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ストライダの反撃 −その9−激闘の果て


竜の仔の物語 −第2章|3節|−ストライダの反撃

−その9−激闘の果て


 無数のスメアニフの死骸が散らかるなか、イハータラが崩れ落ちる。片足を切断され、腹と頸の深い刺し傷からどろりと赤黒い血を流す。醜い翼はずたずたに傷つけられ、大きな頭を冷たい石床に預け、喉の奥まである牙の隙間から、咳き込む度に血を吐き出す。

 その様子を見てアルベルドとラウも同時に膝をつく。彼らの身体中にはイハータラが飛ばした無数の牙が突き刺さっている。

 「まだ油断するのは早いぞ、二人とも。」ルーアンが言う。「かなり年老いた吸血鬼だ、あれくらいで絶命するとは思えん。」

 「厳しいこというなよ。ルーアン。」アルベルドは剣を支えに立ち上がると、脇腹にひときわ深く突き刺さった太い牙を抜く。

 「・・許さんぞ、・・ぎさまら・・」ストレイゴイが口を開く。

 「ほう、その姿でも言葉を話せるか。」ルーアンが感心する。

 しかしイターハラは躯をくの字に丸め、出血を止めることも傷を再生させることもせずにいる。手負いの吸血鬼の危険さを用心し、二人が構えを崩さずににじり寄ると、血を吐き出しながら牙を飛ばしてくる。

 だがそれは先ほどに比べればまるで威力も速度もない。ラウはあしらうようにその攻撃をはじき返す。脅威を感じなくなった敵を前に彼は振り返り、アルベルドに“鶚の爪”を返す。

 「おや、なんだ、よく見ればそれはミスリルの刃ではないか。」アルベルドに手渡した剣を見ると、ルーアンが感心する。「・・なるほど、それで、吸血鬼はあれほど弱っているのか。」

 「おれ、自分の剣とってくる。」そう言うとラウはレンジャーの剣が突き刺さった壁際へと歩き出す。

 アルベルドだけが慎重に敵に近づく。年老いた吸血鬼は血を吐き出し荒い息でじっと睨めつけるが、もはや抵抗の素振りを見せない。彼がゆっくりと頸と胸にとどめを刺すと、悲鳴も上げずに沈黙する。



 オーギジアルの口が乾いた音を立て肥大し、突き出しはじめる。肌が紫色に変色し、鼻が尖り耳が伸び、眼が落ちくぼむ。鋭い牙が喉の奥まで伸びてくる。

 「数百年前にストライダを喰ったことが二度ほどある。」ストレイゴイへと変容したオーギジアルが野太い声を出す。ソレルは何も言わず手首を返し、銀の剣をくるりと回す。

 「・・味は、・まあ豚とそう違いなかったな。」そう言うと牙をガチガチ鳴らす。どうやら笑っているようだ。

 あれほど喋り続けるのは弱点を隠すためだ。ソレルは落ち着いて敵を観察する。やつは血の剣に絶対の自信を持っている。それをアルデラルの盾で弾かれ、焦っているのは間違いない。

 慎重に間合いを詰めていく。オーギジアルは引っ切りなしに挑発を続けるが、ソレルは耳を貸さず、ただ濡れた赤い切っ先だけを見つめる。こちらの狙いが知れていようと構まない。だたその隙を見極めろ。彼は自分に言い聞かせる。

