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ラブコメ風7分小説 『みにくい争い』 #シロクマ文芸部

 十二月某日。水曜日。時刻は22:42。

3分後に幕開けとなるであろう絶対に負けられない戦いに備え、最も大切なテレビのリモコンを右手でぎゅっと握りしめる。

これだけは絶対に奪われてはならない。たとえこの身にどんなことが降りかかろうとも。


 ドラマは終盤に差しかかっている。私は毎週、栄子が心配でならない。どうしてこうも栄子ばかり苦労せねばならぬのか。

そして栄子のファッションチェックも欠かせない。ワンナイのコントの時から見てきたけれど、衰えぬ体型に見惚れてしまう。どんな服でも着こなすのもさることながら、腰の位置の高さに驚く。あ、このパンツ欲しい……


「ふぅー」

すると、こちらが油断しているのを見計らったかのように風呂上がりの敵が現れた。

足を突っ込んでいたこたつ布団にリモコンを握った右手もそっと隠す。


「さてと、」

乾ききっていない髪から滴を垂らしながら、敵が私の左隣の座椅子に腰を下ろす。

本日の戦いの軍配はどちらに上がる?

「あれ? テレビのリモコンは?」
「知らなぁい」
「えーもうすぐあのドラマ始まんのに」

ぼやく理氷人りひとに私はほくそ笑む。今日こそは絶対に私が勝つ!

「なあんてな。ここに隠してんのバレバレ」
「ああっ!」

にやっと笑うと、こたつ布団をぺろんとめくる。すぐさま露になったリモコンを理氷人りひとがもぎ取り、さっとチャンネルを替えた。

「早くさっきのチャンネルに戻して!今週の栄子の涙がまだ乾いてないんだから!」

理氷人りひとは立ち上がってリモコンを握った手を高く掲げ、私がぴょんぴょん跳ねながら取り返そうとするのをするりと交わしていく。

「俺はミワさんの方が気になんだよ」
「そっちは短いし録画してるから後から見ればいいでしょ!」
「リアタイで見ないとミワさんに失礼だろ! しかも明日で最終回だし」
「私だってリアタイで栄子が見たいよ!」

そう叫びながらリモコンを奪い返す。

「……あっ!」
「へっへーんだ! 油断してる理氷人りひとが悪い!」

急いでボタンを押すと、まだCMが流れているところだった。ギリセーフ!

もう二度と取られるものかと、私はリモコンをパジャマの中に隠す。これでやっとドラマに集中できる。

少しぬるくなった缶ビール片手にさきいかをちみちみかじりながら、栄子の行く末を見守る。

ようやく栄子の笑顔が見られそうだとほっとしかけたちょうどその時、画面がパッと変化した。

「え、何事?!」

テレビの中では慌ただしく動き回るミワさん含む家政婦さんたち。こっちはこっちで大変そう……ってそうじゃなくて!


