4月12日(金):アートとケアによる「社会的処方」
先日の日経新聞には「アートとケア 認知症・うつ・孤立に「処方」 世界で広がる医師との連携」と題した記事がありました。
同記事で取り上げていたのは認知症やうつの患者に、医師らが薬と同様にアート体験を「処方」する「社会的処方」と呼ばれる取り組みについてです。
社会的処方について簡単に説明しておくと、こちらは医薬品などによって治療するのではなく、人と人のつながりなど非医療的な処方としてコミュニティでのサポートを行い、「孤独・孤立」や「認知症」のような課題を緩和・解消していくものを指します。
記事内で紹介されていたのは一般社団法人アーツアライブが全国の美術館などで開く「アートリップ」という対話型美術鑑賞プログラムでした。
複数人で1枚の絵画を鑑賞し、アートコンダクターの資格をもつ方がファシリテーションをしながら参加者内での対話を促していくものです。
このような対話を通じた絵画の鑑賞によって認知症の方の昔の記憶が呼び覚まされたり、いつも以上に言葉を発するようになるなど、ケアの側面を持っています。
記事では海外の事例も記載されており、医師が患者に美術館や博物館訪問を「処方」する例も出てきているといいます。
例えばカナダではモントリオール美術館やロイヤルオンタリオ博物館がそれぞれ医師会などと提携して医師が患者に鑑賞体験を処方できるようにしているといいます。
モントリオール美術館なら最大で年50枚の処方箋を出すことができ、認知症や糖尿病など対象は広く、患者は家族や介護士らと一緒に無料で展示を楽しめる形です。
こうした動きは台湾などでも実施されており、徐々に広がりを見せているようですね。
対話型美術鑑賞会は私も2回ほど参加をさせてもらったことがありますが、非常に有意義な時間でした。
その時は1時間の中で2枚の絵を見たのですが、あっという間に1時間が過ぎてしまった印象ですね。
まずはタイトルや作者など、何の事前情報、補足情報もない状態で1枚の絵をじっくり観ます。
そこから感じたことなどをシェアしつつ、コンダクターの方の投げかけから、ある部分にフォーカスをしてみたり、また絵が描かれた背景や年代、その意味を考えてみたり、といった具合です。
美術館で絵を観る時は基本的にタイトルや作者などが分かったうえでそれを目にするので、目の前にあるものを受け止めるような感じです。
それに対して鑑賞会では全く違ったアプローチで絵を観たわけですが、それが非常に新鮮でしたね。
またコンダクターの方からの投げかけ、他の鑑賞者の見方、感じ方、そういったものに触れながら絵を見ていると、1枚の絵から見えてくるもの、感じられることが大きく広がっていくのを感じました。
そんな感じで1枚の絵を題材にしながら様々なおしゃべりをしたあとで、コンダクターの方が絵についての解説をしてくださるのですが、先のようなプロセスを経てからそれを聞くことで一層理解が深まります。
同じ絵を目にしても、自分一人でこれを観るのと、先のような形で鑑賞するのとでは、そこから受け取るもの、感じ方は全く違ったものになります。
私が参加をした場は認知症の方を対象にしたものではありませんでしたが、鑑賞と対話を通じて脳にいろいろな刺激があっただろうことは合点がいきますね。
コンダクターの方がいてこそ成り立つ場ではありますが、このようなアプローチや場が広がっていけば良いなと思います。
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