 「お前はおれが尻込みしてると思ってんだろ?違うか?ストライダ。」

 その言葉にソレルは僅かな興味を示す。

 「血の波動を弾かれ、焦っていると。」

 血の剣は胸の傷からどんどん血液を吸い出している。今では丸太のように太く赤い刀身が、はち切れんばかりに脈動している。

 「・・それで、おれが次の一撃で決めようと、こうして力を溜めている。・・お前はそう考えているんだろう?」オーギジアルがガチガチと牙を鳴らす。

 あの様子だと、特大のものがやってきそうだな。血の波動は次を繰り出すまで少し間がある。だとしたら先手をとって動くべきか?ソレルの思考に僅かな迷いが生じる。

 その切っ先がぴくりと動く。

 ほんの少しの反応。誰もが見過ごすだろうその反応をオーギジアルは見逃さない。素早く剣を振り上げるとすかさず血の波動を飛ばす。

 だが想像よりも小さな波動。しかもそれは、彼に向けられていない。

 波動は奥にいるラウの背中をめがけて飛んでいく。

 しかしソレルは自分から逸れた攻撃には目もくれない。剣を上段に構え一気に距離を詰める。優先順位を目の前のストレイゴイの王に絞る。彼は信じているのだ。竜の仔がその降りかかる危機を自ら回避することを。

 陽動にまるで動じずに迫りくるストライダにオーギジアルは一瞬面食らうが、すぐに渾身の力を込めた本命の一撃を振りかざす。

 特大の波動がやってくる。ソレルは上段の構えのまま身体をはすに傾け、アルデラルの盾を大きく展開する。

 血の波動が盾に直撃する。巨大な赤いの刃を身体ごと受け止め、ソレルの身体が仰け反る。到底押し返すことのできない衝撃が左腕に重くのしかかる。

 ソレルは盾をさらに拡大させる。押し潰されそうになるその瞬間、膝を床に付き、背中を反らし、その威力を中和する。光の大盾に砕けた血の欠片が保護しきれぬの手足に突き刺さる。それでも彼が渾身の力を込めると、血の圧力は盾の上を滑るように上方へ流れ、天井で大爆発を起こし、辺りに血を雨を降らせる。

 「まだだっ!」

 特大の波動を受け動きを止めたことにより、オーギジアルに二の刃を繰り出す猶予を与える。

 「もらったぁ!」オーギジアル邪悪な瞳を向け、再度血の剣を振りかぶる。

 そう叫ぶ吸血鬼の眼前に光る矢が飛んできて、剣を持つ手首に突き刺さる。ソレルは波動を反らした姿勢から、まるで無駄のない動きで矢を射る動作へと移行したのだ。

 手首に刺さる矢の反動で、中途半端に飛び出した血の波動が見当違いの方向へ飛んでいく。

 「虫けらが!」オーギジアルは再び血の力を溜め、振りかぶる。しかし血の雨と破壊された瓦礫と石片が降り注ぎ、ストライダの姿を一瞬だけ見失う。

 オーギジアルは相手を探す。ストライダはすぐに見つかる。真正面。蒼く光る瞳をたたえ、じっと弓を構えている。

 身構える間もなく矢はすでに放たれている。オーギジアルの左の視界が赤黒く塞がる。

 吸血鬼は咆哮を上げ、ふたたび見失った敵をもう片方の目で探す。またしてもストライダは目の前にいる。左側、奪われた視界側から忍び寄り、銀の剣を振り上げている。

 息を止め、両腕に力を込めたソレルは、吐き出すと同時に思い切り銀の刃を振り抜く。

 それは何度となく繰り返してきた動作。ためらいもなく、曇りもない。訓練で、実戦で、白鵜の寒空で、緑鳩のうららかな陽光のもとで、赤燕の強い陽射しの下で、何度となく魔の物を切り伏せてきた動作。避けることも受け止めることも出来ない場面で放つ、決まり手の動作だ。

 銀の刃がオーギジアルの左肩から食い込み、胸まで達し、みぞおちを切り裂いて通り抜ける。

 さらに流れる閃光が下段から切り返し、吸血鬼の右手首を狙い、その手首ごと血の剣を切り飛ばす。

 それでもソレルの追撃は終わらない。飛び退いたストレイゴイの頸許を突き刺しにかかるがこれは浅い。逆に敵の膝蹴りが腰骨の一部を砕かれるが、さらに前に出る。肩に脚に腕に顔に、彼は銀の連撃を浴びせ続ける。

 ところが、血だらけのオーギジアルは怯まずに前に出る。躰を回転させ赤い竜巻のように攻撃を受けながらソレルに抱きつく。そして手首のない右腕を絡めると、頭を丸ごと噛み砕かんと口を大きく開ける。

