ストライダの反撃 −終話−白い花束
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竜の仔の物語 −第2章|3節|−ストライダの反撃
−終話−白い花束
一足先にリパウザが水路警備の持ち場へと戻ると、調度、部下たちが三体のスメアニフを囲んでいる。
兵立たちは距離を取り、複数人で同時に囲み、長槍で敵の躰を突き刺していく。アギレラによる事前の指示通り、彼らは吸血鬼が血を吐き出し地に伏しても、油断することなく慎重に頸を切り落とす。
「討伐した吸血鬼が今のところ十六匹ほどです。」部下がリパウザに報告に来る。こちらの被害はほとんどないと言う。
「中の様子は?」
「わかりません。水路の一部が崩落しているようですが・・、」潜入しますか?部下にそう問われるが彼は首を横に振る。
「アギレラ殿は、いかなる場合も中には入らないようにと言っていた。」
そうして彼らは轟音が反響する地下水路の奥を見つめる。ほどなくすると奇妙な人影が輪郭を現す。兵たちが槍を構えにじり寄るが、リパウザがそれを制する。すぐにその影がストライダのものだとわかったからだ。
ソレルがアルベルドと見知らぬ少年を両肩に担ぎ、急ぎ足でやって来る。皆、血だらけで誰の血で汚れているのかまるでわからない。
「ソレル殿!」リパウザが駆け寄る。
「アグー!」ソレルが血走った瞳で叫ぶ。
「リパウザです!アギレラ殿は今ここにはいません!」そう言いながら怪我人を受け取ろうとするがソレルは構わずに歩き続ける。「ソレル殿!負傷者をこちらに!」少年に手を伸ばす彼をソレルが振りほどく。
「ああ、なんということだ。」リパウザが自分の手に付着した血を見つめ、うめき声をあげる。アルベルドの胸から背中にかけての、貫かれた傷を見つめる。
「アグー!!すぐにアルの手当てを!」ソレルはそう叫びながら進み続ける。蒼獅子隊の兵たちも駆け寄り怪我人を受け取ろうとするが、ソレルにはまるでそれが見えていない様子である。
「混乱している。」リパウザは強引にでもアルベルドを引き剥がそうとするが、手負いのストライダは凄い力で彼を反対に引きずっていく。その度にソレルの脇腹からどろりどろりと血が溢れ出すのを見ると、彼は慌て身を引く。
どうにもできずソレルを囲む形で蒼獅子隊が水路の入り口へと出る。彼が進む道筋にブーツが赤い印を捺し、時折ばしゃりと大量の血の塊を落としていく。
「早く癒やし手を連れてこい!」リパウザが叫ぶ。「ソレル殿!すぐそこの西区に我々の詰所があります!」
「わたしに構うな!」ソレルは叫びながらどんどん進み続ける。リパウザたちは仕方なく彼の歩みを妨害せず、兵たちで壁をつくりそれとなく道筋を示していく。
するとアギレラが人壁を割ってやってくる。ソレルの前に立ちはだかると、その勢いを身体で受けとめて、そのまま抱き寄せる。
「落ち着け!ソレル。終わったんだ。」そうしてゆっくりと背中を叩き、荒馬をなだめるように彼の興奮を分散させていく。すると次第にソレルの瞳に色が灯る。全身に篭っていた力がふっと抜け、彼は大人しくアルベルドをアギレラに委ねる。すかさずリパウザが隣に立ち。片方に担いだ少年を受け取る。
「アグー、・・アギレラ、か?」ソレルが今まさに覚醒したかのように呟く。アギレラから離れるがすぐによろめき再び彼に支えられる。
「大丈夫だ。何も言うなソレル。今は・・、」アギレラは運ばれていくアルベルドの姿を見つめ、深く目を瞑る。「・・ゆっくり休もう。」
そうしてソレルに肩を貸し歩き始める。
「早く二人を詰所に運べ!」
リパウザの号令で兵たちに運ばれていくアルベルドとラウの姿を、二人は黙って見つめ続ける。
