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四分小説 『ヒマワリ、訳あり、ここにおり』 #シロクマ文芸部
「『ヒマワリへ』か……」
常連客しか来ないモーニングの時間に私は新聞紙を広げる。
今や新聞を定期購読しているのはうちみたいな喫茶店か、安否確認を求める独居老人くらいだそうだ。
近所の理髪店でさえ、新聞どころか雑誌がタブレットに代わっている始末。
まあ、うちも店をやっているから購読している、というより常連客との話題探しを兼ねているのだが。
「なんや、マスター観光にでも行くんか?」
カウンター席に座って、コーヒーを啜るタカさんは、定年後も再雇用で大手の会社で勤め上げたため、年金もそこそこもらっているらしい。
“らしい”というのは、同じ老人同士でも懐事情は、やすやすとは聞き出せないからだ。
客商売ならなおのこと。
でも詮索好きな人はどこにでもいて、そういうお客さんから情報を得ることもあれば、毎日飽きもせず代わり映えのないメニューを食べに来ている時点で察する部分も多々ある。
実際、タカさんは居座る時間が他の客に比べても圧倒的に長い。コーヒーもおかわり半額のためモーニングから少し早めのランチを食べ、やっと立ち上がったかと思いきや、そのままパチンコ屋に涼みに向かう。
多少擦っても痛くもかゆくもない。
それがタカさんの年金生活だ。
私はといえば、長年、自営業だったため年金をもらいながらでも働かないと生活できないのが現状だ。
中には「主人在宅ストレス症候群」になりかけた妻達が何かしらの仕事を夫に押しつけ、少しでも在宅時間を減らしているとも聞く。
連れ合いを亡くした身としては、何もそこまでして追い出さなくとも……と、思わなくもないが、家庭内のディスタンスまで口出しできるわけもない。
「そうではなく……暇・割増し化するそうで」
「なんやそれ、割り引きたいんか、そうじゃないんか、ようわからんな」
「本当ですよね。でもタカさんも気をつけた方がいいかもしれませんよ」
「なんでや」
「記事によると『所得税を払っておら、週5日、1日辺り6時間以上、暇を持て余している65歳以上で既往歴(生活習慣病を除く)がないの人の税金の暇割増し化を進める方向へ』と書かれています。タカさんは今のところ、大きな病気はないんでしょう?」
「おかげ様で。引退してからはまあ……多少の生活習慣病くらいはあるけどな。ったく、政府は隠居すらさせてくれんのか」
「仕方ないですよ、政治家は年寄りだらけなんですから」
「そうは言うても、上のヤツらは私腹を肥やしてるからなあ」
その何気ない言葉に私の脳裏に思い出したくない記憶が甦る。
タカさんが勤めていた大手自動車製造会社の子会社の整備士が妻の車の不備を見逃したため、妻は単独事故で亡くなった。
私は妻と経営していた喫茶店から逃げるようにして、彼女の遺産で家賃が安い今の場所で新たに店を構えた。
そしてここでたまたま出会ったのがタカさんだ。
毎日何杯も注ぐ、タカさんへのオリジナルブレンド。ブラックコーヒーが飲めないタカさんのために私はミルクをたっぷりと注ぐ。
日本で食用とされるヒマワリの種に、毒は含まれていない。そもそも輸入される時点で、しっかり検査されている。
しかし、まれに家畜によってカビ毒が生成されることがあるそうだ。そして、その中には発ガン性を有するものも……
それだって、どのくらいの確率かなんて誰にもわかりはしない。
少なくとも私の妻が事故で亡くなる確率よりずっと低いはずだ。
それにタカさんが自身が悪いわけではない。
だから、私がコーヒーと共に毎回のように国産の安全で、栄養素が豊富で、高カロリーなヒマワリの種を小皿に盛り付けて差し出すのはタカさんの健康を思ってのことであり、彼を憎らしく感じているからでは決してないのだ。
どこかでヒマワリの種に毒が含まれていると見かけた気がするけれど、調べてみたところヒマワリそのものによるものではなさそうでした。「じゃ何に含まれてるんだい?」という話になると、そういったご職業の方達はきっと最善の注意を払っていると思うのでそこは、こっそりとひっそりとお察しを……
(まあわかる人にはわかるよね💦)
ぶっちゃけこういうストーリーにしたかったわけではなく、暇割制度について書きたかったのにいつの間にやらこんな方向に……果たしてこんな記事があったのか🙊どう🙊やら🙊
個人的に一番怖いと感じたのは「主人在宅ストレス症候群(夫源病)」が日本でしか報告されない病態らしいことでしょうかね……(ま、時代も移り変わるからね!)
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