 すかさずソレルはアルデラルの盾を発動させる。今度は針金が輪となり広がり、ストレイゴイの巨大な口蓋を絡め取り、きつく縮まり、その鋭い牙を封じる。

 オーギジアルは顔を振るわせ人間の姿に戻り、素早く盾の拘束から逃れる。それでも腕を放さずに、吸血鬼の力で背骨を締めつける。

 ぎりぎりとソレルの背中が軋む。彼は剣を手放し、腰のダガーを抜く。敵の頸骨めがけて思い切り突き刺す。

 「があっ・・」オーギジアルが血の痰を吐き出す。それでも腕の力は緩めず、さらに締め上げていく。

 「ぬぅ、」鎧がひしゃげソレルが苦悶の表情を浮かべる。肋骨が幾つか同時に砕ける音を聞く。それでも彼はダガーを何度も突き刺し続ける。傷口を広げ、肉を掘り、剥き出しになった背骨に刃を突き立て、てこの力で骨をねじ曲げていく。

 「がはぁ!」オーギジアルが大量の血を吐いて、ようやくソレルから離れる。

 同時にソレルも倒れ込み、素早く顔に掛かった血を拭う。起き上がるとオーギジアルは数歩先で背中をのけ反らせ身もだえている。彼は銀の剣を拾い、よろよろと吸血鬼に近寄る。力を振り絞り、とどめの刃を振り上げる。

 すると、不意に脇腹に衝撃が走り、身体ごと吹き飛ばされる。

 「なっ!?」痛みに顔を歪め不意打ちが来た方向を見ると、まずアルベルドの驚いた顔が見える。その先には年老いた血だらけのストレイゴイが亡霊のように立ち上がっている。

 「ばかな!おれは確かに心臓を貫いたはず!」アルベルドが振り返りイハータラに駆け寄る。

 高速の双剣が今度こそ老吸血鬼の頸を切り飛ばしたと思いきや、イハータラはまるで何かに操られるかのように不自然な姿勢で飛び上がり、オーギジアルの近くに着地すると、崩れ落ち、再び沈黙する。

