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水産業にもっとDXを。漁師団体とITベンチャーが目指す水産業の未来。

「水産業のDXは遅れている」「漁業にIT?」

そうお考えの方も多いのではないでしょうか。

そんなイメージに風穴をあけるべく、2021年3月、東北の若手漁師集団フィッシャーマン・ジャパンと漁船ITベンチャーのライトハウスが業務提携を交わしました。

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これまで、フィッシャーマン・ジャパン(FJ)は、宮城県石巻市を拠点として、新3K(=かっこよくて、稼げて、革新的)産業としての水産業の実現を目指してきました。漁師や漁協、水産加工会社と連携し、水産業の流通革命や人材不足解消に取り組んできます。

一方、ライトハウスは、漁船ITベンチャーとして、漁師の目となる漁撈機器「ISANA」を開発。まき網・ひき網漁のコミュニュケーション不全を解消し、漁業の効率化を進めてきました。他にも、web施策を活用した人材採用サービス「WaaF」を立ち上げるなど、テクノロジー活用による水産業の課題解決に取り組んできました。

両社が、お互いの強みを生かしたアプローチで水産業の課題解決に挑むために結ばれた業務提携。では、業務提携によって解決できることがどう変わるのか。そして、両社が提携して実現したい水産業の未来とは一体どんなものなのか。一般社団法人フィッシャーマン・ジャパンの事務局長を務める長谷川琢也さんと株式会社ライトハウスの代表である新藤克貴さんの二人にお話を伺いました。


出会いはよちよち時代から。

ーー業務提携を結び、今ではもう息ぴったりのご様子。そもそもお二人はどこで出会ったんですか?

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長谷川:出会いは本当偶然だよね。今から5年前になるのかな。たまたま北九州の離島の仕事で船が一緒になったの。その時のライトハウスって、創業したばかりでサービスやプロダクトとかを定めていない時期だった。

新藤:そうです。模索の真っ只中でしたね。

長谷川:当時、大小問わず、漁師のIT化を進めようという企業は多かったんだけど、どこもうまくいってなくて。だから、最初はこの子達大丈夫かなって心配だったの。でも、ライトハウスはどんどん大きくなっていって、いろんな案件で顔を合わせることも増えて。それで自分が担当していたメディア、「Gyoppy!」でインタビューを依頼したんだよね。

新藤:インタビューの依頼自体は2年くらい前にも受けていたんですけど、その時は一度お断りしたんです。まだ発表できることが少なかったので。当時は、ISANAという私たちのサービスのシェアを漁師の中で広げていくことに注力していました。だから、初めてインタビューの依頼を受けたときには、ISANAの導入実績もあまりなかったんですね。

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そこから巻き網や船曳の漁師さんに営業をかけ、全国の約700隻の船でISANA使ってもらえるようになりました。ISANAを導入していく中で、漁師からも相談を受けることも増えました。今後自分たちが何をやっていかなければならないのかもはっきりしたので、Gyoppy!の取材を受けたんです。

長谷川:その取材は俺が担当したんだけど、取材中に「一緒にやろう!」って盛り上がっちゃったんだよね。まず俺がかっこいいなと思ったのは、「未知を拓く」というミッション。LHは「海」という事業ドメインを決めるより先に、まずミッションを決めていた。だから、漁師が可哀想だなというよりも、不確実で課題解決の余地がたくさんあるから海に関わる、という姿勢がフェアでいいなと思ったんだよね。

新藤:そしてLHは、水産業をどうにかしようと考えた時に、まずは川上である漁師にアプローチすることを選びました。世界の人口が増えて需要が増える時、供給の価値は上がるはず。なので、生産者である漁師から攻めていく必要があるなと。

長谷川:漁師からアプローチしていくというのはFJも同じで。これまで、担い手事業など「漁師漁師漁師」と事業を進めてきて、最近になって、流通革命や加工会社と連携する流れも出てきた。生産の先の加工・流通のこともやらないと水産業は変わらない。そう思うタイミングがライトハウスとほとんど同じだったと思うんだよね。漁師から始まって、加工・流通もやろうというタイミングで俺たちは交差し始めた。だから、連携の話も盛り上がって、すぐ決まっちゃった。


