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【FLSG】ニュースレター「Monthly Report7月号」フレンチショックと米大統領選

6月の日経平均は4万円が指呼の間まで回復してきた。しかし、わずか半月前に712円安で金融市場を揺さぶった「フレンチショック」を金融市場はすでに消化してしまったのだろうか。加えてトランプ氏が選ばれたら、世界の金融市場はどうなる。(7月1日 文責太田)

マクロン仏大統領Photographer: Andre Pain/AFP/Getty Images

欧州議会選挙で右派台頭
6月17日の日経平均712円安の発火点となった「フレンチショック」。
「フレンチショック」とは、6月9日、5年に一度の欧州議会総選挙の結果を受けてマクロン仏大統領が仏下院の解散総選挙を発表したことで発生。この日から仏新政権への不安から欧州発の金融不安が生じている。

欧州議会選挙では極右”とされるフランスの政党、国民連合が所属する会派「アイデンティティーと民主主義」が議席を9伸ばし、58議席を獲得。マクロン仏大統領が率いるリベラルの「欧州刷新」は議席を22も減らした。欧州連合(以下、EU)の立法権を担う今回の欧州議会選の結果は、EU加盟国を当惑させるものであっただろう。EU懐疑派で移民排斥や環境問題への対応への疑問などを訴える右派ポピュリズムの政党グループが躍進したからだ。

今回は普段なじみが薄い欧州政治について考えてみた。欧州右派と第1回TV討論会でバイデン氏を抑えたトランプ氏が繋がったら金融市場はしばらく混乱し、しばしば極端に走りがちな金融市場は不安定な動きが増幅し、11月の米大統領選まで続くかもしれない。

仏議会解散宣言で仏トリプル安
フランスは議会解散を受けて6月30日と7月7日の2回に分けて総選挙を行うが、各種世論調査によれば、マクロン大統領が率いる中道の与党・再生(Renaissance)が大敗を喫する一方で、右派政党の国民連合(RN)が第1勢力となる展開が確実となっている。6月30日の第1回選挙ではRNが躍進しているものの、単独過半数は難しいようで、7月7日の2回目の決選投票まで結果は持ち越しのようだ。

フランスでは大統領に首相の任命権がある一方、議会が首相の指名権・不信任権を持つため、実際は議会の第1勢力より首相が選出されることになる。そのため、新政権は大統領と首相の所属政党が異なるコアビタシオン(cohabitation、同居、同棲という意味)となる可能性が高い。このケースでは、大統領が外交を担い、首相が内政を担うことになる。

市場が警戒する右派政党の国民連合(RN)とは、かつての極右政党・国民戦線(FN)の後継政党だが、その主張は徐々に穏健化している。とはいえ、実質的なリーダーであるマリーヌ・ル・ペン氏には、欧州連合(EU)からの離脱を訴えた過去もあるため、こうした背景から議会解散で投資家の間で新内閣に対する不安が広がり、6月13、14日の相場でフランスの株式・国債が大きく売られることになった。

この流れは欧州全体に波及し、各国で株安が進んだ。通貨ユーロも売られたため、フランスの金融市場は事実上の「トリプル安」となった。さらに週明け17日にこの流れが日本へと波及、日経平均株価は2%以上の下落となり、立ち合い中、節目となる3万8000円台を一時割り込んだ(17日の引けは38102円)。「フレンチショック」が世界の金融市場を揺らしたのだ。

仏の混迷はEUの混迷へ
投資家の懸念は、フランスの混迷がEUの混迷につながるリスクにあるのだと考えられる。つまり投資家は、マクロン大統領を中心とするこれまでのEUの運営体制が大きく変化するリスクを意識したのだろう。

2017年に就任したマクロン大統領は、ドイツのメルケル前首相との間で良好な関係を築き、EUの実質的なリーダーとして辣腕を振るってきた。2019年12月に発足したフォンデアライエン委員長を中心とする欧州委員会の現執行部の在り方にも、マクロン大統領の意向が強く反映されたことは良く知られている。