 立ち上がろうとするも、ソレルは力が入らない。鎧を貫通して脇腹に刺さった牙を引き抜くと、膝をつき血を吐く。

 アルベルドが駆け寄り彼を追い越していく。

 「オーギジアルにとどめを・・、」ソレルは声を絞り出す。

 アルベルドが飛び上がり、同時にストレイゴイも立ち上がる。切り取られた右手はそのままだが、裂けた左肩はすでに網目状に結合をはじめている。

 そしてその手には血の剣が握られている。

 アルベルドは飛んでくる血の波動を空中で横に回転してかわす。着地するとすぐにまた飛び上がり二撃目を縦回転でかわす。

 しかし次の波動が胸を掠め吹き飛ばされる。それでも彼は素早く跳ね起き、真っ直ぐに鶚の爪を突き立てる。

 オーギジアルは剣で左からの攻撃を弾き、手首のない右腕を突き立て、もう片方の刃を自ら食い込ませる。そうしてすりこぎの顎で噛みついてくる。

 アルベルドは咄嗟に左の剣を手放す。懐に手を入れ、石の欠片を取り出すとその牙の隙間にねじ込む。

 「ゴンゴールからだ!」そう叫び、吸血鬼の下顎を思い切り蹴り込む。

 砕けた牙と石の欠片が飛び散る。後ろに仰け反る吸血鬼の耳を掴み引き戻す。今度は思い切り鼻先に頭突きを喰らわす。怯んだところでミスリルの刃を腹に食い込ませる。

 燃えるような痛みにオーギジアルが顔を歪め、咆哮を上げる。

 アルベルドが突き刺した剣を引き抜こうとすると、吸血鬼が腹に力を込める。彼が剣に気を取られた隙に、吸血鬼は切りつける動作と同時に小さな波動を飛ばしてくる。

 至近距離の攻撃がアルベルドの右肩にえぐり込む。すんでの所で身体をひねり致命傷を避けるが、体勢を整え一歩引いた彼は丸腰になってしまう。

 血だらけのストレイゴイがさらに剣を振り上げる。今度は狙いをすまし、特大の波動を浴びせる。

 「まずい!」やられるっ!アルベルドがそう感じたその瞬間、背後で叫び声が聞こえ、金色の影が彼を追い越していく。

 「だあぁぁぁぁぁ!」

 ラウがアルベルドに被さるようにして、波動を正面で受ける。レンジャーの剣がへし折れ、額あてが千切れ飛ぶ。

 それでも彼は勢いを殺さずにストレイゴイに詰め寄る。狂った暴れ牛のように突進する。肩で体当たりをすると同時に、腹に刺さる鶚の爪を手に取り、さらに腹の深くまで突き刺し、組み付いたままに壁際まで押し出す。

 「ぐえっ!」壁に押しつけられるとオーギジアルが声を漏らし血を吐き出す。ラウはそれを浴びながらも手首で剣をねじり、脇腹を引き裂く。

 血だらけのオーギジアルが崩れ落ち、血を吐き出し人間の姿に戻る。

 ラウはよろめきながらその足もとに立つ。

 「・・降りかかる火の粉を払う。」

 項垂れる吸血鬼の王を見下ろしながら言う。

 「・・お前はさっき、そう言った。」

 ゆっくりと、オーギジアルの喉元へ刃を突き立て、ラウは言葉を続ける。

 「・・お前の言うことは間違ってないのかもしれない。人間に味方するのは間違っているのかもしれない。おれは、ライカンやストライダや人間とも違って、お前を怨んでもいなければ、殺したいとも思わない。」

 「へっ・・。」オーギジアルが壁際でずるずるとさらに肩を落とし、手首のない右腕で腹を押さえる。

 「竜、どうせお前は遅かれ早かれ・・裏切られる。人間か・・でなけりゃ、ストライダに狩られるかもな・・」にやりと笑い、大量の血を吐き出し咳き込む。

 「それでも、たぶん仲間はいてくれる。」ラウが静かに答える。

 「・・かもな。」

 「けど、もしそうなったときには、おれもお前と同じことをするかもしれない。抵抗して、沢山の人々を殺すかもしれない。」そう言うとラウはオーギジアルの心臓に刃を押し当てる。

 「おれは今からお前を殺す。お前が人間達を食い殺したように、おれやストライダがお前の仲間達を斬り殺したように・・。」

 ラウは目を瞑り、深くひと呼吸した後で再び目を開け、言葉を続ける。

 「・・でも、それは答えじゃない。もしかしたら、正しいことでもないかもしれない。
 お前の過ちは、お前達吸血鬼が人間を喰うことを“答え”だと思い込んでいたところだ。
 ・・人は、いろんな種族はみんな、それぞれ疑問があって、それを抱えながら、考えながら前へ進んでる。
 でも、その行動が“答え”ではないんだ。答えにしてはいけないんだ。みんな、考え続けることを、続けなければいけないんだ。」

 ラウの言葉をぽかりと口を開けて聞いていたオーギジアルは、へっ、と笑い下を向くと、
 「今から殺す相手に言う科白じゃねえよ、竜のガキが・・。」とだけ言う。

 ラウは黙って頷くと、吸血鬼の王の胸の深くに、ゆっくりと刃を突き刺していく。

 オーギジアルが絶命したことを確認しするとラウは立ち上がる。

 そうして彼は、「さよなら、オーギジアル。」と、静かに呟く。



 ラウがオーギジアルにとどめを刺したことを認めると、ソレルは胸を撫で下ろし地面に崩れ落ちる。アルベルドはひしゃげた鎧を脱ぎ、傷口を押さえながらよろよろとラウに近づいていく。ラウは静かにオーギジアルの死骸を見つめ続ける。

