【 魔性のアングラ女 】
いきなりチケットを渡された。
まだ彼女と知り合って数分も経っていないというのに‥
「 兎に角絶対損はさせないから!
来て!来て!きっとよ! 」
純な目をして語気を強めてそう言い切ると、元気よく軽快に跳ねながら
「 じゃ、つぎの講義はじまっちゃうから〜 」
と、教室に消えていった。
次の週 言われたとおり約束の場所に行くと もうステージははじまっていた。
予想とは裏腹に席はほとんど空いておらず、臆しながら 人前を割いて かろうじて空いていた席に座る。
そうして かれこれ一時間は過ぎようとしている。
彼女はずっと踊っている。
踊りに関してはズブの素人なので 果たしてそれが良い踊りなのか 悪い踊りなのか、そもそもその踊りがどこの何を表しているのか、さっぱりなにもわからずじまいで、感情の行き場がなかった。
( 何を観せられてるのか )
( 何をどう見るのが正解なのか )
そんなわたしの感情を知ってか知らずか 彼女はさも嬉しそうに「ヨッ!」とか「ハッ!」とか 自分で合いの手はさみつつ ステージ上所狭しと 腹ふり踊っている。
中盤 わたしに気づいたようでウインクされたが、ますますワケがわからない。
途方に暮れて 何かヒントが得られるのではないかと尻目で隣りをみてみると、林家パー子みたいな貴婦人が、嬉々として娘さんらしき子の写真を撮っている。バズーカみたいな どデカいカメラで。もう一隣りでは、マフィアのボスみたいな ストライプのスーツ着た 彫り深いヒゲのオッサンが、ニヤニヤしながら 露出の多い高そうなドレス着たフェロモンむんむんのケバい若女を舐めるように見ている。きっと愛人か何かだろう。
それらを観察し ようやくにして この場所のニーズがわかった。
と同時に わたしも そういう下心をくすぐられているのだということも
この時になって はじめて気づく。
( そうか、そういうことか、わたしは何か彼女とそういう特別な関係になれる気がして内心期待していたのだ。 )
そう得心しながら あらためて彼女の踊りを見ると ずいぶん阿呆な踊りかたをしている彼女も グッと可愛く思えてきた。
しばらくの間、微笑ましく彼女を見守っていたが ふと、最前列の席から 彼女に熱い視線を送る一人の小太り男性が目に入る。
ハッとなって、さらに客席全体を見回すと 似たような感じの多くの狼どもが 我々と同類のバカ面しながら ニヤついているではないか。
愕然とした。
自分の置かれた状況を完全理解し 私は顔が紅潮するのを感じた。
早くこの場から逃げ去りたい感情とともに
「 俺と一番目が合う気がする 」
「 ひょっとしたら 俺に一番気があるのでは? 」
という万に一つもない可能性に縋りつきたくもなり、まるで足に根が生えたかのように その場に釘付けになるのであった。