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【読書】「死ね、クソババア!」と言った息子が55歳になって帰ってきました

Yuki Hosaka

 表紙の絵と同じくインパクトの強いタイトルに魅かれて読んでみた。著者は女性だと思って読み進めていた。なぜなら文章が柔らかく年配女性の会話や行動からは、女性の機微みたいなものを感じたからだ。

読後に改めて、男性の著者だとわかった。腑に落ちた。息子(達彦)が母親(晴恵)を思う気持ちや優しさであふれていた。エピローグでは涙で読めなくなるほど。

55歳の息子がある日突然「俺、離婚することにしたから。今日からここに住むわ」と、母親一人の実家に帰ってくる。その頃、母親は友人と行った人間ドックで肺癌と診断される。母親は以前に両親を介護した自分へのご褒美に旅行を予約していた。その旅行に息子と二人で出掛けることになった。

時は戻せない。明日になれば今日にすら戻ることはない。
今はこの瞬間、瞬間を大事にしたい。

この旅行をきっかけに、母親は息子に離婚したい理由を聞くことと自分の病気のことを早く伝えるべきではと思い読んでいた。だが、母親の気持ちはすぐに挫け問題を棚上げしてしまう性格。そして息子も母親に甘えていて、融通の利かない、わがままで自立性がない息子だなあと思い読み進めていた。

今の50代は親の年金で生活する引きこもりが多い世代と言われることと重なる。日本社会のリスク要因とまで言われている。

それらのやきもきした気持ちが後半からの話ですっきりした気持ちになった。

息子が「お母さんの介護をする」と言い出した時から、母親の気持ちは最初から決まっていたようだ。いさぎ良い。

ありがたい話だけどさ。実はお前が帰ってくるよりも前に、私は老人ホームへ入ると決めていたのよ。誰の世話にもなりたくないからね。
これでやっと本当の意味で親離れ子離れができたと思う。

最後まで母親は息子の幸せを願うものだと思った。

母親は旅行で訪れた桜島をバックにフェリーの上で息子と並んで自撮りをした写真の下に書き込んだメッセージ
それは見つけてもらえるかどうかもわからないまま
遺した息子への最後の言葉
《達彦。母さんは生まれ変わってもやっばりお前の母さんになりたい》

著書より引用

この言葉が私の胸に響いた。この一文で読んで良かったと思わせる著者はすごいなと思った。





著者:保坂祐希 (ほさか・ゆうき)
2018年、『リコール』(ポプラ社)でデビュー。社会への鋭い視点とやわらかなタッチを兼ね備えた、社会派エンターテインメント注目の書き手。

第一刷発行:2023年4月24日
発行所:株式会社講談社


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