未来を観る

13:30。

食いしん坊のはずなのに、全くお腹が空かなかった。

本当に心が満たされると、空腹など感じないのかもしれない。

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先日、日比谷シャンテの映画館で、ロイヤルバレエ団の「ドン・キホーテ」を観てきた。
(映画館で、バレエやオペラが楽しめる。詳しくはこちら→ http://tohotowa.co.jp/roh/ )

バレエの「ドン・キホーテ」は、少女キトリとその恋人、バジルの物語。
2人は愛し合っているが、キトリの父親は娘を金持ちのガマーシュと結婚させたがっている。
タイトルになっているドン・キホーテは、キトリを夢で見たお姫様と勘違いし、キトリとバジルが結ばれるために手を貸す。

特に好きなのは第一幕。
明るくて陽気なスペインの街が舞台だ。

楽しそうに腕を上げて踊る人々。
おしゃまなキトリの友人。
エネルギー溢れる青年たち。

まるで太陽の化身であるかのような賑やかな街に、キトリが現れる。沸き上がる歓声に、私も思わず心が跳ねた。

映像でバレエを観るいい所は、ダンサーの細かいところまで見れることだろう。
バレエはただ踊っているだけではない。言葉を使わない芸術だからこそ、手の動きや表情で演技をする。

これはもちろん、主役だけに限らない。主役のキトリやバジルが真ん中で踊っている時、街の人たちは後ろや横にはけていた。主役に目が行くところだが、私はなぜか、はけている街の人々に釘付けになってしまった。

主役2人を見つめて、時々踊りに合いの手を入れる街の人々。彼らに注目すると、本当に物語の舞台であるスペインにいる気持ちにさせられる。キトリたちを見ながらお喋りしている娘たち、逆に全然見ずに世間話に熱中しているマダム、子どもたちの肩を抱き、愛おしげにぎゅっと抱きしめているお母さん。みな完璧な、「村の人々」だ。彼らこそが、物語の雰囲気を作り出しているのだ。

お母さんに抱きしめられている子どもたちを見ながら、私は懐かしい気持ちになった。

ロイヤルバレエ団は、私にとって思い入れのあるバレエカンパニーだ。子どもの頃の私の夢は、バレリーナ。その中でもロイヤルバレエ団に憧れていた。理由は、「ロイヤルバレエスクール・ダイアリー」という本を読んでいたから。

「ロイヤルバレエスクール・ダイアリー」は、主人公のエリーがロイヤルバレエ団の付属学校であるロイヤルバレエスクールで過ごす生活を書いた物語だ。

ある秋の日。エリーたちのレッスンに、ロイヤルバレエ団のキャスティング・ディレクターが視察に来る。ロイヤルバレエ団のクリスマス公演「くるみ割り人形」に出演する子役を決めるためだ。
バレエを極める者たちが集まる環境の中、エリーはみごと役を手にし、ロイヤルオペラハウスの舞台に立つ。

子どもたちを見ながら、ふと、このエリーの物語と子どもたちを重ねていた。
彼らもロイヤルバレエスクールの生徒なのだろうか。まだ少年という見た目であったし、きっとあの時のエリーと同い年くらいだろう。日々練習にはげみ、高い倍率を勝ち抜いて立つ夢の舞台。ほんの数メートル先で、憧れのプリンシパルが踊っている。想像しただけで、言葉に表せない感動が身をかけぬけた。

あの小説は、10年以上経った今でも私の本棚にある。来る日も来る日もバイブルのように読みふけり、いつか私もこの世界に行くのだと期待に胸をときめかせた女の子は、いつしか踊ることをやめてしまった。後悔先に立たずとはまさにこのこと。失ってから、本当にバレエが大好きだったことに気づいた。つらい時に投げ出すのは簡単だ。今までバランスを保ってなんとか築き上げてきたものでも、一瞬で壊すことができる。

あの子どもたちは、努力の結晶を放り出したりせず、毎日丁寧に、忍耐強く磨き続けているのだろう。どうか、彼らの未来が明るいものでありますように。いつか彼らが主役として同じ舞台に立つのを観る日が、今から待ちきれない。