お互いの強みを生かす連携の形。

ーー今回の連携の魅力はどこにあるのでしょうか。

新藤:一つは、連携することで、今の水産業に最適な仕組みを作ることができるかもしれないことですね。

海って未知の領域なので、不確実性が高いし、よくわからないんですよ。例えば、いままで、毎年同じような魚が獲れていたのに突然獲れなくなったりとか。その一方で、知らない魚がたくさん獲れるようになったりとか。予測はしているけれど、天気予報以上によくわからない領域だと思います。

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LHはそういう不確実な領域をデータによって可視化することに取り組んできました。「ISANA」も巻網の漁業データを取得して、漁師さんに見てもらいやすくする手段の一つです。

本当のところを言えば、漁業データを集めることで海の予測ができるようになるのが一番ですが、それはなかなか難しい。

だから、今の水産業には何か問題が起きた時にすぐに対応できる仕組みが必要だと思います。例えば、ある地域で魚が獲れなくなったら、そこで無理に漁業をしないで、魚が獲れるほうに人もお金も設備も動くというような仕組みです。そんな仕組みを全国、全世界でつくって、うまく資源を分配できればいいなと思っているんですよ。

そのためには、データで可視化するだけではなくて、人やお金といったリソースを寄せる上での地域内外の合意形成が必要になります。これはFJが得意とするところだと思っています。なので、LHとFJが連携することで、「漁業データの可視化」と「地域内や地域間の合意」が同時にできるようになり、今の水産業に最適な仕組みを作ることができるかもしれないと考えています。

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ーーおお。予測するのではなく、対応する仕組みをつくる。全国、全世界でその仕組みを作ることができたら、ここで獲れなくなったから廃業ということもなくなってくるわけですね。

長谷川:少し、FJの視点から考えると、FJはこれまで「新3K(=かっこよくて、稼げて、革新的な)」水産業を目指して活動していきました。でも、最近になって、これだけでは足りないのではないかと思っていて。個人的には「新3K +3S」を実現したいなと考えているんです。

ーー「新3K」、めちゃくちゃ好きなビジョンなのに変えるんですか。

長谷川:いや、変えるとかじゃなくて。今後FJとしては、「3S(=サステナブル、生産性、世代交代)」にも取り組んでいかないといけないと思っていて。

一つ目のSは「サステナブル」。もうこれは避けられないよね。ここ数年、まわりから「プラおじ(プラスチックおじさん)」(※)と呼ばれるようになったみたいに、磯焼け対策とか海洋プラスチックの問題に取り組んできた。これからも持続可能な水産業を目指す取り組みを増やしていかないとダメだと思う。

二つ目のSは「生産性」。漁師を増やすにも、零細な漁師が再生産されてしまっては、またすぐに減ってしまう。漁師個人なのか、船なのか、会社なのかはわからないけど、その地域にあった漁師の生産性を確実に上げていきたいね。

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最後のSは「世代交代」。これは漁師だけでなく、長谷川琢也、阿部勝太の世代交代も含めてね。父から子に、という形式的な世代交代ではなく、新3K的な考えを持った漁師や人が増えるような世代交代をして欲しい。

でも、これらの3Sを全部一つの団体がやるのは不可能。だから、パートナーを組むことで実現できたらいいなと思っているんだよね。


滅びるのは、魚が先か漁師が先か。

新藤:でも実は、水産業の現状を考えると、この連携では間に合わないかもしれません。

ーーええ!? さっきまですごい魅力的なお話だったのに。それだけ水産業の課題が根深いということですか?

新藤:そうですね。今、日本では新漁業法などで資源管理を進めていますが、それよりも、急速なスピードで魚が獲れなくなっています。場合によっては、2、3年後に日本の水産業は絶滅しましたっていう事態もありうると思っていて。

ーー2、3年後!?