慌てて周囲を見渡せば、私の背後でスマホをリモコンのようにかざした理氷人りひとが勝ち誇ったように笑っていた。


「ふっふっふっ! こんなこともあろうかと、リモコンアプリ入れといた」

その瞬間、私の怒りが爆発。

「もういい! 理氷人りひとなんか知らない!好きなだけミワさん見てれば!私もう寝る!」

あっかんべーをしてから音を立ててリビングのドアを閉めた。





「……紗火さやか?」

寝室のドアをそっと開けて中を覗く。

俺も意地になって悪かったな、と少し思う。でも、俺のイチオシの夜ドラを紗火さやかと一緒に楽しみたかっただけなのに。

でも、紗火さやかがいなくなったリビングでひとりで見るのはなんだか寂しくて。あんなにころころチャンネルを替えられていたテレビは今、静かに眠っている。

一方、ベッドでは乱れたリズムで掛け布団が上下する。そんなんじゃ、狸寝入りしてんのバレバレだっての。


「さっきはごめんてばー」

どすんとベッドの上にダイブし、布団の端をめくって拗ねて丸まる紗火さやかに素直に謝る。

「……ふん!」

けど、紗火さやかは顔を背けて俺の方を見ようともしない。

「そりゃ紗火さやかの最後まで見たい気持ちはわかるけどさー」
「……そうじゃない」

掛け布団を頭までかぶって言うから、うまく聞き取れない。

「え?」
「……あのドラマ見てるときの理氷人りひと、あの女優さんばっか見てるから……」

ぼそぼそと分厚い布団越しに聞こえる小さな声に、なんだかくすぐったい気持ちになる。

「……理氷人りひとが最近あの女優さんが気になってるの私が気づいてないとでも思ってる?」

布団から目だけ出して俺のことを睨む。


なんだ。そういうことか。


「やきもち?」
「……そんなんじゃない!」
「確かに将来有望な女優だと思ってるけど」
「……やっぱそうなんじゃん」
「女として好きなのは、紗火さやかだけというか……」

そう答えたら、紗火さやかはバッと布団を頭までかぶった。

「え、なんで隠れんの?!」
「だって理氷人りひとが変なこと言うから!」
「どこが変なんだよ。ほら早く出てきて一緒にさっきのつづき見ようや」
「録画してないもん、無理だよ!」
「バーカ。ちゃんと録画してるっての」

自分の好きなもんを好きになってもらいたいのと同じくらい、好きな人の好きなもんを知りたいと思うのは当然のことだろ?





数日後。

「だーかーら! 今日は、アミトーークの学生時代ぼっち芸人を見るの!」
「何言ってんだよ! 無人島で未確認生物が見つかったかもしれないって、そっちのが気になるだろ!」
理氷人りひとには学生時代のぼっちの気持ちがわかんないんだよ!」
「わかるわからないの問題じゃねぇよ!未確認生物、UMAだぜ?  見てみたいじゃん!」
「ユーマより私はロビートの赤山が見たいの!」
「……え?」
「な、なによ」
紗火さやか、赤山好きなの?」
「好きだよ! 芸の広さも肩幅の広さも含めて全部好きだよ! 彼は怒り肩界の神だよ!」
「絶対見せねぇ! 今日からロビートの出てるバラエティー番組見るの禁止!全面禁止!」
「はあああ? 似たような体型して何言ってんの?」
「これでも痩せた方や!てか、赤山の体型が好きなら俺の体型も許せよ!」
「それとこれとは別なの!リモコン返せ!」
「嫌じゃボケ!」
「ムッキー!!」

チャンネル争いという日本一見にくい戦いが今日も繰り広げられる。

「はっ!こんなことしてる場合じゃない!未確認生物が!」


私に取られまいとカーテンレールの上にリモコンを置いていた理氷人りひとがふとテレビに目を移す。

釣られて私も画面を見やれば、そこには同じ人類とは思えないほどのイケメンがいた。


「あ、この人、 かっこいー!」
「……」
「え、なんでテレビ消すの?」
「今日からテレビ禁止!!」
「え、ちょ、なんで?! え、待って待って!落ち着いて! そのハサミどうすんの?!ああっ!テレビのコンセント……!」


(20171029)


 前半戦は今期の推しドラ二作(栄子とミワさんの心配に忙しい)と、ぴょんぴょんして黒板を消してみたかった私の願望(気づいた頃には跳ねなくても届いてた🙈)をこっそりと潜ませながら……後半は実在する番組、人物とは関係ないです。(たぶん!)

 昔からなんですが、大事なもの(親戚からのおこづかいとか、家族に見られたくない郵便物とか……)をズボンのお腹の部分(バカボンのパパ風)に挟んで、腹痛(ちびまる子ちゃんの山根くん風)のふりして逃げるという我ながら姑息でみみっちいクセがあります。(何でなんやろな🤔? 前世で腹巻き愛用してたとか? 今世でも腹巻き毛糸のパンツ愛用してるけど……)

 今は見逃し配信もあるけれど、それすらも見忘れる残念な私です……一週間早すぎん?(ほんまは朝の10:42に更新したかったけれどバッチリ寝坊しました>🤤

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