実際に、欧州委員会の現執行部が描いたグリーン化とデジタル化を両輪とするEUの経済成長戦略は、マクロン大統領の庇護の下で推進されてきた。これまでもマクロン大統領のフランス国内での人気は低かったが、総選挙を経てコアビタシオン政権が成立すれば、マクロン大統領のEUにおける求心力や影響力もさらに低下を余儀なくされる。

もともとグリーン化に関しては、欧州議会選の前から揺り戻しの機運が高まっていた。しかしここにマクロン大統領の求心力の低下が加わることで、その揺り戻しの幅がさらに大きくなる可能性が高まった。

例えば、グリーン化以外の領域だと、移民政策や対ウクライナ政策での揺り戻しが大きくなると考えられる。移民管理が厳格化されれば、治安は安定するかもしれないが、人手不足に拍車がかかり、高インフレの長期化につながる恐れがある。対ウクライナ政策に関しては、支援の動きが後退し、脱ロシア化の流れにも変化が生じるかもしれない。

マクロン大統領はなぜ下院を解散し総選挙に向かったのか、おそらく、極右政党に源流を持つRNに、あるいは極左の「不服従のフランス」を含む左派連合に、フランスの未来を本当に託していいのか、有権者に問いかけることによって、マクロン大統領および与党「再生」が被るダメージを、可能な限り軽くしたかった思惑もあったのだと考えられる。

RNのEU離脱の可能性でユーロの信認揺らぐ
金融市場、中でも債券市場が警戒しているのは、下院選を経てRN(国民連合)主導でフランスの財政赤字がさらに膨張する可能性だろう。独仏10年債利回り格差は一時80ベーシスポイント(bp)前後まで急拡大した(27日現在82bp)。フランスの2023年の公共部門財政赤字は対国内総生産(GDP)比で5.5%になり、政府目標だった4.9%を超過した。

仏財務省は4月10日、24年の財政赤字は対GDP比で5.1%に達するとの見通しを提示した。従来見通しの4.4%から、大幅な上方修正である。年内にさらに100億ユーロの歳出を減らす計画で、27年には3%ラインを下回る2.9%になる見込みとした。だが、市場はその実現性に懐疑的である。

下院選の後に誕生する内閣が拡張色の濃い予算案を編成する場合、22年に英国のトラス前政権が減税を実行しようとした際に発生した「トラス・ショック」(財政規律弛緩を嫌気した債券相場急落)のような危機が発生するのではと、身構える向きもある。トラス政権はポンド急落、英国債暴落で1か月も持たずに政権は終了した経緯があるため、今回のフランスの場合も下院選後の内閣の大盤振る舞いを警戒しているのだ。

もう一つ重要なのは、フランスはドイツとともに「欧州統合の礎であり要」と呼ぶべき国だという点である。このため、仮に下院選を経てフランスの政治情勢が大きく変わり、極右が首相を出してフランス発でEUに遠心力が加わるとすれば、英国のEU離脱(ブレグジット)のような事態まで、少なくともすぐに発展しないとしても、欧州統合の大きな流れが根元の部分で変調していることを、示すことになる。

為替市場がフランスの財政赤字問題以上に危惧しているのはおそらく、欧州統合や欧州統一通貨ユーロへの信認を揺さぶりかねない点だろう。仏下院選に伴う政情不安を材料に、為替市場ではユーロ売りが強まる場面があり、対ドルで足元では1.06ドル台(6月2日に1.08ドルを付けていた)。

EUとは超国家機関
EUをヨーロッパの国が集まった国際機関のように考えると間違ってしまう。EUは、立法権、行政権、司法権を持つ国家を超越した組織だ。EUは、単に国家の寄せ集めというだけでなく、立法府、行政府、司法府の三権を有する国家機関に類似した超国家機関である。

EUで制定された法律や決定事項は、各国議会での法律化を経ることなく、EU域内に住む人々に直接適用されることもあるEU諸国の市民は遠くブリュッセルなどで決められた法律に従わなければならない状況にある。そして、EUの決めた法律によって、移民増加や燃料高騰といった事態に直面しているEU諸国の市民が増えているのだ。政党により温度差はあるが、移民・難民を極力入れないという政策が右派ポピュリズムの一丁目一番地だ

