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旅と編み物、そしてガイドマップに載っていない場所|瀬戸内〜岡山〜鳥取旅行記2

今回の旅の目的のひとつは、旅先で編み物をすること。以前、蒼井優さんの記事で、"旅先で手芸屋さんに行くのが趣味"という話を見てから憧れていたのだ。

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編み物の良さを語ろうとするときりがないのだけど、やっぱり、棒針と毛糸さえ持っていればどこでもできるところがいい。カフェでお茶を飲みながら、友達と話しながら、移動中に、寝る前に。でも、旅先でっていうのはそんなになかった。

編み物に没頭するためには、いろいろと条件がある。例えば、長時間いたくなる場所、急かされない、などが基本条件。それに加えて、飽きない場所、気候が良い、景色が良い、などが入ってくるともっといいな。意外とこういう条件がそろう場所はないのだけど、瀬戸内海あたりだったらあるんじゃないかなという期待もあって、まずは羽田から高松空港へ飛んだ。

✈️✈️

高松空港からバスで40分ほどの場所に、東山魁夷(かいい)せとうち美術館がある。こじんまりした美術館で平日なのもあって人もまばらだった。作品を見終わるとカフェがあり、せっかくなのでコーヒーを頼んだ。

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もちろんカフェからの景色は素晴らしかった。そう、あまりに良かったのでガラス越しに見ているのはもったいなかった。それでコーヒーを頼んで10分もしないうちに、美術館から外へ出た。この辺りをまわられるならこれをどうぞ、と受付の方が散策マップをくれた。

少し歩くと、小さな岬になっている半島がある。大きな木とすぐそばにベンチがあって親子が砂浜で遊んでいる。

ここだ。

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ここでのんびり編み物をしよう。

そう決めて、マップに書いてあるおすすめスポットをひと通りまわったあと、この木のもとに戻ってきた。

駅まで戻るバスは、15:15に出るようだ。あと15分。それを逃すと3時間バスは来ない。少し迷ったけど、この景色を後にする方がもったいない。飽きたらその辺のカフェに入って時間を潰せばいいや。そう思ってベンチで編み物をしていた。

浜にはちらほらと人が来る。親子やカップル、地元の人、観光客らしき人。ふと、小さな犬が近くに寄ってきた。飼い主のおばちゃんが、ごめんねえ、と言いながら歩いてくる。

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犬を可愛がっているうちにおばちゃんが、どこから来たのと話しかけてくれた。

「あら。私も関東にいたんだけどね。お母さんの面倒を見に9月に帰ってきたのよ。なんでこの場所を見つけたの?」

「美術館にいたんですけど、あまりにいい場所だなと思って。外に出ちゃいました。」

「そうでしょう。いい場所でしょう。」

高校卒業までここで生まれ育ったというおばちゃんは、満足げに海を見る。少しずつ太陽が沈んできて、空の色が少し赤くなってきた。

「せっかくだからほら、案内してあげるよ。見て欲しい場所がたくさんあるからさ。」

と言って、犬と一緒に歩いていく。ここで旦那や娘たちとバーベーキューをやったのよと話しながら、プライベートビーチを教えてくれた。頭がくるくる回ってよく喋る姿が、なんとなく私の大叔母さんと似てるなと思った。

「なんで関東に出ちゃったんだろうねえ、こんないい場所が近くにあったのにさ。」

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おばちゃんの名前は、まりさんといった。駅まで乗せてってあげるよ、と言ってくれたので、お言葉に甘えて車に乗り込む。話していると共通点がたくさんあるのがわかった。出身大学が私と一緒だったこと、まりさんの専攻分野と私の今の仕事が重なっていたこと、息子さんの住んでいる場所が私の住所のすぐ近くだったこと。他にも。

「ねえ、いつまで高松にいるの?案内してあげるよ。まどかちゃんにもっと見せたいところがあってね。」

そう言って、2日後に会う約束をした。

2日後。地元の人だから知っているうどん屋さんや、塩田が有名だという宇多津(うたづ)を案内してくれた。出発の時間が近づいてきているからか、まりさんからは、話したいことがまだまだある雰囲気を感じていた。海のそばのカフェでコーヒーを注文する。

「あのね、まどかちゃん。その人の本心は、呼吸を見ていればわかるよ。息を吐きながら何かを言っている人は、それっぽくても嘘だから。わかる?息を吐くってことは酸素が入っていないこと。頭で考えなくても言えることを言っているわけで。逆に、息をたっぷり吸って話していることは、つたなかったとしても本心だよ。」
「私、演劇が好きで、何年か脚本を書いたりしていたんだけど。演劇って人と向き合っているものだからさ。必ずしも言葉と本心は同じじゃない、ってことを教えてもらったよね。その人のことをよく見ていれば、何を求めているかわかるもの。だから、子育ても一切迷わなかった。呼吸よ、呼吸。」

昨年まで教員だったというまりさんの言葉は、たくさんの人と関わってきたからか実感がこもっていて説得力があった。「生徒からは授業のことより、人間関係とか恋愛相談とかそういう質問ばっかりで困ったものだったよ」と嬉しそうに語る。

「まどかちゃん、次にこっちへ来たときにはうちに泊まってってね〜!四国ってお遍路さんあるから、旅人を泊める文化があるのよ。だから遠慮なくね。はい、うどんあげる!」

と私に無理やりうどんを押し付けて、元気よく見送ってくれた。

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