長谷川:魚が絶滅するっていうわけではないけど、生業としての漁業の消滅はありうると思う。石巻の春の主要な漁業だった小女子なんて、今は水揚げゼロだよ。

新藤:ゼロってやばいですよね。今、自分のところにも廃業相談がかなりきていますし。そういう話を聞いていると、日本の水産業はもっとポテンシャルあるはずなのにって思うんですよ。

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市場経済でいうと、獲っている人が少なくて、資源が減っているんだったら、希少価値が増えるから価格が上がるのが普通じゃないですか。でも、いま価格上がってる話ってあんまりないんですよね。本当は魚が減って、希少価値が上がったら、価格があがって、魚が豊富になってきたらまた下がってっていう仕組みとしてはバランシングするはず。

それがいま、流通構造の歪みかなにかで、うまく回っていないところがあるんですよね。今のままだと別に魚がいなくなっても、魚価上がらなくて結局儲からないから、後継者もいなくなる。魚も減る、漁師も減るっていう、負のフィードバックグループが回ってる状況なんです。

ーー流通の歪みはなんで起こっているんですか。

新藤:売り手と買い手の関係から生じている歪みで、鮮魚を売り続ける限り、絶対に変えることができません。鮮魚は時間が経つにつれてどんどん価値が下がっていきます。だから、売り手は鮮魚を早く売るという選択肢しか持っていない。

一方で、買い手側は新鮮で高いうちに買って提供するというのもあれば、少し待って価格が下がってから買う選択肢もある。買い手側のほうが選択肢が多いんです。だから鮮魚は永遠に買い手側が強いんです。

長谷川:まさしくその通りで、鮮魚流通が一番辛い。鮮魚で頑張ろうって言っても、

①レアなのに、魚の値段が上がらない。
②寿司が一番高く、手をかければかけるだけ値段が下がっていく。
③旬の一番美味しい時期に一番安い。

というようなジレンマに直面する。みんな、旬の一番美味しい時期に秋刀魚が100円か90円かでブーブーいうくせにさ、マズイ時期に300円の冷凍秋刀魚買うんだよ。狂ってるでしょ。

新藤:だから、鮮魚一択だと弱いので、市場の状況をみて加工品・冷凍を厚めにしようとか、今回は市場的にはまだ需要の幅があるから鮮魚で出してもいいかっていう売り手側の選択肢をつくれるような状況にしないといけないと感じています。鮮魚がなくなればいいっていうよりは、売り手側にちゃんと選択肢をつくりましょうという意味で加工品をもっと強くしていきたいなと思っているんです。

長谷川:この流通の歪みを変えていかないと、魚も漁師も減って、どっちが先にいなくなるかみたいな話になるよね。

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コレクティブインパクトを目指して。

ーーこれから連携して、具体的にどんなことに取り組んでいくのでしょうか。

長谷川:まずは今連携している人材育成のレベルで、お金・ビジネスになるとか、漁師や地域を喜ばせてあげられたとか、いろんな面でよかったねとなるような結果を出したいね。

新藤:もちろん人材育成から進めていくんですけど、流通がないと人材育成も持続可能ではないとか、資源管理しないと魚いなくなっちゃうとか、人材以外の問題もたくさんあります。人材育成や流通、資源管理の全てを含めたモデルケースをつくりたいですね。

そのためにはもっとパートナーを増やさないといけないと思っています。水産の市場も大きいですが、製造業に比べたら1/10、1/100ぐらいのレベルだったりするので、その次元で他の会社と競争しててもジリ貧でしかなくて。

むしろ各社が組んで、水産業を他の産業より魅力的にするというスタンスでいけたらいいですね。水産業の中で喧嘩してても誰も幸せになりません。

長谷川:FJが立ち上がる時も、石巻のような小さな場所で魚屋と漁師ケンカしてる場合じゃない、みたいな話から始まっているから。

社会課題に対して個社で取り組んでいくのではなく、関係者が連携したコレクティブインパクトを作っていくべきだと思っていて。現場系の話はこの2社でできるとしても、資源評価をするにあたっては、今後アカデミックとの連携も必要になってくると思う。自分も今、海洋大の院生だからね。研究との連携は任せてよ。

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