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フリセラ
・・フリセラ
・・・
・・・・・「フリセラ」
「おい、もう行くぞ、フリセラ。」
ウンナーナ団長は切り株に腰掛け、街道へ続く坂道をぼんやりと眺め続けるフリセラに声を掛ける。
「アルベルド、帰ってこないねぇ。」妖精ファフニンが彼女に近寄り囁やく。
「ん?・・ああ、あいつね。まあ、それが仕事だし、こんなところでぷらぷらしてるよりは、マシってもんでしょ。」フリセラは関心のない素振りで答える。
アルベルドが出掛けて以来、フリセラが日に日に元気がなくなっていくのを、小さな妖精は気に病んでいた。彼女はそんな様子を努めて見せずに、自然な素振りでいるつもりのようだが、それはウンナーナ団の誰しもが周知のことだった。
フリセラがもうしばらくこうしていたいと言うので、団長は仕方なく彼女の側を離れ、ドンムゴと馬に旅の馬装具を施しはじめる。
「あいつは素直じゃねぇからいけねぇな。」そう呟くと、手綱を取り付けていたドンムゴがもの凄い目つきで睨む。
「ごほっ、うんっ、」団長は態とらしい咳払いをする。「・・たしかにおれも悪いことをしたな。」眉を下げてちょび髭を撫でる。
ともあれ、彼もアルベルドがこれほど長く戻って来ないとは予想もしていなかったのだった。どの街にいても、いい加減なストライダやストライダを偽った男の噂は聞こえてくるものだった。それで、彼は、アルベルドのことをそういった類いの、いわば名ばかりのストライダだと思い込んでいたのだった。
ところが、いつだかラームの砦に入り、年老いた戦士と話す機会があり、それとなくアルベルドの所在を訊くと、彼はとても優秀で強い男だということをウンナーナは知ったのだった。
それと同じくして、レムグレイドでひとりのストライダが吸血鬼に殺されるという事件があり、アルベルドは灰色の戦士と共に、その吸血鬼の退治に向かったのだということを、彼は知らされた。
ストライダが魔物や吸血鬼に殺されるということ自体、ウンナーナ団長は聞いたこともない話であったので、彼はとても興奮してしまい、その足で皆の下へ戻ると、つい、口を滑らせてしまったのだった。
それからというもの、フリセラの様子が明らかに変わっていった。ふさぎ込むような時が多くなり、仕事も手につかぬ様子で、何日も切り株に腰掛け、街道のほうをぼんやりと眺めていることも少なくはなかった。
それから朱鷺を過ぎ、黄燕も過ぎ去った。金鷹も赤燕も過ぎ去ってもアルベルドは帰ってこなかった。
ラームでの興行はやはり芳しくなかった。銀雁の中程まで待つと、団長はラームを離れる決断をした。彼らはここから北上したリコラという小さな町で興行を再開するつもりであった。
「冬が来る前に、ラームの峠を越さねばならん。」団長はフリセラに声を掛ける。彼女は何も言わずに小さく頷く。
「やつは野を駆ける者、我々とは相成れないのだ。」彼は優しくフリセラの肩に触れる。彼女はぼんやりと振り向き、寂しげな笑顔を向ける。
「・・まあ、そのうち、ひょっこり顔を出す時も来るだろう。」団長はばつが悪そうにそう付け加える。
フリセラが乗り込むとすぐに馬車は走り出す。団長は御者台に座りドンムゴの隣でシパーリを奏ではじめる。次の冬を告げる物悲しい音色と共に、馬車がラームの坂を上りはじめる。
「ねえ、次の町についたらさぁ、がっぽり稼ごうねぇ。」ファフニンが努めて元気よくフリセラに話し掛ける。
「ぼくのことを見える人間もたくさんいてさぁ、フリセラも新しい友だちができるかもよぉ。」
「そうだね。」フリセラは物憂げにそう答え、黙りこくる。
シパーリの音色と共に馬車が進んで行く。ラーム砦の脇を通り、イギーニアへと続く街道へと向かう。
「ほっ、大したもんじゃわい。」