過去と今の右派ポピュリズム
この右派ポピュリズムを考えてみる。かつてレーガン米大統領、サッチャー英首相のように、これまでも右派に属する政治家が国際政治に大きな影響力を行使してきた。
ただ、これら右派と現在の伸長している右派ポピュリズムが大きく異なる点は、EUを含む国際機関への不信だ。右派ポピュリズムといっても、日本的な感覚でとらえないことだ。日本では、右翼というと街宣車で何か叫んでいる変な人たちといった形で、半ば色眼鏡で見てしまいがちだ。

そもそもポピュリズムとは、既存の政党・政治家や富裕層など既得権益者を攻撃して人気を得る政治手法を指す。右派に限るものではなく、ラテンアメリカではバラマキ型の大きな政府志向で国民の支持を得ようとする左派ポピュリズムが政権を握っていることも多い。

右派ポピュリズムは、EUなどの国際機関の活動に否定的であり、自国第一を極端な形で主張する。すべての国家が自国第一の主張を極端に主張すると国際社会は不安定化する。
しかし、移民問題や環境問題で揺れる欧州をはじめ世界では、移民排斥を訴える右派ポピュリズムは議会で一定の議席を有し、与党第一党になることもある。

実際にイタリアのメローニ氏は、時にファシストとも同列に扱われたが、同氏の政党「同胞」は政権与党になり首相を務めている。オランダで第一党になった自由党党首のウィルダース氏は、コーランを禁止することにも言及している。議会で中枢を占めて政策を決定することもあることに留意すべきだ。

仏右派とトランプ氏の共通政策が生み出す不安定な国際社会
今年11月の大統領選で米国のトランプ氏が大統領に当選し、欧州の右派ポピュリズムの動きに乗っかってきたらどうなるだろうか。実際に、ハンガリーのオルバン首相は今年3月の訪米の際に、現職のバイデン大統領には会わずにトランプ氏と会談をした。

現職首相として外交上極めて異例のことだ。ハンガリーのオルバン首相はその典型で、EU加盟国でありながらウクライナ侵攻後のロシアとも関係も良好に保っている。仏RNのルペン氏もプーチン大統領に対して親近感を持っていることを隠さない発言が目立つ。トランプ氏の移民抑制、財政拡大、減税などの政策はよく知れ渡っている。右派ポピュリズムとの共通項が多い。

私が注目するのは、世界的な右派ポピュリズムの連携・連帯である。右派ポピュリズム政党に属する政治家は、ロシアのプーチン大統領に親近感を覚える人も多い。ロシア第一主義で強権的に国内外の反対勢力を抑え込む政治姿勢が共感を生むのだ。

想像するだけでも恐ろしく不安定な国際社会が待っている。米国では6月27日第1回のテレビ討論会が開かれた。バイデン氏の高齢は隠しようもなかったが、質問とは無関係な我田引水を続けるトランプ氏との対決は米政治の衰退を象徴するような場面だった。

トランプ氏が大統領選で勝利し欧州の右派ポピュリズムと連携したらと思うと否応なしに歴史的な変化と捉えなえればならない。具体的には分断の政治が始まるということだろう。世界における右派ポピュリズムの伸長やトランプ氏が勝利するようなことになれば、企業にとってもリスクマネジメント上の重要なテーマになっていることは間違いない。

■レポート著者 プロフィール
氏名:太田光則
早稲田大学卒業後、ジュネーブ大学経済社会学部にてマクロ経済を専攻。
帰国後、和光証券(現みずほ証券)国際部入社。
スイス(ジュネーブ、チューリッヒ)、ロンドン、バーレーンにて一貫して海外の 機関投資家を担当。
現在、通信制大学にて「個人の資産運用」についての非常勤講師を務める。証券経済学会会員。

一般社団法人FLSG
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