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詩小説 『ただ歩く、未来へ』 #シロクマ文芸部


 ただ歩く。
 それって意外と難しい。

 ヨチヨチ歩きの私を映したビデオを
 DVDに焼き直し、せっかくだからと
 家族と一緒に見るとはなしに眺める。

 たどたどしく歩く私の傍らで
 側溝に石を落として遊ぶおにい
 叱っているおかんの声が響く。

 「アレ何してんの?」
 と本人に聞いてみるも

 「知らん」
 の一言で顔を背ける。

 その態度は
 絶対覚えているくせに。


 「あんたにビデオ構えようとすると
  兄ちゃんがいたずらして
  注目浴びようとしてたんよ」

 代わりにおかんが解説してくれた。

 おにいの困ったちゃんあるあるを
 実は私はよく聞いて知っている。

 レゴブロックを食べて
 喉に詰まらせかけたとか

 自分で洗濯カゴに入って
 出られなくなっただとか

 私の顔をつついて摘まんで
 いじくって遊んでいただとか

 お漏らししたパンツを
 タンスに隠そうとしてバレたとか……


 下の子あるあるでよく聞くように
 私だけのアルバムやビデオは
 おにいに比べると数も少ない。


 それに対する不満もあったけれど
 大人になった今ではさほど気にならない。

 そのおかげで要領よく
 おかんに叱られることなく
 おとんに甘やかされて
 生きてこられたから。


 画面上でヨチヨチ歩きだった私は
 いつの間にか運動会で走り回り
 学芸会で鉄琴を演奏していたり
 発表会の劇で役になりきったりしていた。


 「で、どの映像使うん?」

 と映像編集が得意な
 おにいが聞いてくる。

 「うーん……」

 正直、どの映像も今見ると
 恥ずかしくって見ていられない。

 
 ていうか、それ以前に

 「おとん、泣きすぎ!」

 卓上のティッシュボックスを
 おとんの前に滑らせる。

 「だって嫁に行く日が来るなんて」
 「そんなこと娘が産まれた時点で
  多少は覚悟しときなさいよ」

 と おかんにまで呆れられている。

 まあ誰よりも私が一番
 びっくりしているんだけど

 結婚どころか恋愛にも結婚式にも
 全く興味がなかった私が
 誰かと人生を共にしようなんて。

 お天気雨でもある
 気ままな狐の嫁入り

 私らしいっちゃらしいのか。

 「おもろいから今の場面も撮っといたで」
 
 とおにいが笑いながらスマホを掲げる。

 ったく、そういうところだよ!


 腹の中で毒づきながら
 私はおにいの即席動画を確認する。

 「この動画、絶っ対に流さんといてよ!」
 「はあ? 何で?」

 だって、おとんにそっくりな顔して
 ちょっと寂しそうな顔してるなんて
 らしくない。

 でもおにいのことだ。


 どうせ私の許可なんて関係なく
 自分好みの音楽とともに編集したものを
 サプライズと称して流すだろうな
 ということに私は薄々気づいている。

 おとんが恥ずかしげに私と腕を組み
 バージンロードを一緒に歩くのも

 おかんが私が履き慣れないヒールで
 ドレスに足を引っかけけやしないか
 ヒヤヒヤしながら見守るのも

 ただ歩く。
 それってやっぱり意外と難しい。


 ギリギリ間に合ったのか、どうかわからないけれど(書き上がる前にちょっぴりフライングさせてごめんなさい🙇)とりあえず公開します!(後から若干手直ししました🙏💦)

 別のお天気雨もよかったらどうぞ~!


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