すると、荷台の奥で眠り込んでいたマイナリシア婆が急にそんなことを言い、にんまりと笑う。
「なに?」訝しげにフリセラが婆を覗き込む。しかし、婆はすでにいびきをかきはじめている。彼女がファフニンと顔を見合わせていると、突然に、馬車が車輪を止める。
「どうかしたの?」フリセラが幌から顔を出す。
団長はただ黙り込み髭を弄っている。ドンムゴが仏頂ずらで指差すので彼女はその方向を見つめる。
街道の坂道の下で、行商の馬車が止まっているのが見える。
フリセラは思わず息を吞む。団長が顎をしゃくり合図を送ると、彼女はすぐに馬車から飛び出す。坂道を少しだけ下り、行商の馬車の荷台から降りてくる人々を不安げに見つめる。
すると、荷台から見覚えのある灰色の戦士が降りてくる。
灰色の戦士が奥にいる誰かと何かを話している。肩をすくめ、腕を振って降りてこいと促しているようだ。
やがて、荷台から黒ずくめの男が顔を伏せて降りてくる。
フリセラの顔がぱっと明るくなる。
団長のシパーリが彼女の背中で楽しげな音色を奏で始める。
男は坂道を見上げると、すぐにフリセラの姿を見つける。照れくさそうに背中に隠した真っ白い花束を掲げ、彼女に笑顔を向ける。
幌馬車の荷台でマイナリシア婆が夢見心地で甲高い笑い声をあげる。
ドンムゴが手綱を握りながら頬杖をついて二人の様子を見つめる。
ファフニンがフリセラの肩から離れ、坂を下る彼女を見守る。
若いって 素晴らしいものじゃないか 春はいつでも そこに来る
ウンナーナ団長はシパーリを奏でながら、即興でそんな歌をうたい、坂道の下で人目を憚らずに抱き合う、若い二人を笑顔で眺める。
−終わり−
ベラゴアルドクロニクル 竜の仔の物語 −第二章
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番外編 第二章のちょっとしたコメント及び画像、余談
こんにちは、ギーの物語の代筆をしているナマケモノです。
この度は、第二章の終話をのぞいてくれたことを、まずはじめにお礼いたします。
それから名前は挙げませんが、感想をくれる方々、いつも励みになっております。それからハートやリツイートをくれるひとたち、その他応援メッセージをくれる方々。他に、あなたとあなた。まだ見ぬあなた。妄想のあなた幻想のあなた概念だけのあなた。
本当にありがとうございます。感謝いたします。ベラゴアルドあなた方の好奇心で存在しております。
二章を終え、ベラゴアルドクロニクルはお休みしようかと考えております。
ということで、最後に第二章のちょっとした解説、想い入れ、キャラクター紹介、ハイファンタジーに対しての自分なりのこだわり、及び、物語を紡ぐためのメモみたいなものを、二章のタイトル画像の元絵と併せて、語っていきたいと思います。
ですが、
以下の文章から有料とさせていただきます。別に調子に乗って有料にしたわけではありません。自分の心情を吐露するのが恥ずかしいだけなのです。そういうことは内臓をさらけ出すようなものなので、この二百円はいわばわたしの臓器の値段ともいえます。
この先へ進む希有な方はそういないと思いますが、せっかく長々とタイプしたものなのでリリースさせてもらいます。
ある意味、読まれることを想定して書いてもいないので、わりとピリ辛ぼやき的なくだりもあります。
因みに、キャプションとしてタイトルに使われたイラストのフルイラストを載せたりもしていますので、見て頂けると幸いです。
↓一部、こんな感じだったのが、
↓こんな感じになるものもあります。一番右端にはゴンゴールがいます。
よろしければのぞいてみてください。
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