も実頼と道風トークより

実頼:一葉いや一水より頼み事されちゃった
   塩かぁ、まかせろ!
   でも最近塩ってやたらめったら高いよな
道風:海も陸も賊が何もかも奪ってしまうのさ
   ただでさせ重い税に耐えかねて
   職人がどんどん減っていくのにさ
実頼:どうしよう
道風:まずは税の取り方の見直しだ
   あとは、問題は海賊だな
   こちらは叔父に頼んでみるよ
実頼:一水待ってるよーーーーーー!
   
   

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