 「おい、ラウ、そんなことより早くイミィールの頭蓋を・・、」ルーアンがそう言いかけるが、鋭い気配を背後に感じると叫びだす。

 「まずい!」しかしその声は突然の激しい金切り声にかき消される。皆が振り返ると、再びイハータラが立ち上がり、叫びはじめる。その顔は青白く、生気をまるで感じない。

 叫びはどんどん大きくなり、音とさえ云えぬほどの衝撃を伴った音波が彼らを締めつける。

 「ぎゃああああああああああぁぁぁぁ!!!!」その音は、人間の声ともストレイゴイの声とも違う。イハータラは自分のその音の波動に堪えきれず、皮膚が引き裂かれていく。目玉を飛びだし、口と耳から血を吹き出すが、それでもなお叫び続ける。

 仕舞いには顎がはずれ頸が折れ自分の胸元にぶらりと垂れ下がるが、叫びだけは響き続ける。明らかに絶命している老吸血鬼の両手に握られた、イミィールの頭蓋だけが妖しい光を発し、脈動している。 

 ぎゃああああああああああぁぁぁぁ!!!!

 音に押しつぶされ、ソレルもアルベルドも立ち上がることさえ出来ない。ラウは耳を塞ぎ足を前に出そうと必死に力を込める。

 ぎゃああああああああああぁぁぁぁ!!!!

 その叫びは下水を振るわせ、音速で広がり、レムグレイド城を、城下の石畳を振るわせる。貴族達は耳を塞ぎうずくまり、下水路の先で逃げ出してきたスメアニフどもと戦う蒼獅子隊の兵達を混乱させる。

 そうして叫び声は西区を抜け、貧民街に響き、いまだ混乱の渦中にある“竜と狼の家”にまで響きわたる。



 「なんだ!?今度は何が起こった!?」ギジムが大斧を振るいながら大絶叫が聞こえる川上のほうを見渡す。

 彼はアギレラと共に、襲いかかる狂った男達の急所を突き、気絶させていく。それをユニマイナがすかさず縛りの咒で縛り付ける。彼らはユニマイナに人間を殺すことを止められ、仕方なくそんな戦い方をしているのだ。

 「しかし、殺すよりも難儀だな。」ギジムが襲いかかる男達をいなしていく合間に、彼女にそう囁く。ユニマイナは申し訳なさそうな顔をするが、会話をするいとまもなく、魔法を振るい続ける。

 アリアトとヴァブラは静かに対峙している。だがそう見えるだけで、彼らの間では空間が歪み、魔法同士の激しい衝突が起きている。

 このまま魔法の力を振るい続ければ、魔法衝突で大地が汚れてしまう。アリアトは焦りを感じながらも、魔法を止めることが出来ずにいる。そんなことをすれば、直ちにここにいる全員が魔法で消し飛んでしまいかねないからだ。ヴァブラの忌み魔法は、すでにそれほどまでに強力な力を発している。

 すると、ヴァブラが突然に魔法の力を止める。すかさずアリアトは咒を唱え、光の刃で敵の頸許を狙う。が、ヴァブラは片手を上げるだけで、事もなげにそれを相殺する。

 「なんと!」アリアトは眉をつり上げる。まさか今までは遊んでいたのか?

 ヴァブラは空を見上げ、それからゆっくりと振り向く。

 その方向からは傷だらけのルグが走ってくる。別の方向からは蒼獅子隊と共も到着する。

 「あの見るからに怪しい男を取り囲め!」アギレラの指示で兵達がヴァブラを取り囲む。

 ヴァブラが兵士達に囲まれていく。しかし闇の魔法使いはそれに構わずにルグだけをじっと見つめ続ける。

 「・・やはり雷獣か。」ヴァブラはルグを見つめ、奥の平地で黒焦げで倒れる吸血鬼を見つめ、羽虫のたかった口元を歪める。

 「・・・ここにも神のひとつがいるか。」そう呟くと、顔中の虫けらがうぞうぞと口元を覆う。そうしてヴァブラは継ぎ接ぎの杖の石突を地面に付け、ゆっくりと辺りを見渡す。


−第二章、その10へ続く−



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